【図解】デジタルツインとは?やさしく解説

2020年9月18日掲載

デジタルツインとは?製造業を中心に注目を集めるデジタルツインをやさしく解説

製造業を中心に「デジタルツイン」という言葉が注目を集めている。IoTやAI、ARなどの技術を用いて仮想空間に物理空間の環境を再現し、あらゆるシミュレートを行い、将来を予測することに役立つ新しい技術であり、社会課題の解決など幅広い分野での活用が進められている。本記事ではその概念から実際の活用事例まで図解を含めて分かりやすく解説する。

目次

デジタルツインとは

定義

デジタルツインとは「リアル(物理)空間にある情報をIoTなどで集め、送信されたデータを元にサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術」である。現実世界の環境を仮想空間にコピーする鏡の中の世界のようなイメージであり、「デジタルの双子」の意味を込めてデジタルツインと呼ばれる。

デジタルツインとはサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術

デジタルツインは従来の仮想空間と異なり、よりリアルな空間をリアルタイムで再現できることが特長だ。その背景にはIoTやAIの進化がある。IoTで取得したさまざまなデータをクラウド上のサーバにリアルタイムで送信し、AIが分析・処理をすることでリアルタイムな物理空間の再現が可能になっている。
このリアルに再現された仮想空間上でなら物理空間の将来の変化をシミュレートすることも可能となり、将来実際に起こるであろう変化に備えることができる。

デジタルツインの活用はすでに始まっている

私たちの身近なものになるのは、そう遠い未来の話ではない。行政はすでにSociety 5.0の実現に向けて動き始めている。実際、東京都は「都市のデジタルツイン」社会実装を目指し、プロジェクトに取り組んでいる。

参考:東京都デジタルツイン実現プロジェクト | 東京都デジタルサービス局

東京都は仮想空間にバーチャル東京を作成し、リアルタイムでの都民の情報把握や災害対策や渋滞予測などのシミュレーションを行い、都民の生活の質の向上に努めたいとしている。

デジタルツインの6つのメリット

設備保全

デジタル活用メリット 設備保全に対する期待

効果が期待される業界のひとつが製造業だ。とりわけ「設備保全」に対する期待は高い。製品や製造ラインに何らかのトラブルが発生した際、取り付けられたセンサが連携することで、リアルタイムにデータを収集・分析し、エラーや故障の原因を切り分けることが可能となる。

今まではトラブルが起きた後、製造部門からのレポートや顧客からのフィードバックをもとに検証をして設計を見直していく必要があったが、リアルタイムに収集されたデータを活用しながら素早く原因を特定し、試作を行い、改善することができる。

品質向上

デジタルツインのメリット 品質向上に対する期待

製品の「品質向上」にも期待が持てる。物理空間の情報を反映した仮想空間で製品の試作を繰り返すことで多くのトライアンドエラーを行うことができれば、結果、製品の品質向上につながる。

製品自体にIoTセンサが組み込まれていれば、従来はアンケートやヒアリング、受けたクレームなどで地道に収集していたユーザの使用感に関するデータが自動的かつ低コストでビッグデータとして蓄積されるため、製品の改善のハードルがぐっと下がるだろう。

リスク低減

デジタルツインのメリット リスク低減への期待

リスクの低減にも効果が見込める。通常、新製品の開発には膨大なコストがかかるが、物理空間を忠実に再現した仮想空間ならば試作から製造ラインを動かしたときの予測までを行えるため、物理空間で実際に製品の開発を行うよりも低リスクで新製品の開発が行える。

期間短縮

デジタルツインのメリット 期間短縮への期待

製造のリードタイムを短縮することにも効果が期待される。リアルタイムで人員の稼働状況や負荷のデータを収集・分析することで、最適なスケジュールで最適な人員を配置して製造プロセスを最適化し、リードタイムを短縮する。

コストダウン

デジタルツインのメリット コストダウンへの期待

コストダウンにも貢献する。例えば試作品を製作する場合、仮想空間で物理空間と同じ試作品を再現できるため、実際に作成するよりも安価に済むからだ。加えて仮想空間で試作した製品データは次の試作品にすぐさまフィードバックされるので、試作品の数を減らすことによるコスト削減も可能だ。

アフターサービスの充実

デジタルツインのメリット アフターサービス充実への期待

顧客に対するきめ細やかなアフターサービスも実現できる。出荷後の状態をデジタルツインによって確認することで、製品の使用によるバッテリーの消耗具合や摩擦状況を把握し、部品交換やバッテリー交換などのアフターサービスを適切なタイミングで行うことができる。顧客満足度を高めることにも一役買うだろう。

