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為替介入は「例外的環境下のみ」 G7合意順守を―米財務長官
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
既に他のピッカーの方々が指摘されたように、米国政府が為替介入の容認を公言することは、金融危機のような非常事態でもなければ考えられないですし、イエレン長官の発言も従来の原則を確認しただけである点では、特に日本を念頭に牽制したと理解するのは行き過ぎのような気がします。
一方で、この発言を米国内での文脈として考え直してみると、別の側面も浮かび上がって来ます。
日本が仮に円買い介入を実施するということは、市場で代わりにドルを売ることを意味し、そのためには日本が外貨準備を取り崩す必要があります。この点は、米国の金融市場では、日本政府による米国債の売りに伴う長期金利の上昇の思惑を生ずるリスクがあります。
日本政府も、米国金利への影響を抑止するよう、市場外での資産売却を行うといった対策を講じるとは思います。それでも、米国政府が長期金利の上昇がこれ以上加速することを望まないとすれば、日本の為替介入が上記のような思惑を生む恐れは避けたいと思うかもしれません。
日銀、国債購入縮小の方法検討 事実上の量的引き締めへ移行
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
最近公表された主要な機関投資家の円債投資方針だけでなく、今回の日銀による金融システムレポートの内容を踏まえると、長期金利が不安定化するリスクは少ないとの理由で、MPMで国債買い入れの減額を議論することにはもっともな面はあります。
ただ、個人的には気になる点も残ります。
第一に、日銀も円安対策への貢献を求められる中で、日銀が、金融政策の本丸である利上げ方針への影響を回避する一方で、国債買い入れ方針を政府に差し出した可能性がある点です。もし、そうだとすると、将来に向けて前例となるリスクがあります。
第二に、実質的な量的引き締めに繋がり得る以上、なし崩し的に開始するのではなく、FRBやECBと同様に、国債買い入れの将来に向けた運営方針や最終的な着地の目処についても、合わせて示すことが望まれます。上記のように足元では金融市場の不安定化のリスクが少ないのであれば、そうした方針を予め示しておくのにむしろ良いチャンスといえます。
26年度、物価上昇2%に 金融政策は現状維持か―25日から日銀会合
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
3月MPMで「量的質的金融緩和」を解除した結果、今回の展望レポートには、これまではあまり意識する必要がなかった要素に注意する必要があります。
それは、個々のMPMメンバーが物価と景気の見通しを考える上で、政策金利の将来に向けたパスをどう想定しているかという要素です。
例えば、緩やかな利上げが進むと想定しても相応に高いインフレ率を見込むことと、政策金利が一定と想定した下で相応に高いインフレ率を見込むこととは意味合いが大きく異なります。また、後者の場合には、実際には利上げが進むことでインフレ率は結果として抑制されることになる可能性が高くなります。
日銀は、もはや普通の金融緩和に移行する以上、展望レポートの作成におけるMPMメンバーによる政策金利のパスの想定について、金融市場とどう共有するのかという課題に対応することも重要となります。
無視できない大きさの影響なら政策変更もあり得る=円安で日銀総裁
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
植田総裁が確認したように、円安を理由に追加利上げに踏み切るとすれば、円安が国内物価の基調を押し上げる可能性が高いと判断する場合になります。
現在の局面でそうした判断を下すためには、①円安圧力が当面持続しそうかどうか、②輸入物価の上昇が国内物価に波及するかどうか、がポイントになると思います。
このうち①については、日米の金利差だけでなく、国際商品価格の上昇や中東情勢の不安定化も、日本の経常収支の悪化見通しを通じて、金融市場では円安継続の思惑が続きやすいように見えます。
一方で②については、国内消費が力強さを欠く中で、企業がこれまでのように価格転嫁を進めることには懐疑的な見方もありました。しかし、賃上げの効果が実際の給与に徐々に反映する中で、家計のマインドに好転の兆しも見られ始め、価格転嫁の環境が維持されると考えることも可能となっています。
私自身は、海外経済の減速リスクや地政学的リスクも映じた内外資産価格の不安定化も踏まえると、4月MPMで連続利上げを行うのでなく、上記のポイントも含めた分析や議論を十分行なった上で、7月MPMで新たな見通しをもとに追加利上げを判断するのが良いと思います。
