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【読書】経済学には今、「人間らしさ」が必要だ
NewsPicks編集部
伊藤 言多摩大学大学院ルール形成戦略研究所 客員教授
人の心のクセを利用して行動変容を促す手法である「ナッジ」の行動変容効果は、実はそれほど大きくありません。主要なナッジの行動変容効果が、メタ分析(複数研究の統合的な統計解析)によって推定されています。 ・デフォルトナッジ(はじめから臓器提供するにチェックがついているようなオプトアウト型の選択構造にするナッジ)が最も強力であり、行動変容効果の中央値が50% ・労力を減らす、シンプル化する、他者の振る舞いと比較させるなどの代表的なナッジは、20%~25%の行動変容効果 ・自分がどう行動するかを他者に宣誓(コミットメント)させるナッジなど、認知(クールな理性的判断)に働きかけるナッジの行動変容効果は10%に満たない 出典:doi:10.1016/j.socec.2019.03.005 それだけではありません。最近出た別のメタ分析(n>2300万人)では、学術論文におけるナッジの行動変容効果は平均8.7%だが、実践場面で用いた(政府等のナッジユニットによって社会政策に適用された)ナッジの行動変容効果は平均1.4%であり、多くの人はナッジの実践上の効果を過大評価している可能性があります。 出典:RCTs to Scale. さらに、ビジネス課題の解決にナッジを機械的に適用してもうまくいかないことが多い点に注意が必要です。例えばUber社は、「このアプリを使わないと損します」と損失回避ナッジを用いたところ、結果としてロイヤルカスタマーの大きな反発を招いています。 このように、行動経済学やナッジを見よう見まねで機械的に適用しても、うまくいきません。重要なのは以下の2点です。 ①行動経済学などの学術的な知見をビジネスの施策設計に活かすための専門性を持った人材と協業する体制を構築する(Uberは行動科学チームを社内に組成し全社横断的に活動) ②ナッジが対象とする人の不合理性だけに着目しても、実践上は行動変容効果が平均1.4%程度と小さいため、人の不合理な心だけではなく、人の合理的な心を巧みに操作するためにこそ科学の知見を用いる(=説得力が高いコミュニケーションは何かを科学的に考える)必要があります。そのためには、行動経済学に限定せず、心理学、神経科学など人の行動に対して科学的にアプローチする学問領域全体(行動科学)の知見の活用が必要です。欧米はすでにこの流れです。
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