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米FRB 政策金利「据え置き」決定 早期利下げ慎重姿勢
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
Youtubeで記者会見全体を通して見ましたが、パウエル議長の発言はバランスの取れた内容であり、市場の一部に事前に懸念があったほどにはタカ派的なトーンでなかったと思います。
確かに、声明文では、年初来のインフレ率が想定以上に高いことを指摘した上で、記者会見の冒頭説明では、インフレ目標に収斂する動きに確信が持てるまでに以前の想定以上に時間を要することを認めています。また、本年中の利下げ回数のメドについても明言を避けました。
ただし、これらの見解は既往の講演等で既に明らかになっていた内容でもあります。
むしろ、今回の記者会見では、インフレが再加速して利上げを余儀なくされる可能性は低いとの見方を示したほか、労働市場の正常化が進んできた下で、今後は高い政策金利による労働市場への影響にも従来以上に注意すべきといった発言を行った点も注目すべきだと思います。
個人的には生産性の動きを巡る質疑も興味深く思いました。ウイリアムス副議長が、生産性の上昇ひいては自然利子率の上昇を根拠に、金融引き締めが想定ほど効果を発揮していないのではないかと主張していることを念頭に置いた質問でしたが、パウエル議長は否定的な考えを示しました。
その理由として、第一に、コロナ後に生産性は一旦大きく減速した後、足元で回復しているのであり、やや長い目でみれば一方的な動きではない点を指摘しました。第二には、潜在成長率の回復には生産性より労働投入の影響が大きいだけに、労働者が消費を増やせば、結果的には総需要と総供給のバランスは大きく変わらない点を挙げました。
いずれにしても、FRBによる政策運営は経済構造論と一定の距離を置くべきとの考えを示唆した点で、望ましいスタンスだと思います。
34年ぶりの円安水準で注目される「リパトリ減税」導入、6月の骨太方針に明記の可能性も
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
29日に円安が進行した際に、私が別のピックで既に取り上げたように、リパトリ減税は、円安の根源的な原因であるクロスボーダーの資本フローを反転させることが期待されます。
しかも、為替市場への介入や直接的な資本規制とは違って、政策の対象が主として国内企業になる点で国際金融市場や相手国の批判を受け難いほか、現在の局面では我が国の経済安全保障とも整合的に設計することが可能です。
米国の先例を見ると、為替相場への定量的な影響には賛否も分かれる面もありますが、この局面では市場の一方的な円安予想に?マークをつけるだけでも十分に有効だと思います。
一時1ドル160円台に 市場は政府・日銀介入への警戒感続く
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
経済政策としての是非はともかく、どうしても円安を止めたいとすれば、あとはクロスボーダーの資本フローに影響を及ぼしうる措置しか選択肢がないように思います。
まず、国内から海外への資本フローを抑制する上では、いわゆる円投投資に焦点を当てることが考えられます。
もちろん、IMFの加盟国である以上、国内の投資家に対して直接に対外投資を規制することは困難です。それでも、例えば円投のための為替スワップに関わる投資家のリスク管理に対して、監督当局がより厳格にチェックする姿勢を示すといった対応は、金融リスクの抑制という観点で合理化しうる面があります。
一方、海外から国内への資本フローを促進する上では、日本企業が海外に留保している利益を国内にリパトリすることに対して、税制面等で優遇を図ることが考えられます。
これは米国等に先例があるだけでなく、現在の日本にとってサプライチェーンの強靭化といった経済安全保障上のメリットによって合理化しうる面があります。
これらの措置では「投機筋」が対象から漏れるので意味がないとの反論もありそうですが、「投機筋」は一定の期間毎に利益を確定する必要がある点を思い出すことが必要です。
つまり、「投機筋」だけで持続的な円安を作り出すことはできず、上記のような「実需筋」による資本フローが提供する外貨の売り機会がなければ、ビジネスとして成り立たない訳です。従って、上記のような措置によって利益確定の機会が喪失するおそれを提示するだけでも、一定の効果が期待できるように思います。
いずれにしても、資本フローに影響を及ぼす措置は文字通りの「劇薬」であり、G7のメンバーである先進国として如何なものかという批判は当然に考えられますが、少なくとも国内では円安による「国力」の低下を憂う論調が強まっているだけに、むしろすんなり受け入れられるかもしれません。
日銀、政策金利を据え置き 決定会合、物価見通しは引き上げ
