配達ロボットを全米で合法化すべく、アマゾンとフェデックスが動き出した

自動運転の配達ロボットを全米に普及させるべく、アマゾンと宅配大手のフェデックスが本格的に動き出した。各地域で「配達ロボット法案」を成立させるべく、すでに10を超える州で立案の支援などに取り組んでいるのだ。宅配のラストワンマイルを自動化することが狙いだが、反対意見も相次いでいる。
Amazon robot
アマゾンが目指しているのは、配送ハブから各家庭までのラストワンマイルの配達を、自社ロボット「Scout」に自律的に行わせることだ。ROGER KISBY/GETTY IMAGES

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カンザス州の地方自治体連盟で事務局長を務めるエリック・ザルトリウスのところに2020年2月、新たに提出された法案に注目するよう、ロビイストをしている友人が連絡してきた。その法案が各都市に影響する可能性があるというのだ。

法案は「宅配装置」に関する内容である。食料品が入った袋や道具箱、処方薬などを、まるでSF映画のように玄関先まで配達してくれるロボットのことだ。法案によると、本体の重量は配達する荷物を含まずに150ポンド(約68kg)に制限される。そしてカンザス州の歩道や横断歩道を、速めのジョギング程度の時速6マイル(同約9.6km)で走れるようにするという。

この法案について議員やロビイストたちは、アマゾンの助けを借りて起草されたものだと語っている。のちに開かれた州上院委員会でアマゾンのロビイストのジェニー・マシーは、この法案が通れば、6輪で走行するアマゾンの水色の自動配達ロボット「Scout」のような装置が「新しいテクノロジーとイノヴェイションをカンザス州にもたらす」と述べている。

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さらにマシーは、アマゾンが2010年以降にカンザス州に22億ドル(約2,300億円)を投資していることや、同州で正社員として3,000人を雇用していることを強調した。

地方自治体連盟の事務局長のザルトリウスは、この法案が可決されないことはわかっていた。「委員会のメンバーのなかには、自らのコミュニティへの影響を深く考慮していなかった人もいると思います」と、彼は法案について語る。

ザルトリウスが心配していたのは、ある条項についてだった。市や町などが独自のロボット規制を設けることを禁止する条項が含まれていたのである。

実際にカンザス州東部のカンザスシティの当局は法案に反対した。そのロボットを導入する企業が、地方自治体に使用料を払わずに公道や歩道を“占有”することになるという理由だ。全米トラック運転手組合の広報担当者は、この法案が十分な事前テストを義務づけていないことや、配達ロボットがゆくゆくは人間の労働者に取って代わる可能性があることに言及している。

配達ロボットを全米のコミュニティに

カンザス州のこの法案は可決されなかったが、これは広大な戦場で勃発している戦いのひとつにすぎない。アマゾンとフェデックスが配達ロボットを認可する同様の法案に関与・支援している州は今年の段階で10以上になっており、少なくとも6州では立法化されている。

アマゾンとフェデックスは、どちらも配達ロボットを開発中だ。フェデックスの配達ロボットは「Roxo」という名で、見た目は小さな冷蔵庫といったところである。すでに4つの都市で路上テストを完了している。アマゾンのScoutは、「Amazonプライム」の荷物を配達する役割だが、こちらも4つの都市でテストが進められている。

両社は似通ったヴィジョンを示している。配達ロボットを満載した配送トラックが担当区域に到着すると、そこからは配達ロボットが顧客の玄関先までのラストワンマイルを、人の助けを借りずに移動する──といった具合だ。

しかし、現在の配達ロボットは、まだそこまでたどり着いていない。20年7月に投稿されたアマゾンのブログによると、数台の配達ロボットのテストを平日の日中に実施しているが、いまのところ「Amazon Scout Ambassador」と呼ばれる担当者が付き添っているのだという。

フェデックスの最高経営責任者(CEO)のフレッド・スミスは、Roxoの2回目のテストを準備していることを、株主に向けた20年8月の書簡で説明している。「このパンデミックを切り抜けたときには、フェデックスの配達ロボットが、お客さまにとって、そして社会にとってどれだけの利益をもたらすのか、さらに深く理解していただけるでしょう」

アマゾンの広報担当者は、州法案提出のタイミングや、アマゾンの役割に関する質問に対しては回答しなかったが、同社はこの法案を広く支援しているという。

フェデックスの広報担当者は、同社の取り組みについて次のように語っている。「オンデマンドのロボットであるRoxoを全米で運用できるよう当局に許可を求めており、各州や地方自治体のリーダーたちと連携しながら地域のコミュニティでテストと運用を実現すべく全力を尽くしています」

