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ミーガン・モルテーニ

バイオテクノロジー、パブリックヘルス、遺伝プライヴァシーにまたがる話題を担当する『WIRED』US版のスタッフライター。『WIRED』US版に加わる前はフリーランスの記者、オーディオプロデューサー、ファクトチェッカーとして活動していた。『Popular Science』『Discover』「Undark」『Nautilus』「Aeon」などに寄稿経験あり。カールトン・カレッジで生物学を学びつつフリスビー競技のアルティメットに力を注いだのち、カリフォルニア大学バークレー校で修士号を取得。

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないなか、みなさんは感染のリスクを最小限に抑える新しい習慣をすっかり身につけたことだろう。マスクを欠かさない。社会的な距離を充分にとる。ごく限られた親しい人以外と屋内で時間を過ごすことは、絶対にしない。手はきちんと洗う(でも買ってきた食品は洗わないかもしれない)。

素晴らしい。そのまま続けてほしい。なぜなら、いま米国のほぼすべての州で新型コロナウイルスの新規感染者数が記録的な水準に達しており、病院への負荷増大によって医療は崩壊しつつあるからだ。こうした状況下では、一人ひとりがあらゆる対策を続けることが、これまで以上に重要になる。

そして公衆衛生の専門家たちは、死者が続出する長く厳しい冬になると警告している。こうしたなか一部の科学者たちによると、考慮すべき対策がもうひとつある。湿度だ。

暖房と空気の乾燥、ウイルスの関係

冬になると気温が急降下し、気温が下がるほど空気中の水蒸気が減る。多くの建物で利用されている暖房の方式では、この問題は悪化するばかりだ。

一般に利用される暖房・換気・空調(HVAC)システムは外気を取り込んで暖めるので、空気はさらに乾燥する。空気が乾くと呼吸器系ウイルスに感染しやすくなるだけでなく、乾燥した空気によって呼吸器系ウイルスへの感染を防ぐために体内に備えられた防御システムが機能しなくなる。これらの要因が重なり合うことで、この数カ月で新型コロナウイルスがさらに大惨事をもたらす可能性があるのだ。

「冬の間、屋内環境の多くはカラカラに乾燥しています」と、コロンビア大学公衆衛生大学院で感染症予測を専門とするジェフリー・シャーマンは言う。「乾燥した環境では新型コロナウイルスの感染力が高まります。しかも屋内で過ごす時間が増えているので、マイナスに働く多くの要因があるのです」

シャーマンが率いる研究チームは10年前、インフルエンザのような疾患と気象パターンに関する31年分のデータを米国で調査した。そして例年よりも乾燥した冬に最大規模のアウトブレイクが繰り返し起きていたことを発見したのである。

実験室でフェレットやモルモットを使った研究でも、同様のパターンが確認されている。インフルエンザウイルスが最も拡がりやすかったのは、飼育ケージ内の相対湿度が40パーセントを下回ったときだった(暖かい日の室内湿度は通常40〜60パーセントになる)。

ヴァージニア工科大学のリンジー・マーをはじめとするインフルエンザを研究しているエアロゾルの専門家たちは、なぜそうした現象が起きるのか説明すべく研究を続けてきた。マーを含む研究グループが2012年に発表した研究では、話したりせきをしたりして人から放出される粒子は、相対湿度レヴェルが下がるにつれて小さくなることが明らかになっている。

防御機能が損なわれるメカニズム

これらの粒子は粘液や塩分、たんぱく質、細胞の一部で構成されているが、ほぼ水分だ。粒子の周囲の空気が乾燥しているほど、粒子から水分が蒸発するスピードが速くなる。また、粒子が小さくなるほど空気中に浮遊できる時間は長くなり、移動できる距離が伸び、体内に吸入されると肺の奥深くまで入り込めるようになる。

こうして粒子の中に潜むウイルスは、粒子と共に拡散するのだ。そして病状が悪化しやすい人の気道にウイルスが着地すると、問題を引き起こす可能性がある。

もちろん、身体には侵入者から身を守るための複数の防御機能が備わっている。防御の第一線は、鼻腔の内側を覆う細胞によって保たれている物理的なバリアだ。

細胞の中には粘液を分泌し、2種類の粘度をもつ糸を引くぬるぬるとした粘液からなるふたつの層をつくっているものがある。鼻とのどの内側には線毛(せんもう)と呼ばれる小さなイソギンチャクのような突起をもつ細胞もある。線毛は粘度の低い水っぽい層で、同期して波打つように動くようになっている。

この線毛の動きによって、ぶ厚い粘液の最上層は肺から遠ざかる方向へとベルトコンヴェアのように動く。この粘液の流れが、着地したウイルスやバクテリア(または花粉や灰などのほかの刺激物)をとらえ、飲み込んだり、せきをしたりして除去する。しかし、空気が乾燥しすぎるとこの粘液層は水分を失い、線毛はつぶれて機能しなくなってしまう。

低温が免疫防御に及ぼす影響

イェール大学医学部の研究チームが2017年に発表した研究では、相対湿度10パーセントのケージに入れられたマウスは、相対湿度50パーセントのケージのマウスと比較して、気道からのインフルエンザウイルスの除去にかなり苦労したことが明らかになっている。

この研究論文の筆頭著者である免疫学者の岩崎明子は、最近驚くべき動画をTwitterに投稿した。その動画を見ると、相対湿度10パーセントのケージのマウスの粘液の流れは、かなり遅いことがわかる。より湿った空気を吸い込んだマウスと比較して、粘液線毛輸送の機能が働かないと、マウスの肺にウイルスが拡散する確率が高まって病状が悪化してしまうのだ。

冷たく乾燥した空気は、2番手、3番手の身体の免疫反応の機能を損なう可能性もある。ウイルスが粘液の流れをくぐり抜けた場合、その次の目標は気道に並ぶ上皮細胞という細胞を見つけ、内部に侵入し、分子機構を乗っ取ってウイルスの増殖を開始するのだ。