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
今回の展望レポートを前回と比較しつつ読んでみました。
まず、景気に関しては本年度についてやや慎重化したことが目立ちますが、主因は前年度後半のマイナスのゲタや自動車の供給制約であったと整理しており、将来に向けて持続性のある要因ではないとの考えを示唆しています。
加えて、リスクバランスチャートを見ても、本年度の経済成長率見通しはかなりばらついており、上記の下押し要因の影響についても見方が分かれていることがわかります。
一方、物価に関しては本年度について相応に引き上げたことが目立ちますが、主因は原油価格の足元での上昇であると整理しており、この点はMPMメンバーによる本年度のインフレ率見通しにおけるコアとコアコアとのギャップと整合的になっています。
一方、展望レポートで物価の先行きリスクを論ずる中で、賃金上昇から価格への転嫁をメインシナリオとしつつ、中小企業における賃金引き上げの持続性の不確実性や、総需要が弱含んだ場合の価格転嫁の困難化といった下方要素も取り上げられていた点はやや気になりました。
最後に、金融政策の運営については、展望レポートが当面は緩和的な金融環境の維持を示唆したことが重要です。ただし、日銀は政策金利が中立水準以下である限りは緩和的であると主張できる訳であり、この文言が追加利上げを全て排除した訳ではないことにも注意する必要があります。
為替介入は「例外的環境下のみ」 G7合意順守を―米財務長官
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
既に他のピッカーの方々が指摘されたように、米国政府が為替介入の容認を公言することは、金融危機のような非常事態でもなければ考えられないですし、イエレン長官の発言も従来の原則を確認しただけである点では、特に日本を念頭に牽制したと理解するのは行き過ぎのような気がします。
一方で、この発言を米国内での文脈として考え直してみると、別の側面も浮かび上がって来ます。
日本が仮に円買い介入を実施するということは、市場で代わりにドルを売ることを意味し、そのためには日本が外貨準備を取り崩す必要があります。この点は、米国の金融市場では、日本政府による米国債の売りに伴う長期金利の上昇の思惑を生ずるリスクがあります。
日本政府も、米国金利への影響を抑止するよう、市場外での資産売却を行うといった対策を講じるとは思います。それでも、米国政府が長期金利の上昇がこれ以上加速することを望まないとすれば、日本の為替介入が上記のような思惑を生む恐れは避けたいと思うかもしれません。
日銀、国債購入縮小の方法検討 事実上の量的引き締めへ移行
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
最近公表された主要な機関投資家の円債投資方針だけでなく、今回の日銀による金融システムレポートの内容を踏まえると、長期金利が不安定化するリスクは少ないとの理由で、MPMで国債買い入れの減額を議論することにはもっともな面はあります。
ただ、個人的には気になる点も残ります。
第一に、日銀も円安対策への貢献を求められる中で、日銀が、金融政策の本丸である利上げ方針への影響を回避する一方で、国債買い入れ方針を政府に差し出した可能性がある点です。もし、そうだとすると、将来に向けて前例となるリスクがあります。
第二に、実質的な量的引き締めに繋がり得る以上、なし崩し的に開始するのではなく、FRBやECBと同様に、国債買い入れの将来に向けた運営方針や最終的な着地の目処についても、合わせて示すことが望まれます。上記のように足元では金融市場の不安定化のリスクが少ないのであれば、そうした方針を予め示しておくのにむしろ良いチャンスといえます。
26年度、物価上昇2%に 金融政策は現状維持か―25日から日銀会合
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
3月MPMで「量的質的金融緩和」を解除した結果、今回の展望レポートには、これまではあまり意識する必要がなかった要素に注意する必要があります。
それは、個々のMPMメンバーが物価と景気の見通しを考える上で、政策金利の将来に向けたパスをどう想定しているかという要素です。
例えば、緩やかな利上げが進むと想定しても相応に高いインフレ率を見込むことと、政策金利が一定と想定した下で相応に高いインフレ率を見込むこととは意味合いが大きく異なります。また、後者の場合には、実際には利上げが進むことでインフレ率は結果として抑制されることになる可能性が高くなります。
日銀は、もはや普通の金融緩和に移行する以上、展望レポートの作成におけるMPMメンバーによる政策金利のパスの想定について、金融市場とどう共有するのかという課題に対応することも重要となります。
無視できない大きさの影響なら政策変更もあり得る=円安で日銀総裁