それでも、記事が取り上げた植田総裁のコメントを踏まえると、「リスクシナリオ」としての4月MPMでの追加利上げの可能性を念頭に置く必要も生じてきたように感じます。
中国のクリーンエネ過剰生産、抑制する必要=米財務長官
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
かつて中国は、自国市場を海外勢に開放する一方で、現地生産や技術移転を要求することで、海外の先進技術に急速にキャッチアップする戦略を活用していた面があります。いわば、新興国型のモデルです。
そうした手法が、東西対立の深刻化によって持続可能ではなくなった結果、自国で開発した技術をまずは自国市場で展開することで、研究開発費等の固定費を上手く回収し、価格競争力をつけた上で海外市場に進出するという戦略に切り替えつつある様に見えます。
こうした戦略も決して全て上手く行っているとは思いませんが、日本がG7の議長国であった際に問題視した風力発電のタービンやソーラーパネルだけでなく、マスリテール向けのEVでは成果を収めつつある様に思います。
米国だけでなく西側諸国にとっては、中国の新たな戦略を経済政策としてアンフェアであると批判することは難しいという悩ましさがあるように感じます。結果として、経済安全保障のロジックを持ち出さざるを得なくなっている訳です。
2024年世界経済成長率は3.2% IMF、見通しを上方修正
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
IMFによる記者会見をたった今liveで見ました。
3大経済圏のうち、米国に関して2024年の成長率見通しを2.7%と高めにおいた点については、年後半の利下げが前提となっている点に注意が必要です。
一方、中国は2025年にかけて緩やかな減速を見込んでおり、マクロ政策による下支えは期待できるが、不動産セクターの問題や東西対立による外需の低迷の影響を重視する考えを示唆しました。
また、ユーロ圏が潜在成長率に回帰するには2025年までかかるとの見通しを示したほか、この間の域内国間でのモメンタムのばらつきや金融政策のトレードオフの相対的な厳しさに懸念を示しました。
このほか、先進国全体では財政健全化が減速している点も問題視し、特に2024年は多くの国で選挙が行われることや、市場金利の上昇とインフレの減速による実質債務の増大のリスクがあることに注意を喚起しました。
子育て支援の財源、日銀ETFの分配金で代替 立憲民主党が法案提出へ - 日本経済新聞
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
ETFの買い入れは、広い意味での非伝統的金融政策の一部であった一方、日銀は買い入れ額を増加するたびに政府の個別認可(日銀法43条に基づくもの)をとっていたことにも注意する必要があります。
つまり、ある意味では、日銀にとって「他業」と位置付けられていた面がある訳です。その意味では、金融政策という「本業」の一環である国債買い入れとは分けて考えることもできます。
その上で、将来に向けて市場金利が上昇した場合にも、保有国債によって生ずる財務上の問題に対応するために、日銀はETFを保有し続け、配当やキャピタルゲインを確保すべきとの意見にももっともな面があることは事実です。
しかし、個人的には、日銀が保有するETFは別途の基金等に移管した上で、その活用は日銀の金融政策とは全く切り離した形で議論し決定することが望ましいように感じます。
為替市場について、米などの財務官・中銀幹部と頻繁に連絡=神田財務官
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
これまでは円安がじわじわと進んできただけにボラティリティが高まった訳ではなかったほか、市場が材料視する日米の金利差の背景が両国の中央銀行にとって各々合理的な政策運営による面が強かっただけに、為替介入の実施にとって納得感のある説明が難しかった印象があります。
これに対して、それ自体が決して望ましいことではありませんが、中東情勢に一層の不安定化のリスクが高まるようであれば、為替介入も、国際金融システムの安定維持の一環として合理化される余地が新たに出てきます。
今週のIMF・世銀総会では、記事が指摘するように日米を含む主要国の財務相と中央銀行総裁が意見を交わす機会が増えるだけに、議論の動向に十分注意する必要があると思います。
ECB、5月21─22日に金融政策の方向性や戦略見直しを議論
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
