ホーム
26フォロー
86フォロワー
約10人に1人が「カスハラ」経験 相談ある企業は3割まで増加 厚生労働省の調査
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
カスハラへ対処をしない場合、企業は直接カスハラを受けた従業員から職場における安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求を受ける可能性があります。
以下では、カスハラが発生したケースで安全配慮義務違反が肯定されたケースと否定されたケースを紹介します。カスハラが起きたときに備えたマニュアル作りや実際にカスハラが起きたときの会社側からの支援、カスハラで傷ついた従業員へのケアなど、カスハラに対する体制を平時から整えておくことが重要です。
安全配慮義務違反肯定例(企業側敗訴)としては、安全配慮義務違反を肯定し1,300万円もの損害賠償義務が肯定された豊和事件(大阪地判令和2年3月4日)があります。施工管理業務に従事していた従業員が担当案件に関してクレームが発生する都度、現場監督や内装業者への直接謝罪や施工予定の調整、予定の調整が困難となった場合に自らの施行実施などをさせられていました。このようなクレーム対応に対して使用者側は特段の配慮せず、長時間労働を放置していた結果、うつ病を発症してしまった点につき、長時間労働が発生し得るクレーム対応に対し適切な配慮をしなかったとして、安全配慮義務違反があると認定されました。
安全配慮義務違反否定例(企業側勝訴)としては、NHKサービスセンター事件(横浜地判令和3年11月30日)があります。コールセンターで電話対応をしていた従業員が、わいせつな電話を受けていたにもかかわらず適切な対応がなされなかったとして訴えが起こされました。一方、NHK内部では二回目以降のわいせつ電話に対しては従業員判断で電話を切ることができるといったマニュアルや、上席への転送依頼もかけることができるようルールを策定しており、カスハラに対する自動音声切替の体制があることや、メンタルヘルス相談の制度なども構築していたことから、カスハラ対策はきちんと行えていたとして、安全配慮義務違反が否定されました。
離婚後の共同親権が可能に 改正民法が成立 77年ぶりに見直し
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
子どもの福祉に適う制度としては、養育費の立替払いと国による徴収制度を優先的に導入してほしいです。日本人で離婚した別居親の四分の三程度は養育費を支払っておらず、子どもの貧困に直接影響していると考えられます(児童の権利条約に基づく審査でも、子の養育費についてはたびたび指摘がされており、困窮する同居親への社会的援助の必要性がいわれています)。
せっかくなので諸外国の養育費制度を紹介します。いずれの国も、行政による立替払と別居親への国からの請求が制度として用意してあります。
アメリカでは、社会保障給付として同居親に直接養育費を公的機関が支給をし、養育費相当額を別居親から給与天引や税金還付との相殺の形で強制徴収する形をとります。
スウェーデンでは、自由な協議により一定の養育費を同居親と別居親で決定をし、当該養育費の水準が公的基準に満たなかったり、任意での支払が滞っている場合には公的機関が直接養育費を同居親に養育費を立替払いをし、親同士で決めた支給額の限度で行政が別居親から徴収する形をとります。
フィンランドでは、別居親が養育費を支払わない場合には、公的機関から養育費手当が支給されます。行政は、別居親から養育費相当額を徴収しますが、フィンランドでは国民の財産が日本よりも厳格に政府から把握されており、実効的な給与天引きなどの強制執行手続により養育費相当額が回収されます。
イギリスでは、養育費の公的水準が決められており、別居親からの養育費支払額が当該水準に満たない、又は一切支払がない場合には、公的機関が同居親に対し養育費を支給し、行政が別居親から徴収する形をとります。このとき、CMSによる給与天引や強制執行を行うことができます。
ドイツでは、別居親が養育費を十分に支払わない場合には、養育費立替払い制度によって国から最低養育費の金額の支給を受けることができ、行政が別居親から徴収する形をとります。
フランスでは、未払の養育費がある場合には、その前払として行政が家族支援手当を同居親に支払い、行政は別居親に対して養育費の取り立てを行い、取り立てにあたっては強制執行を実施することもできます。
韓国では、養育費の未払があった場合には養育費一時緊急支援という給付を受けることができ、また養育費を支払わない別居親に対しては養育費直接支給命令という制度により給与天引きの形で強制徴収が可能です。