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
植田総裁が確認したように、円安を理由に追加利上げに踏み切るとすれば、円安が国内物価の基調を押し上げる可能性が高いと判断する場合になります。
現在の局面でそうした判断を下すためには、①円安圧力が当面持続しそうかどうか、②輸入物価の上昇が国内物価に波及するかどうか、がポイントになると思います。
このうち①については、日米の金利差だけでなく、国際商品価格の上昇や中東情勢の不安定化も、日本の経常収支の悪化見通しを通じて、金融市場では円安継続の思惑が続きやすいように見えます。
一方で②については、国内消費が力強さを欠く中で、企業がこれまでのように価格転嫁を進めることには懐疑的な見方もありました。しかし、賃上げの効果が実際の給与に徐々に反映する中で、家計のマインドに好転の兆しも見られ始め、価格転嫁の環境が維持されると考えることも可能となっています。
私自身は、海外経済の減速リスクや地政学的リスクも映じた内外資産価格の不安定化も踏まえると、4月MPMで連続利上げを行うのでなく、上記のポイントも含めた分析や議論を十分行なった上で、7月MPMで新たな見通しをもとに追加利上げを判断するのが良いと思います。
それでも、記事が取り上げた植田総裁のコメントを踏まえると、「リスクシナリオ」としての4月MPMでの追加利上げの可能性を念頭に置く必要も生じてきたように感じます。
中国のクリーンエネ過剰生産、抑制する必要=米財務長官
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
かつて中国は、自国市場を海外勢に開放する一方で、現地生産や技術移転を要求することで、海外の先進技術に急速にキャッチアップする戦略を活用していた面があります。いわば、新興国型のモデルです。
そうした手法が、東西対立の深刻化によって持続可能ではなくなった結果、自国で開発した技術をまずは自国市場で展開することで、研究開発費等の固定費を上手く回収し、価格競争力をつけた上で海外市場に進出するという戦略に切り替えつつある様に見えます。
こうした戦略も決して全て上手く行っているとは思いませんが、日本がG7の議長国であった際に問題視した風力発電のタービンやソーラーパネルだけでなく、マスリテール向けのEVでは成果を収めつつある様に思います。
米国だけでなく西側諸国にとっては、中国の新たな戦略を経済政策としてアンフェアであると批判することは難しいという悩ましさがあるように感じます。結果として、経済安全保障のロジックを持ち出さざるを得なくなっている訳です。
2024年世界経済成長率は3.2% IMF、見通しを上方修正
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
IMFによる記者会見をたった今liveで見ました。
3大経済圏のうち、米国に関して2024年の成長率見通しを2.7%と高めにおいた点については、年後半の利下げが前提となっている点に注意が必要です。
一方、中国は2025年にかけて緩やかな減速を見込んでおり、マクロ政策による下支えは期待できるが、不動産セクターの問題や東西対立による外需の低迷の影響を重視する考えを示唆しました。
また、ユーロ圏が潜在成長率に回帰するには2025年までかかるとの見通しを示したほか、この間の域内国間でのモメンタムのばらつきや金融政策のトレードオフの相対的な厳しさに懸念を示しました。
このほか、先進国全体では財政健全化が減速している点も問題視し、特に2024年は多くの国で選挙が行われることや、市場金利の上昇とインフレの減速による実質債務の増大のリスクがあることに注意を喚起しました。
子育て支援の財源、日銀ETFの分配金で代替 立憲民主党が法案提出へ - 日本経済新聞
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
ETFの買い入れは、広い意味での非伝統的金融政策の一部であった一方、日銀は買い入れ額を増加するたびに政府の個別認可(日銀法43条に基づくもの)をとっていたことにも注意する必要があります。
つまり、ある意味では、日銀にとって「他業」と位置付けられていた面がある訳です。その意味では、金融政策という「本業」の一環である国債買い入れとは分けて考えることもできます。
その上で、将来に向けて市場金利が上昇した場合にも、保有国債によって生ずる財務上の問題に対応するために、日銀はETFを保有し続け、配当やキャピタルゲインを確保すべきとの意見にももっともな面があることは事実です。
しかし、個人的には、日銀が保有するETFは別途の基金等に移管した上で、その活用は日銀の金融政策とは全く切り離した形で議論し決定することが望ましいように感じます。
為替市場について、米などの財務官・中銀幹部と頻繁に連絡=神田財務官
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