デジタルツインが注目される理由

デジタルツインが注目される理由は、産業のイノベーションを推進する原動力として高い可能性を秘めているからだ。前章では製造業に着目して解説を行ったが、それ以外にも、電力や石油、ガスなどのエネルギー産業でも高い期待が寄せられている。

とりわけIoT・AI・VRなどの技術の発達により、精度の高い仮想空間をリアルタイムに構築・分析できるようになったことで、補修やメンテナンスに関する設備保全の改善には高い期待と注目が寄せられている。

短期間・低コスト・低リスクで高品質な製品を開発でき、製造ラインの状況も高い精度でモニタリングされ、出荷後も充実したアフターサービスを提供できるとあっては、注目される理由としては十分だろう。近い将来、デジタルツインを上手に活用できた企業が競合に対して大きくリードする日が来るかもしれない。

DX(デジタルトランスフォーメーション)におけるデジタルツインの重要性

現在、あらゆる企業がデジタル技術を生かした業務の効率化や企業風土の変革を行い、持続可能なビジネスを展開するためにDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。

株式会社電通デジタルの調査によると2019年の時点で日本企業の70%がDXに着手して、8%程の企業はDXを完了させている。今後もDXは日本において浸透が図られていくだろう。

参考:「70%が着手」と本格化進む日本企業のDX成果創出のカギは経営トップのコミットメント|電通デジタル

DXの課題のひとつに、日々増加していく膨大なデータの効果的な活用がある。企業が蓄積するデータ量は年々増えてきてはいるものの、DXが完了していない企業の多くはこれを十分に活用できているとは言いがたい。IoTで集めたデータをAIで分析しARなどで視覚的に見せるデジタルツインは、ビッグデータを効果的に活用する技術のひとつとしてDXと切っても切れない関係にある。

DXおよびデジタルツインの導入サポートを行うアメリカの企業、PTC (Parametric Technology Corporation) のCEOジェームズ・E・ヘプルマン氏は、ボストンで行われた「LiveWorx 2019」にてDXにおいて大きな力を発揮するIoT、AI、ARといった技術を活用するには、設計からサービスまでをつなぐデジタルツインの実現が必要だと語っている。

参考:高度なデジタルツインを実現し、顧客企業のデジタル変革を加速させるPTC|MONOist

膨大なデータを収集・分析し、仮想空間でモニタリングするデジタルツインは、製造の現場のDXの切り札として、また、データ活用の新たなステージとして重要な意味を持つ技術だと言えよう。

デジタルツインを支える技術

IoT

電化製品をはじめ、あらゆるモノがインターネットと接続して通信を行う技術がIoT (Internet of Things) である。高精度な仮想空間を作るためには多くのデータが必要だが、IoTであらゆるモノのデータを収集し続けることはデジタルツインの実現に向けた第一歩である。

AI

日本語で「人工知能」と訳されるAIは、膨大なデータを効率的に分析することに長けている。現在では、AI自体の情報処理能力の向上に加え、IoTの発展によるデータ量の増加も受け、より正確な未来の予測を実現しつつある。デジタルツインにおいては、仮想空間で再現された物理空間の高精度な分析がAIには求められている。

5G

日本では2020年春に商用化がスタートした5Gもデジタルツインを支える大きな技術だ。5Gは大容量のデータを超高速、超低遅延で送受信できるようになるため、リアルタイムでの仮想空間へのデータ反映に高い効果が見込める技術だと言える。今後、5Gの活用はますます増えていくと予想される。

AR・VR

現実世界に情報を加えて拡張する技術であるARや、仮想空間を現実世界のように見せることができるVRもデジタルツインに欠かせない技術だ。仮想空間で起きた不具合やエラーを視覚化することで、物理空間へのよりリアルなフィードバックが得られるため、AR・VR技術の発展には期待が寄せられている。

デジタルツインの事例

航空機エンジンのメンテナンスでの活用例

アメリカのゼネラル・エレクトリック社(以下、GE)は航空機エンジンのメンテナンスにおいて、メンテナンス時期を割り出すコストを無くし、保守費用のコストカットにも成功している。