副業したいけど動けない理由は何? 研究員が調査結果を明かす
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
この記事とはちょっと趣旨が違っちゃうんですが、副業先と本業の労働時間管理の通算制度が難解であることも原因かなと思います。
労働基準法第38条第1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」とされていて、例えば本業先で8時間労働をした後に副業先で2時間労働をした場合には、その2時間は時間外労働とされ、副業先は2時間しか働いてもらってないのに時間外割増賃金を支払う必要があります。すなわち、本業先と副業先ではお互いの職場でどれだけ労働者が働いたかを常に連携していないといけません。
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定(令和4年7月)により、より簡便な労働時間通算の管理モデルなども提示されましたが、これが使いやすいかといわれると労働需給が読めない人手不足の時代ではまだまだ使いやすいとは思えません。
また、スキルを活かして副業をする場合には同業種につくことが想定されますが、営業秘密管理などの観点では課題がまだまだ残ります。副業ができるスキルフルな人ほど重要な企業秘密を持っている可能性が高いからです。
AI発明の新技術、特許と認めず 東京地裁「人間に限定」
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
生成AIが作り上げたものには、特許を受ける権利に限られず著作権も認められません。
AIによる生成物と著作権については文化審議会がすでに立場を明らかにしているように、AIは自然人ではなく「著作物を創作する者」には該当しないため、「著作者」たりえず、AIによる生成物に著作権は発生しません(「AIと著作権に関する考え方について」令和6年3月15日 文化審議会著作権分科会法制度小委員会39頁)。
これと同様に、特許法第29条第1項柱書は、「産業上利用することができる発明をした者」は特許を受けることができると定めていますが、AIは自然人ではないため「発明をした者」に該当せず、AIによる生成物に関しては特許を受ける権利は発生しません。
この点について、仮にAIによる生成物に著作権や特許を受ける権利の発生を認めた場合、AIによる生成物の知的財産権の権利者は誰なのか?(AI開発者?AIに指示を与えた人?AIに法的人格でも認めるの?)という議論が巻き起こります。AI開発者ということになれば、AIが世に広まるにつれてAI開発者にあらゆる知的財産権が集約されることになり、AI開発者の許可がなければおよそあらゆる生成物の利用ができなくなります。これは、著作権法や特許法の背景思想が許容しているような社会ではないですし、AI開発者があらゆる知的財産権を独占する一種の独裁社会ですらあると思っています。また、AIに指示を与えた人に権利を付与すれば、大電力でAIに絵や文章や音楽を生成させ続けた人間にあらゆる創作や発明に関する権利が集約されてしまいます。
著作権法や特許法は、創作的な活動や発明をした人の労へ報い、社会が健全に成長するためにある法律です。これを踏まえれば、裁判所の判断は妥当そのものですし、今後も容易に変えるべき点ではないと考えます。
LIFULLが「老卒」採用。65歳以上雇用、トヨタも本格着手
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
これは人事担当者向けのトピックなのですが、定年前にその会社に就労していなかった定年年齢以上の高齢者を雇用するときは、第二定年制を導入し、老卒向け定年を就業規則上用意した方がいいです。
それというのも、定年年齢以上の労働者の無期転換権行使を防止するにあたっては、専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法に基づく第二種計画認定を利用するのが通常ですが、第二種計画では定年前にその会社で働いていなかった労働者の無期転換権行使を阻止できません。
何を言っているのかというと、別の会社で働いていた定年年齢以上の老卒者であって、5年以上働いて契約が有期契約更新されたことのある労働者は、無期転換権を行使できてしまうので、亡くなるか身体機能が衰え労働能力が真に喪失するまで雇用を継続しなければならなくなります。たいていの会社が考えている老卒採用は、短期間の雇用契約の更新によって会社が切りたいとき切るような制度だと思いますので、日本の無期転換権制度と相容れないことが出てくるでしょう。
