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日銀・植田総裁「基調インフレ上昇続けば利上げ」 ワシントンの講演で
山岡 浩巳フューチャー株式会社 取締役兼フューチャー経済・金融研究所長
当局側の事務方が原稿や想定問答を書く際には「メディアにどこを切り取らせるか」は当然気にします。報道されている発言も、当局側は「あくまで『物価に跳ねれば』と言っているのだからオーソドックスな政策運営の考え方の範囲内」と言うでしょう。一方で、受け止める側の相当数が「『緩和継続』を強調していたマイナス金利解除前とは変わってきたな」と受け止めるのも当然と感じます。
問題は、メディアを通じた刷り込みの手法を多用し過ぎると、メディアや市場が総裁発言の一字一句に過度に注目し、それがボラティリティを高めかねない、ということかと思います。
「普通の政策」に戻ったのであれば、説明も中央銀行としての「普通の説明」、すなわち、政策委員会から正式に公表される物価見通しと物価目標などの相対的関係を中心に据え、それ以外の発信は慎重に行うといったコミュニケーションに徐々に移行していくことが、長期的には望ましいと感じます。
【3分解説】円安が止まらない3つの理由
山岡 浩巳フューチャー株式会社 取締役兼フューチャー経済・金融研究所長
理由をいくつかに分けることはできても、結局は経済のファンダメンタルズが根源だと思います。米国があれだけ利上げをしても経済が強くインフレ率もなかなか下がらないので利下げができないというのは「ファンダメンタルズの強さ」と言えます。同様に、「日本は『緩和的環境が続きます』と敢えて強調しないと実体経済や財政が耐えられない」と市場が見透かしているのであれば、それもファンダメンタルズの一要素です。為替の議論をするのであれば、表層的な交換比率の奥にあるファンダメンタルズの差をどう埋めていくのかという政策論に繋げていくことが大事だと思います。
為替介入を容認=過度の市場変動なら―IMF幹部
山岡 浩巳フューチャー株式会社 取締役兼フューチャー経済・金融研究所長
そもそもIMFは、個別国の為替介入の認否を決める機関ではありませんし、そうしたことに巻き込まれるこてをIMF自身避けたがっています。
また、「変動相場制採用国の為替介入はあくまで急激な変動への対処として行われるべきであり、特定の水準防衛を目的とすることは不適切である」というのはIMFの一貫した立場であり、これまでも言い続けてきています。
このように、一局長の質疑応答での、さらにIMFとしての公式見解を繰り返す発言が「介入容認云々」と切りとられて報道されること自体が、日本における為替(というか、日本の場合は特に円ドルレート)を巡る議論の特殊性を感じます。ここまで為替介入がニュースになりやすい国は、フロート制を採る先進国でちょっと他に見当たりません。
実質賃金、プラスは夏以降か=リーマン時に並ぶ23カ月連続減―2月調査
山岡 浩巳フューチャー株式会社 取締役兼フューチャー経済・金融研究所長
「実質賃金の『前年比』プラス云々」という論争は、あまりサイエンスとして意味があるようには感じられず、多分に「作られた論争」という印象を受けます。
・まず、賃金は典型的な遅行指標ですので、インフレの進行局面で賃金上昇率が物価上昇率を上回ることはもともと困難です。実質賃金上昇率がインフレ率を上回るのは、多くの国々で「インフレ鎮静化局面」です。(今次局面の米国も。)
・また、計算上の問題として、本来重要なのは「レベル」です。たとえば、物価が急に2倍に(例えば指数が100から200に)上がり、その後指数が横ばいであれば1年後に前年比はゼロになります。一方で賃金が年率3%ずつキャッチアップすれば、水準では全然追いつけない段階であっても「前年比」はインフレ率を超えます。
・実質賃金を問題にするのであれば単月の振れで超えた超えないを議論することの意味は乏しく、中期的、趨勢的にどうかが重要です。その決定要因は日本経済全体の生産性や構造改革であり、そのコンテクストで議論していくことが有益と感じます。
給与デジタル払い、開始見通せず=解禁1年弱、長引く業者審査
山岡 浩巳フューチャー株式会社 取締役兼フューチャー経済・金融研究所長
ビジネスの可能性を広げる規制改革は、基本的に良い事だと感じます。
その上で、海外においてノンバンクのデジタルペイメントサービス経由の給与支払が伸びているケースは、実際には(東欧からの移民や出稼ぎ労働者の方々など)銀行口座開設が難しい方々を主なターゲットとするものが目立ちます。一方日本では、人口の10倍近い預貯金口座が存在するなど、既に銀行サービスが広く浸透しているという環境の違いがあります。
したがって日本では、ノンバンクのデジタルペイメントサービスが、(単なる「顧客囲い込み」の手段を超えて)銀行口座を超える利便性とネットワーク外部性を提供できるかが問われるだろうと思います。
日銀政策は「正常化すべき時」、財政への忖度不要-吉川東大名誉教授
山岡 浩巳フューチャー株式会社 取締役兼フューチャー経済・金融研究所長
さすがは吉川先生、と感じました。
非伝統緩和、とりわけ長期金利への介入の副作用として、わかりやすい事象として市場機能や中銀財務の問題が挙げられることが多いですが、これらは(決して重要でないとは言いませんが)副次的な問題です。本質的に考えるべきは、財政規律への影響などを通じた資源配分への影響であり、不確実性に対処する手段としてのマクロ政策の柔軟性への影響です。このような、短期的には見えにくいが本質的な問題をズバリと指摘しておられることに感服しました。
また、「賃金と物価の好循環」という掛け声に対する冷静な見方も、さすがと思いました。
人口7割のドイツにGDPで抜かれた日本「世界4位で騒ぎ過ぎ」と語る人たちが分かっていないこと
山岡 浩巳フューチャー株式会社 取締役兼フューチャー経済・金融研究所長
拝読致しました。実体験に照らしても、共感する所が多くございました。
・本当に円安は一時的と考える市場参加者が多数であれば、為替レートは直ちに円高方向の力が働く筈です。理論的に詰めて考えるほど、現在市場で形成されている為替レートを前提に考えざるを得ません。
・実際、IMFの各国の議決権を定める「クォータ」の計算式でも、(一部PPPも配慮はされてはいますが)基本的には市場為替レートに基づくGDPが主な決定要素とされています。
市場為替レートに基づくGDPが、国際機関のポスト取りなども含めた日本の様々なプレゼンスに影響を与えることは、リアリズムとして認めざるを得ません。その上で、では日本としてどういう価値を創っていけるかを考えていくことが必要と思います。
緩やかな円高・ドル安=日米金融政策に転機―24年の為替展望
山岡 浩巳フューチャー株式会社 取締役兼フューチャー経済・金融研究所長
「市場が効率的であればさまざまな予想(期待)は瞬時に現在のプライスに織り込まれるはずであるので、市場の先行き予測は困難である」ことは経済学の入門編で誰もが学ぶことですが、(プロ野球等と同じく)「先行きの予想」を求めたがるメディアが多いことも仕方ないとは思います。
例えば物価であれば、ある程度の慣性効果が働きますし川上物価が上がればどの程度のタイムラグを置いて川下に波及するかといった分析も可能で、金融市場のプライスよりは多少は予測しやすいはずですが、それでもここ数年は世界中で予測を外しまくっているわけです。「市場の先行き予測」といったものは、ある程度距離を置いて冷静に見る姿勢が重要と思います。
NORMAL
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