星野リゾートの星野佳路代表へのインタビューを2回に分けて掲載する。国の2度目の緊急事態宣言にどう臨んだのか。星野代表は「経営環境は厳しいが、前の宣言時とは状況が明らかに違う。取り組みにはこの1年の蓄積が生きている」と強調する。今後の展望も含めて詳しく聞いた。

OMO7旭川のTシャツ姿でインタビューに答える星野リゾートの星野佳路代表(写真:船戸俊一)
OMO7旭川のTシャツ姿でインタビューに答える星野リゾートの星野佳路代表(写真:船戸俊一)

2021年1〜3月に国の2度目の緊急事態宣言が出され、宿泊業にとって厳しい状況が続きました。

星野佳路氏(以下、星野氏):前回の20年の緊急事態宣言でもキャンセルが出たが、今回はそのときと比べてもずっとその数が多かった。これはやはり、それだけ政府の観光支援策「Go Toトラベル」を利用して予約する人が多かったからだとみている。Go Toトラベルは全国的に一時停止となり、利用者からしたら宿泊代金が変わるため、大きなインパクトがあった。政府がキャンセル代を保証したこともあるだろう。

 星野リゾートの場合、お客様がせっかく旅行を計画してくださったのだから、キャンセルを受けるほか、「Go Toトラベルで約束したままの代金で宿泊」という形も用意して対応した。それでも1、2月はやはり厳しかった。地域別には、緊急事態宣言の短縮がなかった東京都など1都3県への依存度が高いところは落ち込みが大きかった。

1都3県の緊急事態宣言が終わり、今後についてはどうみていますか。

星野氏:このところ客室稼働率よりも予約数を注視してきた。直近の稼働率をみても落ちている原因はコロナ禍であるとはっきりしている。コロナ禍だから、緊急事態宣言だからとなるばかりで、客室稼働率から考えても次の対策に結び付かない。

 一方、予約数は今後の顧客の行動を示しており、今見るべき数字だと思っている。予約数を見ると、打った手がどのくらい効いているかが見えやすい。予約数の変化を見ながら次に打つ手も考えている。

 実は21年の3月の予約数は、最初の緊急事態宣言が解除になった20年5月と同じような傾向が少し前から出ていた。具体的には2回目宣言が解除されていないうちから解除を見込んで予約数が上がってきていた。このため、毎日入ってくるデータはしっかり確認している。

1年前とは状況は全然違う

コロナ禍での対応が長引いています。

星野氏:経営環境は厳しいが、20年の緊急事態宣言時と違うのは、ここまでの1年ほどでさまざまな経験をした蓄積があることだ。

 20年の宣言のときは、そもそも宣言によって感染者数が減少するかが分からなかったし、宣言の解除後に国内需要が戻るのかも分からなかった。その先にワクチンができるかどうかも分からなかった。

 それが20年の宣言によって感染拡大が抑えられ、解除後の20年の夏は実際に予約が戻った。海外旅行に出かけていた人たちが国内旅行に回帰したこともあり、国内需要は大きいことが分かった。そして効果のあるワクチンの接種が日本でも始まっている。もちろんまだまだはっきりしないことはあるが、それでも1年前と比べれば安心感があり、状況は全然違う。

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 星野リゾートは身近な場所を旅するマイクロツーリズムに力を入れてきた。それでもこの取り組みをスタートした20年6月、7月は3密回避の対策やマイクロツーリズムならではの提案のために少し慌てた。一方、21年は前回の蓄積があるし、マイクロツーリズムについてスタッフはよく理解している。経験値が上がっており、21年の緊急事態宣言では慌てずスムーズにマイクロツーリズムをさらに強化する態勢に入った。

マイクロツーリズムという言葉自体、広まった印象があります。

星野氏:例えば、九州の顧客は九州内の旅行にシフトし、界阿蘇(大分県九重町)は業績が比較的、順調に推移している。九州の観光はもともと首都圏への依存がそれほど大きくない。軽井沢にとっての東京と阿蘇にとっての東京はやはり違いがある。九州内での旅行の需要が相当あり、マイクロツーリズムによって需要を獲得できているのが大きい。

 また、トマム(北海道占冠村)では、半分ほどがマイクロツーリズム関連となっている。台湾では星のやグーグァンが絶好調だ。これは台湾の外に観光に出かける人がいなくなった分、台湾内での観光にシフトしているためだ。

