※ 砂糖を“再設計”する技術開発レースは、甘味の体験を豊かにするか(後篇)はこちら。

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ニコラ・トゥイリー

『ニューヨーカー』誌の常連寄稿者であり、ポッドキャスト「Gastropod(ガストロポッド)」の共同MCを務めている。2021年5月にジェフ・マノーとの共著『Until Proven Safe: The History and Future of Quarantine(仮訳=安全性が証明されるまで:検疫の歴史と未来)』を出版。

毎日、午前10時、正午、午後3時になると、エラン・バニエルは携帯電話にアラートを受信する。味見のための呼び出しだ。2020年1月の月曜日の午前中、テルアヴィヴから東に数マイル離れたビジネスパークでバニエルに会ったとき、彼はデスクの前に座っていて、彼の前にはプチブールというバタービスケットがのった2枚の白い磁器製の皿が置かれていた。どちらの皿のビスケットも同じように見えたが、ラベルを見ると、バニエルから見て左の皿が792、右の皿が431となっていた。

「プチブールはわたしたちが好んで使うプラットフォームです」。バニエルは792のビスケットの角を割って口に入れ、じっくり考えているような様子でかみ砕きながら言った。「つくるのにも味見するのにも時間がかからないのでね」。彼は水を飲み、431の残りのかけらを取って、同じプロセスを繰り返しながら、わたしにもそうするよう促した。

2枚目のビスケットのほうが、よりバターの香りがしてなんとなくおいしい気がする。しかし、バニエルが評価を下していたのは、そういうことではなかった。ふたつの皿の上のビスケットは、片方は使われている砂糖の量が40%少ないことを除いては、まったく同じレシピでつくられていた。バニエルが答えなければならなかったのは、それがどちらなのかを当てることだったのだ。

元俳優で現在70代半ばのバニエルは、表情豊かな眉と朗々と響くバリトンのもち主だ。2014年、彼はイスラエルの新興企業であるドゥーマトック(DouxMatok)を設立し、最高経営責任者(CEO)に就任した。同社はいま、最初の製品をリリースしている。その製品とは、砂糖の結晶をより甘くなるように再設計したもので、プチブールに入れる砂糖の量を40%減らしても、オリジナルと同じ甘さになる。

同社は、その砂糖を「Incredo(インクレド)」という名でブランド化した。この名称は、ケーキを食べても砂糖の摂取は半分にできるかもしれないという提案に対して、必ずと言っていいほど向けられる疑念も表している。

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