老卒採用向けの就業規則上のルール整備までしている会社はおそらくほとんどないので、今後課題になってくると思います。
「アディダス」VS「トム ブラウン」のストライプ商標権侵害訴訟、第二ラウンドも「トムブラウン」に軍配
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
日本でもアディダスの三本線商標(登録第4913996号)と、株式会社ニッセンホールディングスの四本線商標で訴訟になったことがありまして(知財高裁平成24年11月15日)、このときもアディダスが勝訴しています。
三本線のような非常に単純な商標は、通常であればその会社固有のブランドを意味するものではないと判断され(我々はよく「希釈化」と表現します)、他社による商標利用が許容される傾向にあります。しかし、アディダスは「希釈化」対策を昔から巧妙に実施し続けており、世界中で度重なる訴訟(二本線や五本線のケースもあります)を繰り返し、勝ったり負けたりを繰り返しつつも、三本線はアディダスのブランドであることを世界中の人々に意識づけることに成功し、実際に商標を巡る訴訟でも勝訴の数を増やしつつあります(個人的には担当している弁護士の腕も非凡なんだろうと思っています)。
アディダスの真似はなかなかできないことですが、商標の世界ではいかにブランドイメージを固有のものとして消費者に意識づけるかが決定的に重要なことを思い出させてくれます。
立憲民主党が「脱糞民主党」の誹謗中傷に刑事告訴も不起訴処分 公党の民間人訴えに物議
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
確かに政党による名誉棄損の刑事告訴の案件は珍しいですね。ただし、政治家を原告とする名誉棄損訴訟(民事)自体は1990年代以降増えていて、2000年以降は10年間あたりで5~60件くらい名誉棄損訴訟が起こされています。政治家が原告の名誉棄損訴訟の勝訴率も50%を超えていて、特に2010年以降は原告政治家の勝訴率が非常に上がり、損害の認容額も上昇傾向です。政治家全体の「名誉棄損」に対する意識はここ30年で敏感になっているものと思われます。
古くは中曽根元総理や森喜朗元総理が原告としてメディアを訴えており、その後は党派に関係なく政治家が原告となる名誉棄損訴訟は増加していきました(山田隆司 2020年「政治家の名誉毀損訴訟 ―対メディア型における司法判断の経年調査―」『創価法学』50(2) 73-88頁 がより詳細です)。
【退職代行は“正義”なのか?】若者の働き方に飛び交う「やさしさ」、本当に自分のためとなる選択とは
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
非弁護士による退職代行には、トラブル発生時の対応力の問題から手放しで賛同はできないと思っているのですが、記事にあるように、どうしても自分の力で退職の意思を示せないときの手段として人の手を借りるのはやむを得ないし、手を借りることで助かる命があるというのはうなずけます。
どんなに心と身体が強い人間でも、一度心身に不調を来たせば本人や周りが思っている以上に脆くなりますし、適応障害を始めとする精神的な不調で他者に自分の意思をはっきり伝えるのが困難になり、そのまま自分を追い詰めて病状が悪化するのは世の中でかなり頻繁に起きていることだと思います。
会社起因でそういった状態に追い込まれてしまった場合には、労働災害と判断される可能性もありますので、会社側にとっても思わぬ損害を招く可能性があり、労働者のストレス管理はどこまで注意をしても注意しすぎないことはないと考えています。
退職したいと伝えたら“陰陽師代120万円”を請求され……退職代行会社が明かす、本当にあった怖い会社
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
陰陽師代はもうめちゃくちゃですが、従業員が会社側と揉めて何らかの請求をされている場合には、ただ退職をしただけでは会社からの請求は止まらないことがあります(少なくとも私が会社側の代理人なら無条件でそんな手ぬるいことはしません)。
退職代行に頼みさえすれば揉めている状態でも安心して退職できるかのような表示は誤解を招くのであまりいいものとは思えませんね。
弁護士ではない退職代行事業者はそもそも弁護士法の規制がありトラブルには一切介入ができず、退職の意思表示を使者として伝達する以上のことはできません。退職をしたい人にどんなトラブルが起きようがお構いなし(にならざるを得ない)となりますので、退職代行を利用したい方はその辺も含めてよく考えた方がいいです。
衝撃の異物混入、「超熟」食パンにクマネズミの一部が入ってた…購入者は「慰謝料」もらえる?