ECBにとっては、金融政策の長期戦略を見直すことの是非はともかく、6月理事会で想定される利下げ開始後の政策運営について考え方を整理しておくことは必要かつ重要だと思います。
何故なら、単にデータ依存かつ会合ごとの政策判断という方針を堅持するだけでは、外部環境の展開如何で、長期金利の不安定化と域内国間での国債利回りの乖離拡大を招くリスクがあるからです。
その上で、個人的には、2%の物価目標の妥当性を再検討するよりも、今回の大幅かつ急速な利上げが金融環境にどのような影響を与えたか、その波及効果やインパクトはECBの想定とどう異なったか、その理由は何かについて、理解を深めることを優先すべきだと思います。
アングル:日銀の国債買い入れ額、据え置き続く 減額へ需給動向を注視
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
日銀による国債買い入れについては、フローの需給との関係に加えて、金融環境への影響の面でストックの運営も重要な要素であると思います。
しかも、日銀の場合にはFRBやECBとは異なり、償還分の再投資をコミットしていないだけに、ネットの償還規模の運営をどうするかがポイントの一つとなります。
政府による今後の財政運営に不透明性が残る以上、今後に生じうる金融市場の過度な思惑のリスクを抑制する上では、例えば、ECBが行ってきたように、保有国債の当面の償還見通しを予め示すことで、グロスの国債買い入れの規模と対比しやすくすることが考えられます。
その上で、日銀の場合には、FRBやECBのように保有債券の減額を利上げと別な枠組みや方針で運営することが可能かどうかには依然として不確実な面が残るように感じます。
ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
6月理事会での利下げ開始は、先般公表された3月理事会の議事要旨で既に示唆されていた方向性であり、私も過去のピックで触れたように、、それ自体は新たな話ではありません。
その上で、今回のラガルド総裁の冒頭説明や質疑をもとに利下げ予告の背景を考えてみると、インフレの減速トレンドが明確であるだけでなく、景気への懸念が強いことが推察されます。
この点は、他のピッカーの方が指摘されたように、質疑の中で多くの記者が取り上げた米国との違いに関するラガルド総裁の回答に示されています。
つまり、ユーロ圏では、個人消費や設備投資が相対的に弱い上に、米国に比べて依存度の高い外需の回復も停滞し、さらには域内主要国の財政支出が縮小方向にある訳です。
物価安定のみが唯一の政策目標であるECBが、景気の先行きに対する懸念を主因に利下げに踏み切ることは、金融市場に対するコミュニケーションを複雑にしている面があります。
また、ECBの場合には、これから利下げを開始する一方で、PEPPによる保有債券の削減やLTROの返済の進捗等を通じて、いわゆる「量的引き締め」はむしろ加速していくことになります。両者のバランスをどうとって行くかも、今後の課題です。
FRB、バランスシートの縮小ペース減速へ準備 月間ほぼ半分に
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
今回の議事要旨の前半には、本テーマに関する最初の具体的な議論が記載されています。
超過準備がまだ高水準であるにも拘らず、現時点で議論を開始する主因は、記事が指摘するように、前回局面で短期金利の乱高下を招いたことのトラウマですが、今回はFRBが提供するリバースレポの利用動向に関する不透明性も要因となっているようです。
技術的に悩ましいのは、モーゲージ金利が高止まりしている結果、MBSの期前償還がFOMCによる以前の想定ほどに進まない点であり、最終的にSOMAによる保有資産の大半を米国債にする目標を達成するためには、MBSの市場売却といった手段も考慮せざるを得ない可能性があることです。
FRB、インフレの進展停滞と金利据え置き長期化を懸念=議事要旨
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
今回の議事要旨のうち、物価に関する議論では、本年入り後の基調的物価の高止まりに懸念が示された一方で、記事が取り上げた移民の効果も含めて労働市場の需要超過が改善ししていることを確認したほか、季節調整の歪みの影響も示唆されるなど、比較的バランスの取れた内容になっていた印象を受けました。
むしろ興味深かったのは、個人消費の底堅さを確認しただけでなく、企業もセンチメントが改善し、設備投資の回復の兆しを指摘する意見が見られた点です。このような見方は、記事が取り上げたように、一部のFOMCメンバーが既往の利上げによる金融環境のタイト化が不十分との意見を表明したことと整合的です。
