住宅情報サイトだけでなく、様々なウェブサイトで不動産関連の鉄板記事となっているのが「持ち家か賃貸か」という議論だ。しかし多くの記事は結局、結論を出さないまま、読者に判断を任せて終わるものが多いように思う。しかし筆者が統計データを分析した結果、結論は明白だ。世の中の実態を見れば、持ち家に軍配が上がる。
 今回は、なぜ賃貸よりも持ち家のほうが優れているのかを考えてみたい。

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

 持ち家と賃貸のどちらが優れているかを考えるときに、よくいわれるのは以下のような点だ。

  • 前提条件をどうするかによって結果が大きく異なるので、持ち家と賃貸のどちらが経済的に得かは断言できない
  • 持ち家にも賃貸にも、それぞれメリットとデメリットがあるので、一概にどちらがよいとは言えない
  • コストだけではなく、将来の暮らし方など、ライフスタイルによって、持ち家か賃貸かを選ぶべきである

 さらに、経済合理性を前面に出して、「利便性が高く資産性が維持されやすい都心の新築マンションを10年ごとに買い替えるのがよい」という意見や、「自宅は購入せず、同じ金額を借りて投資用物件を購入して賃貸に住むのがよい」といった意見もある。

 これらの意見には一定の合理性があり、もっともだとも思うが、実際にこうした選択が可能なほどの収入や信用力、資産運用能力・経営能力がある人は多いとは言えず、一般的な選択肢とはなりにくい。

 ここで持ち家と賃貸について、一般的にいわれていることを整理しておこう。

 持ち家は、

  • 住宅ローン完済後の住居費が抑えられる
  • 資産価値は場合によって大きく下がることもあれば、一定の資産となる場合もある
  • 賃貸のように簡単には引っ越しできない

 賃貸は、

  • 高齢になるほど借りにくく、家賃をずっと払い続ける必要がある
  • 多額のローンを抱えているという心理的不安はないが、資産としては残らない
  • 収入や家族状況等に応じて自由に引っ越しができる

 では、持ち家のほうが優れていると私が考えるのはなぜか。それは、論理的に導き出すよりも、世の中の実態を見ればすぐに明らかになる。これは経済学で「足による投票」と呼ばれているもので、人々の行動結果が競争の結果であり、合理的な選択だと判断できる、というものである。

 2018年の住宅・土地統計調査(以下「住調」という)によれば、持ち家率は全年齢対象で61%だが、当然、年齢によって大きく違う。20歳代:6.4%、30歳代:35.7%、40歳代:57.6%、50歳代:67.6%、60歳以上:79.8%となっており、年齢の上昇とともに持ち家率は上がっていく。

 そして、国立社会保障・人口問題研究所が16年に実施した第8回人口移動調査によれば、5年前の居住地が現住地と異なる人の割合は、25-34歳では50%を超える。これは毎年約10%の人が引っ越していることを意味するが、年齢が高くなると急激に低下。45歳では20%を下回り、引っ越し率は年率で4%未満になる。

 この結果を素直に判断すれば、世の中の人々は持ち家を選択する人が圧倒的に多く、中高年になればほとんど引っ越さなくなる、ということになる。世の中の人々の行動の結果では、持ち家vs賃貸論争は、持ち家派の勝利という結果になっているのである。

 ではなぜ、賃貸ではなく持ち家を選択する人が多いのだろうか。

持ち家は、自分を顧客とした最も確実性の高い賃貸事業

 筆者も関与した一般社団法人不動産流通経営協会の「50平方メートル未満の住宅の居住満足度・住宅購入がライフスタイルに与える影響に関する調査」の結果を見ると、持ち家を購入した理由の1位は「家賃を払い続けるのはもったいないから」で54.5%(複数回答)を占めている。住宅を購入したい理由でも1位は同じ理由で22.6%(複数回答)を占めている。

 世の中の多くの人が持っているこの感覚は、正しい。なぜなら持ち家には、家賃に含まれている以下のコストがないからである。

  • 家賃には、家主の利益が含まれている(持ち家は自分のものだから利益は乗せない)
  • 家賃には、家賃滞納コストが含まれている(持ち家は自分で払うので他人の滞納リスクは負担しない)
  • 家賃には、空室コストが含まれている(持ち家は自分で住むので空室コストはない)
  • 家賃には、入居者が入れ替わるときに家主が負担する原状回復コストや入居者募集コストが含まれている(持ち家にはそうしたコストは発生しない。ただしリフォームコストは発生する場合がある)
  • 賃貸物件のためのローン金利は持ち家のローン金利よりも高く、その差額分は家賃に乗せられている。

 つまり簡単に言えば、持ち家とは自分自身を顧客にした極めて確実性の高い賃貸事業なのだ。大家が得る利益は自分のものになり、その分だけ賃貸よりも有利になるというシンプルな話である。

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 こう話すと、「住宅ローンを返せなくなったら大変だ」「実際に住宅ローンが払えなくなり、物件を売却してもローンを返済することができなかった、といった例もあるではないか」という意見が出てくるだろう。しかし、これはECF(Extreme Case Formulation=極端な事例による構成)、といわれる表現手法であり、それが起きる確率を無視している。要は個別事例の安易な一般化にすぎない、ということである。

 筆者の14年の論文「民間賃貸住宅における家賃滞納の定量分析」では、家賃滞納率は件数ベースで3.5%程度、破綻していると言ってよい4カ月以上の滞納率も1%弱あることが示されている。

 一方、住宅ローンの滞納率はどうか。住宅金融支援機構の20年度投資家向け説明資料によれば、延滞債権の総貸付残高に占める比率は1.26%であり、破綻先債権額の総貸付残高は0.27%にすぎない。しかも、家賃は収入が減少したからといって家賃を減額してくれるケースはほとんどないと思われるが、住宅ローンの場合には貸し出し条件緩和という措置がある。前述した住宅金融支援機構の資料によれば、金額ベースで1.67%が適用を受けている。メガバンク等の場合には住宅ローンの審査が住宅金融支援機構よりも厳しいと考えられ、住宅ローン全体で見れば、おそらく破綻率は極めて低い水準にとどまるだろう。

 住宅ローンのリスクを高いとみるか低いとみるか、個人によって判断が分かれるとは思う。しかし少なくとも、住宅ローンの滞納率は家賃の滞納率よりも低いことは確実といえる。この違いは、家賃は安易に滞納する人が多いことに対して、住宅ローンは強い義務感を伴ういわば強制的な貯金に近いという理由もあるだろう。そして、住宅ローンの審査に通過するということは、金融機関が、あなたの人生が確率的にある程度うまくいくであろう、と認めたということでもある。

 このように複数のデータから、賃貸よりも持ち家のほうが優れているのは自明の理だと筆者は考える。しかし冒頭で紹介した住調のデータを20年さかのぼり、1998年と2018年を比較してみると、実は近年、持ち家率が下がっているのが実態だ。

 全体の持ち家率は98年が60%、18年は61%で大きく変わっていない。ただし総世帯数自体が98年の4421万世帯から18年には5393万世帯と約20%増加しており、持ち家率の高い高齢者世帯が増加している点を考慮する必要がある。40歳代に限れば持ち家率は98年の66.6%から18年には57.6%と9.0ポイント低下し、50歳代では98年の74.9%が18年には67.6%と7.2ポイントも低下しているのだ。

 次回は、なぜ持ち家率が低下しているのかを考えてみたい。

参考文献
宗健(2014)「民間賃貸住宅における家賃滞納の定量分析」都市住宅学86号
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