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
異物混入にもさまざまなパターンがあり、骨片など原材料からのコンタミが想定できるようなものであれば製造物責任法上の製造上の欠陥に該当しないと判断されることもあります(別途指示・警告上の欠陥に該当する可能性はあります)。一方、原材料等からの混入が考え難い異物の食品混入は、製造上の欠陥に該当するとして、製造物責任法上の責任を負う可能性が高まります。ネズミの混入は製造上の欠陥に該当し得る典型例だと考えられます(製造後の流通過程で混じっていたのであれば話は別ですが)
ただし、異物混入という事実はショッキングですが、そこから治療が長期間に渡るような具体的な健康被害が生じたことを立証できないと慰謝料額は僅少になりがちで、例えばファストフード店で購入したジュースにガラスのようなものが混じり喉をケガしたような事案(名古屋地判平成11年6月30日)では、損害として認められた慰謝料額は5万円でした。
「お前、何様だ」2時間怒鳴る 会社間のカスハラめぐる異例の裁判
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
取引先から行われるハラスメントに対し、ハラスメントを受けた従業員側により、自身の雇用主の安全配慮義務違反(どうしてハラスメントをするような取引先から適切に守ってくれなかったのか)が問われるケースはこれまで多く見られました。その雇用主が取引先に対し毅然と法的措置をとるケースは、従業員がその雇用主に対し責任追及をする例に比べれば稀であると考えます。
安全配慮義務違反の観点から雇用主に落ち度があったケースにせよ、雇用主も自身の雇用する従業員を傷つけられており、雇用主もその意味では被害者であるといえます。本件については係争中であるため特段コメントはできませんが、カスハラに関しては、ハラスメントを直接受けた従業員もその雇用主も、被害者として泣き寝入りすることが減っていってほしいです。
GW明けが「最も忙しい」 依頼殺到 退職代行サービスの今
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
本来、無期雇用契約は2週間前に辞める旨を会社に伝えればいつでも辞められるはずなんですが(民法627条第1項)、実態としては以下の2点のような悩みに直面している労働者が多いことを退職代行業者の隆盛が示していますね
①会社が納得してくれないと辞められないと思い込んでしまっている
②退職の話を切り出すこと自体が精神的に難しい
どうしても会社を辞めたいときは内容証明郵便で退職の意思を会社に示してしまえば自分でも似たようなことはできてしまいますので、会社をどうしても辞めたいときに自分だけでもできることとして知っておいてもらえると幸いです。
また、弁護士ではない事業者は代理人はなれず、退職代行利用によってトラブルになった場合の交渉などは行ってもらえません(弁護士以外の退職代行事業者がトラブルに関して交渉をした場合には弁護士法違反となります)。退職代行を利用したいと思い悩むほど会社との関係が悪化しており、退職に伴いトラブルの発生が目に見えているケースでは、退職代行を受任してくれる弁護士に依頼するほうが安心できます、宣伝とかではなく。
米FAA、ボーイング787の調査開始 検査記録改ざんの可能性
松下 朋弘ユニヴィス法律事務所 弁護士
一般論ですが、事案の軽重を問わず事業者として不正や不祥事を追及された場合には、客観的な証拠が表に出てしまえば言い訳ができなくなることが分かっていたとしても、その事実を認める言説を表に出せない状態になりがちです。
これは、企業経営においてリスクコミュニケーションの専門性が本邦に限らず軽視されてきたことの証左だと考えます。企業における不正や不祥事のリスクコントロールは、最終的に行政などの権力主体が強硬手段をとり、不正が明らかになる蓋然性とその場合のリスクを考える必要がありますが、こうしたリスク分析に慣れている職業は、弁護士などの一部専門家に限られており、端的にいえばもっと私たちを頼ってほしいなと思っています。
NORMAL
投稿したコメント