これらを全体としてみれば、FOMCが利下げ開始を急がない理由が、単に物価基調の高止まりだけでなく、景気も底堅く、従ってFRBの金融政策を取り巻くトレードオフが好転しているとの見方にも依存していることを示唆しています。
フィッチ、中国格付け見通し「ネガティブ」に下げ 成長にリスク
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
野村総研が中国のシンクタンクである中国金融40人論壇と共同で開催してきた「日中金融円卓会合」でも、過去にしばしば議論してきたテーマであり、決して新しい問題でないだけでなく、以前から予見可能な政策課題であったと思います。
各会合の議事要旨は野村総研のホームページで公表しています。両国の専門家による議論にご関心のある方は是非ご覧ください。
その意味では、問題の所在が明確になった後に、ずいぶん時間が経ってからそれを指摘することにどの程度の意味があるのか、個人的には疑問も少なくありません。
むしろ、意味があるとすれば、この問題に対してどのような解決策がありうるのかを考えることですが、その際にも中国当局が現実的に取りうる手段を理解した上で議論しなければ意味がありません。
例えば、日本のような枠組みの下であれば、問題の深刻な地方政府に対して中央政府が選択的に財政支援を行うことが有用という結論になりますが、中国のように分権的な枠組みの下ではそうした手段の活用には制約があり、その本格的な発動には大きなpolitical capitalが必要と見られます。
その意味では、中国の政府がこの問題の解決について、政治的な視点も含めてどの程度の優先度合いを付与するかが、大きなポイントであるように見えます。
米コアCPI、3カ月連続で上振れ-米利下げ後ずれの可能性
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
BLS の公表資料が示すように、前年比でみた総合インフレ率は本年入り後にむしろ緩やかに加速しているほか、同じベースでのコアインフレ率(除く食品、エネルギー)が緩やかに減速していると言っても、前月比では横ばいです。
さらにいえば、前年比でみたサービス価格の上昇率は5%を上回り、住居費を除いたベースでも4%台の後半です。つまり、コアサービスが総合インフレ率に大きく寄与する構造には変化がありません。
FRBが重視するのはあくまでもPCEインフレ率の基調であるとしても、少なくとも言えることは、今回のCPIインフレ率が早期の利下げ開始を正当化する内容ではなかったということです。
物価基調2%なら緩和縮小も=追加利上げ判断で―植田日銀総裁
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
日銀は、3月MPM以降の政策運営が、基調的物価の見通しが目標を安定的かつ持続的に達成しうるかどうかに依存すると表明しています。
今回の植田総裁の説明はこれに沿ったものであり、その意味で新しい内容ではありません。一方で、物価目標の達成見通しに対する確信が高まった場合に、どの程度のペースで金融緩和を縮小するかは、現時点で明らかにしていません。
もちろん、この点は日銀が意識的に曖昧にしている訳であり、金融政策の実際の運営では物価目標の達成だけに依存している訳ではないことを示唆しているように見えます。
この点で、日銀による金融政策の正常化は米欧に比べて難しい面があることに注意する必要があります。植田総裁の就任1年を迎え、主要なメディアでは高い評価が見られますし、私も同感ですが、難しい仕事はむしろ今後に残されているとも言えます。
アングル:ブラジル中銀肝いりの即時決済システム、クレカ脅かす急成長
井上 哲也野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 シニア研究員
中央銀行が導入したFPSが記事のとおりに成功を収めつつあるとすれば、それ自体、大変興味深い展開だと思います。
その要因を考える上では、クレジットカードや口座振替等の支払手段がどの程度普及していたのか、それらの決済手数料はどの程度で、実質的に誰が負担してきたのか、Pixの構築や運営のコストは中央銀行と民間事業者がどう分担しているのか、といった点を正しく理解する必要があります。
合わせて、記事にあるようにPixが定期的な支払や事実上の小口与信にまでサービスを拡大するのであれば、官民の役割分担のあり方も課題となります。
これらの要素については、日本とは状況が相応に異なる面があるように見えますが、それでも、全銀システムの将来像を含めて、FPSのあり方を考える上で有用な材料を提供することが考えられます。
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