GEは航空機に使われているエンジンのあらゆるデータを、エンジンに取り付けた200ものセンサからリアルタイムに収集している。全飛行、ブレードの物理的状態、エンジンの稼働状況、環境温度と粉塵レベルなどだ。これらのリアルタイムで収集・モニタリングしたデータに加え、風や雨などの気象状況のデータも踏まえて物理空間の状況を仮想空間に複製する。こうして作られた高精度の仮想空間でAIがエンジンの状況を分析し、適切なタイミングでメンテナンスが実施される。

参考:デジタル・ツイン:データを分析して将来を予測する│GE Reports Japan

製造業での活用例

ドイツの先進企業であるシーメンスは、DXを実現するためのサービスとして全ての機械のコンセプト、制御設計、立ち上げ、製造、保守までをデータでつなぐことによる、デジタルツインのソリューションを提供している。

シーメンスは、全てのデータをつなぐことにより設計の標準化や機械の付加価値創出が可能であるとうたい、同ソリューションを導入した企業では開発期間を30%短縮させ、新製品の早期開発、コスト削減を実現したという。

参考:デジタルツイン - シーメンスが考える競争力強化のための装置設計のデジタル化|株式会社高木商会

ワールドカップでの活用例

「初めてのデジタルワールドカップ」と呼ばれた2018年のロシアワールドカップでは、フィールド外で映像を見て審判員をサポートするVAR(ビデオアシスタントレフェリー)をはじめとした新たなデジタル技術が投入された。

特に注目を集めたのがデジタルツインを活用した「電子パフォーマンス&トラッキングシステム (Electronic Performance and Tracking Systems:EPTS)」というシステムで、選手とボールの動きをリアルタイムに把握することに加え、選手の心拍数や疲労度までが仮想空間でモニタリングされていた。

上記のデータは、ベンチの監督とスタンドにいる分析担当者に配布されたタブレットにリアルタイムで反映。従来は試合前のデータと監督の目によって行われていた采配にリアルタイムのデータが加わったことで、試合に大きな影響を与えたと言われている。

都市計画における活用例

2019年5月、国土交通省がデジタルツインを活用した「国土交通データプラットフォーム(仮称)」を発表した。国土交通省が発表したこの計画はシンガポールの事例が参考になっている。シンガポールでは国家戦略として「バーチャル・シンガポール」を行っている。東京23区と同じ程の広さである約720㎢の国土全てを仮想空間に再現しようというプロジェクトである。

シンガポールは世界屈指の人口密度を誇り、都市開発が活発なため交通網の渋滞や建物の建設時の騒音が課題だという。こうした課題を解決するために、道路、ビル、住宅、公園などを全て3D化し仮想空間に再現。その仮想空間でシミュレーションを行うのである。

物理空間では難しいシミュレーションも仮想空間であれば、簡単に行うことができる。デジタルツインが未来都市の設計を担っている事例と言えるだろう。

参考:データは都市をどう変える?:シンガポールが国土を丸ごと「3Dデータ化」する理由| ITmedia ビジネスオンライン

災害課題の解決における活用例

富士通ではデジタルツインを活用して台湾でのスマートダムの共創コンセプトを行っている。ドローンで撮影した映像を5Gでリアルタイムに送り、仮想空間にリアルなダムを再現。地形、ダムの形状、水位、上流の河川の情報、ダムが放出した水の推移などをリアルタイムで確認している。

これらの情報をリアルタイムで収集することで、台風などで氾濫が起きそうなときに、いつ起こるか?(または今回は起きないのか)を予測できる。さらに堤防が決壊した場合でもドローンで撮影した映像を仮想空間に送り、リアルタイムでどこまで水が迫ってきているのかを知ることができるという。

参考:製造業の最新活用事例にみる「デジタルツイン」とは?|FUJITSU JOURNAL
参考:「アフターデジタル」とは?デジタルトランスフォーメーションを加速する新しい概念|FUJITSU JOURNAL

まとめ

デジタルツインはさまざまな課題を解決するための強力なツールとして、ますます注目を集めている。すでに日本でもSociety5.0の一環として提唱され、国土交通省や東京都が具体的な動きを始めている。

仮想空間に物理空間と同じ環境を再現するという特長を上手に活用できるようになれば、低リスク、低コストで高品質な製品を短期間で開発できることに加え、アフターサービスの充実にもつながるだろう。

社会課題解決にも利用が広がっているデジタルツインは、今後の日本のDXを加速させる技術として、あらゆる分野での活用が期待されている。

関連セミナー・イベント

条件に該当するページがございません

おすすめの記事

条件に該当するページがございません