全米各地で法制化の動き

自動運転関連の規制について研究しているサウスカロライナ大学法学准教授のブライアント・ウォーカー・スミスは、こうした法案が提出されているからといって、すぐにアマゾンのロボットが自宅のドアをノックする日がやってくる事態にはならないと指摘する。「こうした内容について、全米もしくは州内でロビー活動を展開できる力をもつ企業が好ましい法案を提出するには、いまが絶好のタイミングです。誰もが話題にし始めてからでは遅いですから」

またウォーカー・スミスによると、新しいテクノロジーを開発して使い始めようとする企業は、柔軟性を高めるために「法的な確実性」を得たいと望むことが多いのだという。

これらの法案には似たような文言が含まれるが、まったく同じではない。ノースカロライナ州のように、歩道での最高速度を時速10マイル(同約16km)に設定している法案もある。また、アイダホ州とミズーリ州のように重量制限(20ポンド=約90kg)を定めている州もあれば、ユタ州のように重量についてまったく言及していない地域もある。

支持者たちはこうした法律について、家庭用品が数時間で届くようになる上に、排ガスをまき散らし交通の邪魔にもなるアイドリング状態の配送トラックが減るような未来につながると謳っている。

「これは輸送における“革命”の始まりです」と、州上院議員で20年4月に法制化されたヴァージニア州の法案を支援したデイヴ・マースデンは言う。「こうしたシステムは、かなりスムーズに運営されるでしょう。人々がいったん慣れてしまえば、(ほかの技術への道も)容易に開けます。これは最初の波にすぎません」

ユタ州の議員たちは、自州の法案に親しみを込めて「R2D2法案」と呼んでいた。今年はじめに実演のため州議会議事堂にやってきたフェデックスの配達ロボットにちなんだ名だ。

「歩道の未来」への懸念

だが、この法案が「歩道の未来」に与える影響を心配する人たちもいる。「配達ロボットが走行中に人にぶつかって制御不能になったり、道路のくぼみにはまってしまったり、玄関ポーチに上ってそこから落ちたりするのではないか心配なんです」と、デトロイト北部と周辺地域の代表を務めるミシガン州上院議員のアダム・ホリアーは言う。この法案はまだ審議中であり、ホリアーは委員会に提出されたミシガン州の法案に反対票を投じている。

さまざまな議員や関係者が、配達ロボットの走行スピードや、誤って人やペットにぶつかってしまわないかについて懸念を表明している。「この技術が非常に新しいものであることを、人々は理解すべきです。人間がつくり出した機械なのですから、完璧ということなどありえません」と、全米トラック運転手組合で全米の州議会における立法の責任者を務めるジョン・マタヤは言う。

これまでに少なくとも2人の障害者が、幅の狭い歩道で配達ロボットに遭遇して嫌な思いをしたとブログなどに書いている。目と耳が不自由な弁護士ハーベン・ギルマは20年夏、カリフォルニア州マウンテンヴューの歩道で、スターシップ・テクノロジーズが運用する配達ロボットに遭遇して肝を冷やしたという。そのロボットは、彼女も盲導犬のマイロのことも避けなかったのだ。この件についてスターシップの広報担当者はコメントしなかったが、同社は複数の州で提出されている「法案に関与し支援している」と説明している。

アマゾンの広報担当者は声明で次ように述べている。「安全性はアマゾンの最優先事項であり、Scoutは安全性とアクセシビリティを考慮して設計されています。Scoutは止まることもできますし、歩行者やペット、障害物を避けて安全に走行することもできます」

フェデックスの広報担当者は、「安全性は常にフェデックスの最優先事項であり、オンデマンドロボットのRoxoは歩行者やお客さま、車両の安全性を念頭に置いて設計されています」と語る。それに同社のロボットは高さがあるので、歩いている人の視界に入りやすいという。

ロボットによる配達に関する法案を検討した複数の州の議員とロビイストは、アマゾンとフェデックスの代表者が法案に関する議論や変更を進んで受け入れているようだと説明している。

ノースカロライナ州自治体連盟のスコット・ムーニーハムは、こうしたアプローチを初期のレンタル電動キックスケーター企業に関する動きと比較している。これらの企業は地元の関係当局に事前警告を出さず、キックスケーターを公の歩道に置いたことで悪名をとどろかせたのだ。

ムーニーハムのグループは、地方自治体が配達ロボット向けの規則を独自につくることを禁止するような文言に反対していた。そしていま、ノースカロライナ州の関係当局は、必要と判断すれば配達ロボットを禁止できる。「これは市や町の利益を考慮に入れた妥協の結果だったと思っています」と、ムーニーハムは語る。

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TEXT BY AARIAN MARSHALL

TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO