極右に人気のSNS「Parler」がロシア企業頼みで“復活”を模索? それでも問題の解決にならない理由

極右に人気のSNS「Parler」がサーヴァーのホスティングやアプリストアといった米国のサーヴィスから締め出され、運営が停止状態にある。“復活”の鍵を握るとみられるのはロシア企業だが、ユーザーがロシアの監視下に置かれるなどのリスクも潜んでいる。
Parler
ILLUSTRATION BY WIRED US STAFF; GETTY IMAGES

米連邦議会議事堂で1月6日(米国時間)に発生した暴動を受け、多くの大手テック企業が「Parler」の締め出しに動いた。Parlerとは2018年の開設以来、ドナルド・トランプのサポーターたちが好んで使用していたソーシャルメディアで、Twitterに似たSNSである。

この事態を受けてアップルとグーグルは、アプリストアからParlerを削除した。またアマゾン ウェブ サービス(AWS)は、Parlerに対するホスティングサーヴィスの提供を打ち切っている。

こうしてParlerは1週間以上オフライン状態になったあと、完全復活を約束するランディングページというかたちで部分的に復活している。ここまでこぎつけるためだけでも、Parlerはロシアのデジタルインフラ企業DDoS-Guardと契約し、無限に続くDDoS攻撃の集中砲火から身を守らねばならなかった。こうした攻撃は事実上すべてのオンラインサイトが直面しているが、Parlerほど物議を醸しているサイトではなおさらである。

DDoS-Guardはサーヴィス拒否攻撃に対する防御を提供しているだけであり、Parlerのサイトをホスティングしているわけではないと、『WIRED』US版に説明している。だが、そうしたサポートを提供するだけでも、同社がParlerを通過するすべてのトラフィックにアクセスし、サイトをパンクさせることを目的とした悪意あるトラフィックを排除する必要がある。

ロシア政府は自国のインターネットを外部から隔離し、すべてのデータにアクセスできるよう積極的に取り組んでいる。これらの点を考慮すると、いつの日かParlerがDDoS-Guardと共に完全復活すれば、ユーザーがロシアの監視下に置かれる可能性もあるだろう。

「いまこそ、(Parlerの賛同者と反対者を含む)すべてのみなさんに、わたしたちがなぜこのプラットフォームを始めたのか思い起こしてほしいと思います」

Parlerのウェブサイトには現在、このようなメッセージが掲載されている。「プライヴァシーは最も重要であり、言論の自由は不可欠であるとわたしたちは考えます。わたしたちは現在直面しているあらゆる問題を解決し、近日中にすべてのユーザーを再び歓迎する予定です」

限られる米国内の選択肢

サーヴィスの再開を目指してParlerは、米国を拠点とするプロヴァイダーを希望しているという。そしてこうしたプロヴァイダーを見つけるべく努力していると、同社の最高執行責任者(COO)のジェフリー・ウェルニックは『ニューヨーク・タイムズ』に語っている

サーヴィスの停止後にParlerは、シアトルに拠点を置くEpikを通してドメインを登録した。Parlerは米国の大手テック企業から締め出されているものの、1,200万人を超えるユーザーを抱えるとされ、ほとんどの小規模なホスティングサーヴィスにとっては大きすぎるプラットフォームである。このため、米国内での選択肢は限られている。


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たとえ一時的にであれDDoS-Guardと契約したことにより、Parlerは米国のインフラ企業によって締め出されたオンライン掲示板サイト「8kun」(旧8chan)や「Daily Stormer」といった極右サイトの仲間入りをしたことになる。こうしたサイトは増えているが、DDoS-Guardのようなインターネットの自由が制限されている国の企業が、その復活を可能にしているのだ。

「わたしたちの知る限り、現時点では、『Parler.com』は当社の利用規定や現行の米国法に違反していません」と、DDoS-Guardは『WIRED』US版の取材に対して説明している。「DDoS-Guardは責任をもって顧客のデータを保持し、第三者には開示しません。さらにプロヴァイダーは、サーヴィスの提供に必要かつ顧客から明示的に提供された情報だけを保存します」

解決できないジレンマ

そうは言ってもロシアでは、政府の要請に従うことをテック企業に義務づける法律が可決され、ウェブユーザーのIPアドレスからコミュニケーション、位置データまで、すべてを監視する物理的なネットワークインフラが展開されている。ロシアのインフラサーヴィスと契約することは、サイトのユーザーをロシアの監視システムに晒す可能性があるのだと、サイバーセキュリティとインターネットのガヴァナンスを監視する非政府組織「NetBlocks」ディレクターのアルプ・トーカーは指摘する。

Parlerにおけるほどんどの投稿は公開を意図したものだが、このプラットフォームではダイレクトメッセージ機能やさまざまな種類の「認証済み」アカウントも提供されている。例えば、政府発行の身分証明証の画像をアップロードした人は、誰でも“赤バッジ”を取得できる。

Parlerが復活した際には、ロシアのサーヴァーを介してデータをルーティングしながら同様の機能を提供することになるだろう。そうなれば、詳細なユーザーアクティヴィティやユーザーのIPアドレスといった情報すべてにロシア政府がアクセスできるようになる可能性がある。

Parlerの最終的な着地点がどこになるかにかかわらず、おそらくどこかでプロヴァイダーが見つかるだろう。インターネットならではの分散型のアーキテクチャーは接続の確保に役立つが、ユーザーやプラットフォームを鎮静化することも困難になる。イランや中国といった抑圧的な国家の政府においても、域内のインターネットの完全なコントロールには苦労している。

「これは解決できないジレンマであるように思われます」と、NetBlocksのトーカーは言う。「自分が暴言の被害者だったら、発言を取り下げさせるのは当然だと思うでしょうね。一方で、言論を制限するために技術インフラを排除するという発想は、もともとすべての人が目標としていた『インターネットの自由』という素晴らしいヴィジョンと相容るものではありません」

最終的な着地点が及ぼす影響

Parlerのユーザーが将来的に直面する可能性があるプライヴァシーとセキュリティのリスクは、例えばTikTokのような中国企業によるプラットフォームにおけるユーザー情報の取り扱いの問題と本質的には同じであると、研究者は強調する。だが、TikTokは米国で多くの人々に受け入れられ、人気を博してきた。

これに対してParlerのように主流派に排除され、代替となるホスティングやDDoS保護を求めているプラットフォームは、多くの場合は極右コンテンツの拠点となっている。このためParlerをロシアのインフラ企業の傘下に追いやることは、特にリスクを伴うだろう。ロシア政府はすでに欧米において、極右の間で偽情報を広げようと画策しているからだ。こうしたタイプのユーザーに関するデータに無制限にアクセスできることは、ロシアにとって特に貴重な機会になる。

「規則を明文化し、適正な手続きを実施し、透明性をもってそれを実行していくようソーシャルメディアプラットフォームに要求することは理にかなっています」と、デジタル著作権やオンライン上の人権に関する非営利の擁護団体「Fight for the Future(FFTF)」の副代表エヴァン・グリアーは言う。「とはいえ、インフラそれ自体を対象にモデレーションを推進し始めれば、さまざまな懸念が生じます。例えば、アップルやグーグルにストアからアプリを排除するよう求めたり、コンテンツ配信ネットワーク(CDN)にコンテンツの適切さについて判断するよう要求したりする場合です」

Parlerは最終的に、DDoS-Guardと長期契約を結ばないかもしれない。しかし、プラットフォームの最終的な着地点がどこであれ、それはParlerのユーザーや地政学、そして将来同じような状況に陥る可能性のあるほかのサイトに影響を及ぼすことは必至だろう。

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TEXT BY LILY HAY NEWMAN