国内をマイクロツーリズムの商圏によって11のエリアに分ける

 マイクロツーリズムについては20年の宣言解除後の反省も生きている。前回はこのマーケットに対してリーチする方法があまりなかった。今回は新たに全国各地の地元向けの雑誌などに対してQRコード付きの広告を掲載している。

 QRコードからは星野リゾートのウェブサイトにリンクしているが、リンク先は雑誌の発行エリアによって違う。

 例えば北海道の雑誌のQRコードは北海道にあるトマム、OMO7旭川(北海道旭川市)の施設の情報を掲載したページにつながっているし、北関東の雑誌のQRコードは界日光(栃木県日光市)やリゾナーレ那須(同県那須町)といった施設の情報を掲載したページにつながっている。国内をマイクロツーリズムの商圏によって11のエリアに分けており、車で2時間ほどで訪問できる施設を表示する。こうした体制を20年の秋以降、準備してきた。概念を理解し、魅力を整え、予約方法も整備。マイクロツーリズムという言葉もそれなりに浸透している。

OMO7旭川は北海道でのマイクロツーリズムに力を入れる。人気の旭川市旭山動物園をイメージした客室「シロクマルーム」も2020年10月に開設(写真:船戸俊一)
OMO7旭川は北海道でのマイクロツーリズムに力を入れる。人気の旭川市旭山動物園をイメージした客室「シロクマルーム」も2020年10月に開設(写真:船戸俊一)

マイクロツーリズムも含め、2020年4月から「18カ月間プラン」でコロナ禍に対応してきました。

星野氏:会社を維持できるようにしようと急ピッチで準備し、いろいろな手を打ってきた。1年ほどが経過し、今では効果のあるワクチンが登場し、接種が始まっている。20年4月からしたら考えられないような事態であり、明るいニュースだと捉えている。重症者の大半である年齢の高い人らへのワクチン接種が終われば、社会全体が今よりも落ち着いて状況を捉えるのではないか。

 ワクチン接種は夏ごろから年齢の高い人ら以外、一般の人にも始まる計画となっている。夏休み後にワクチンがある程度の人数分、接種されるだろう。当初想定した18カ月はちょうどそのころまでであり、結果的にコロナ禍からアフターコロナといえる状態になればいいと考えている。

アフターGo Toトラベルに向けた準備も必要

 Go Toトラベルキャンペーンの再開を期待するが、それだけでなくその先、キャンペーンが終わった後のアフターGo Toトラベルに向けた準備も進める必要が出てくるだろう。同時に、マイクロツーリズムからアフターコロナとしてインバウンドを少しずつ戻すことに力を入れ始める時期になっていくとみている。

政策面でどんなことを期待しますか。

星野氏:雇用調整助成金の延長は失業率を抑えるという点において、観光だけでなくすべての産業にとって大きい。コロナ禍の影響を受けた企業が人材を確保したまま、この危機を乗り越える政策になっている。コロナ禍が収束するまでの継続を望みたい。

 今後、Go Toトラベルを再開する場合については、Go Toトラベルが終わった後で急な需要の落ち込みがこないように、ソフトランディングするような政策を望みたい。例えば繁忙日をサポートするより閑散日をサポートすることや、Go Toトラベルによって3密となり感染が拡大することがないようにゴールデンウイークやお盆の期間を対象から外すなどの対策をとっていただくと、より効果的ではないか。

注目企業、星野リゾートの舞台裏を大公開――。
「事件が会社を強くする」(星野佳路代表)

ビジネスモデルが変わった地方の「グランドホテル」、結婚式の当日に起きた突然のアクシデント、 そして宿泊業に大きな影響を及ぼすコロナ禍……。

さまざまな「事件」を前に、星野リゾートのスタッフはどう考え、どう動いたか。

経理担当は踊り出し、
若手は畑を耕し、
ベテランは赤レンジャーになった!?


【本文より】

ユニークな戦略を次々に打ち出してきた星野にとっても、思いがけないアイデアだったのだろう。提案を聞くと、こう言った。

「それで大丈夫?」

だが、フラットな組織の自由な議論から出てきたアイデアに対して、スタッフの気持ちは前向きだった。(本書「崩れたスクラム」から)


事件と向き合った一人ひとりのスタッフの経験を、会社のナレッジとして蓄積していく……。そしてそのなかにダイヤモンドの原石のような大きなイノベーションの機会が隠れていると考えている。大事なのは、事件とは避けようとすべきことでなく、活用すべき体験である、ということだ。(本書「解説」=星野代表=から)


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