2021年3月13日(土)発売!
雑誌最新号「FOOD: re-generative(地球のためのガストロノミー)」

雑誌『WIRED』日本版は、年4回刊行。最新号VOL.40(3月13日発売)は、6年ぶりのフード特集。人々の食欲を満たしながら、土や自然との有機的なつながりを食に求めることは可能なのか。食のイノヴェイションを自然の大いなる循環に再び組み込んだ“未来の一皿”の可能性を探る。>>会員向けPDFなど詳細はこちら

東部標準時の1月13日水曜日午後8時ごろ、スペースXの宇宙船「カーゴ・ドラゴン」が大西洋のフロリダ沿岸沖に着水した。カプセルのような外観の宇宙船は、12時間前に国際宇宙ステーション(ISS)で3tに上る機器と補給物資の荷下ろしを無事に終了し、よりバラエティに富んだ荷物を積んで帰還した。

積荷の中には幹細胞、深宇宙における緊急航行用に設計された六分儀、地球上で心疾患の治療に役立てるためにつくられた組織片などが収まっていた。それらと一緒に積み込まれていたのが、メルロー種とカベルネ・ソーヴィニヨン種のブドウの320本のつるだ。つるは1本ずつ少量の土にくるまれ、蜂の巣状の小部屋に分かれた容器に慎重に収められていた。

しゃれたフランス産のブドウを宇宙軌道へ送り出すなど、大金をはたいた奇抜な宣伝のように思われるかもしれない。なんといっても、これまでにも特に正当な理由もなく食べ物が宇宙へ打ち上げられてきた長い歴史がある。いくつか例を挙げれば、タンドリーラムチョップチキンナゲット、それにスコットランドの伝統行事である「バーンズナイト」を祝うハギスが、気象観測気球にくくりつけられて地上30km以上へ飛ばされたこともあった。

だが、今回のブドウのつるはくだらないパフォーマンスの一環などではないと、この実験をおこなったフランスのスタートアップ、スペース・カーゴ・アンリミテッド(SCU)は主張する。同社はこの10カ月の間にISSの厳しい条件下で育てるために、ブドウのつるを(ボルドーの赤ワイン12本と共に)ISSへ送り出した。

これにより、地球よりもさらに厳しい条件の下でも生き残ることができるような丈夫な植物をつくりたいと同社は考えている。気候変動が悪化するなかで、増加し続ける世界人口に食糧を供給するための解決策は、宇宙のどこかで見つかるはずだと多くの民間研究企業は見込んでいる。SCUもその1社だ。

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重力の不在に植物はいかに対応するか

ラムチョップを無重力状態で浮かべることは別にしても、ISSで実施された科学調査のなかで、食品は長年にわたって主要な部分を占めてきた。NASAの「野菜生産システム(Vegetable Production System)」は、これまでにレタスや白菜、レッドロシアンケールの栽培に成功してきた。