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「ボヘミアンな科学者」の遺言状
NewsPicks Studios
飯嶋 秀治九州大学 教授・人間環境学研究院人間共生システム兼統合新領域学府ユーザー感性スタディーズ専攻
グレゴリー・ベイトソンは不思議な研究者だ。イギリス、オクスフォードの名門に生まれ、生物学者として若くしてデビュー、その後民族学者として、ニューギニア、バリ等でエスノグラフィをまとめ、戦後は精神医学の民族学者に、そうしている間に、言葉の文脈の理解を追って、コミュニケーションの生態学者になってしまった。  佐藤良明さんはベイトソンの翻訳者にして、その思考を体得した第一人者で、ベイトソンが日本でこんなに読まれたのは佐藤訳の柔らかさに依るところも大きい。対談ではあまり自らを語っていないが、浅田彰・花村誠一との鼎談は本来中沢新一も参加予定だった(『ダブルバインドを超えて』)し、この数年で主要著作の岩波文庫化を果たすまでに、本人も東京大学を早期退職し、インディペンデント・スカラーになってしまった。 原著はアメリカで1970年代にスチュアート・ブランドらに影響を与え、東海岸のサイバネティクスが西海岸の『ホール・アース・カタログ』を経由して、シリコン・バレーを準備したが、佐藤さんの翻訳は1980年代に登場し2000年代までハードカバーの読者を獲得したが、その1人が吉本隆明だったし、対談のなかでは落合さんだったと語られている。この対談がNewsPicksというメディアで準備されたのも思想の分肢として興味深い。 まさか対談のなかで、佐藤さんのメタローグが準備され、生成AIの話にまで飛び出してくるとは。この対談で、ベイトソンがまた新たな文脈で語られる準備ができたかもしれない。新しい世代のベイトソン論としては、ドミニク・チェン等も言及している。資本主義の最中にありながら、その人間環境の関係に目を凝らすベイトソンの視点は、これからどこへ向かうのだろうか?
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