これまでは円安がじわじわと進んできただけにボラティリティが高まった訳ではなかったほか、市場が材料視する日米の金利差の背景が両国の中央銀行にとって各々合理的な政策運営による面が強かっただけに、為替介入の実施にとって納得感のある説明が難しかった印象があります。
これに対して、それ自体が決して望ましいことではありませんが、中東情勢に一層の不安定化のリスクが高まるようであれば、為替介入も、国際金融システムの安定維持の一環として合理化される余地が新たに出てきます。
今週のIMF・世銀総会では、記事が指摘するように日米を含む主要国の財務相と中央銀行総裁が意見を交わす機会が増えるだけに、議論の動向に十分注意する必要があると思います。
ECB、5月21─22日に金融政策の方向性や戦略見直しを議論
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
ECBにとっては、金融政策の長期戦略を見直すことの是非はともかく、6月理事会で想定される利下げ開始後の政策運営について考え方を整理しておくことは必要かつ重要だと思います。
何故なら、単にデータ依存かつ会合ごとの政策判断という方針を堅持するだけでは、外部環境の展開如何で、長期金利の不安定化と域内国間での国債利回りの乖離拡大を招くリスクがあるからです。
その上で、個人的には、2%の物価目標の妥当性を再検討するよりも、今回の大幅かつ急速な利上げが金融環境にどのような影響を与えたか、その波及効果やインパクトはECBの想定とどう異なったか、その理由は何かについて、理解を深めることを優先すべきだと思います。
アングル:日銀の国債買い入れ額、据え置き続く 減額へ需給動向を注視
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
日銀による国債買い入れについては、フローの需給との関係に加えて、金融環境への影響の面でストックの運営も重要な要素であると思います。
しかも、日銀の場合にはFRBやECBとは異なり、償還分の再投資をコミットしていないだけに、ネットの償還規模の運営をどうするかがポイントの一つとなります。
政府による今後の財政運営に不透明性が残る以上、今後に生じうる金融市場の過度な思惑のリスクを抑制する上では、例えば、ECBが行ってきたように、保有国債の当面の償還見通しを予め示すことで、グロスの国債買い入れの規模と対比しやすくすることが考えられます。
その上で、日銀の場合には、FRBやECBのように保有債券の減額を利上げと別な枠組みや方針で運営することが可能かどうかには依然として不確実な面が残るように感じます。
ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
6月理事会での利下げ開始は、先般公表された3月理事会の議事要旨で既に示唆されていた方向性であり、私も過去のピックで触れたように、、それ自体は新たな話ではありません。
その上で、今回のラガルド総裁の冒頭説明や質疑をもとに利下げ予告の背景を考えてみると、インフレの減速トレンドが明確であるだけでなく、景気への懸念が強いことが推察されます。
この点は、他のピッカーの方が指摘されたように、質疑の中で多くの記者が取り上げた米国との違いに関するラガルド総裁の回答に示されています。
つまり、ユーロ圏では、個人消費や設備投資が相対的に弱い上に、米国に比べて依存度の高い外需の回復も停滞し、さらには域内主要国の財政支出が縮小方向にある訳です。
物価安定のみが唯一の政策目標であるECBが、景気の先行きに対する懸念を主因に利下げに踏み切ることは、金融市場に対するコミュニケーションを複雑にしている面があります。
また、ECBの場合には、これから利下げを開始する一方で、PEPPによる保有債券の削減やLTROの返済の進捗等を通じて、いわゆる「量的引き締め」はむしろ加速していくことになります。両者のバランスをどうとって行くかも、今後の課題です。
FRB、バランスシートの縮小ペース減速へ準備 月間ほぼ半分に
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
今回の議事要旨の前半には、本テーマに関する最初の具体的な議論が記載されています。
超過準備がまだ高水準であるにも拘らず、現時点で議論を開始する主因は、記事が指摘するように、前回局面で短期金利の乱高下を招いたことのトラウマですが、今回はFRBが提供するリバースレポの利用動向に関する不透明性も要因となっているようです。
技術的に悩ましいのは、モーゲージ金利が高止まりしている結果、MBSの期前償還がFOMCによる以前の想定ほどに進まない点であり、最終的にSOMAによる保有資産の大半を米国債にする目標を達成するためには、MBSの市場売却といった手段も考慮せざるを得ない可能性があることです。
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