ボルボの高級EV「ポールスター2」は電気自動車のあるべき姿を体現し、テスラを脅かす存在になった:試乗レヴュー

ボルボの高級EVブランド「ポールスター」の第2弾となる「ポールスター2」。上質な走りや北欧ブランドらしいデザイン、そしてスマートフォンそのものといえる操作系などによって「EVのあるべき姿」を体現し、テスラを脅かす存在になったと言っていい──。『WIRED』UK版による試乗レヴュー。
Polestar 2
PHOTOGRAPH BY POLESTAR

ボルボの高級電気自動EV)ブランド「ポールスター」については、第1弾となる「ポールスター1」をベタ褒めしたことを覚えている人も多いだろう。圧巻のスピードと美しいデザイン性を兼ね備えた非常に印象的なプラグインハイブリッド車(PHV)だった。

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残念なことにポールスター1は限定1,500台しか生産されなかったが、これには理由がある。あのモデルは、ブランドの第2弾で本命とも言えるEV「ポールスター2」までの“つなぎ”という位置づけだったからだ。

満を持して市場投入されるポールスター2は、驚くべきクルマだと断言できる。これから詳しいレヴューを書いていくが、まずは簡単にまとめておこう。

ポールスター1は、ボルボが自動車メーカーとしての方向性を提示するためにつくった、いわば試験的なモデルである。このため短期の集中プロジェクトだったが、それでもあれだけのPHVに仕上がった。これに対してポールスター2は、かなりの時間をかけて開発が進められてきた。その素晴らしさは想像できることだろう。

ふたつの使命

ポールスター2は、ふたつの使命を負っている。まずは、EV市場でボルボの存在感を高めること。そして、業界をリードするテスラの「モデル3」に勝負を挑むことだ。

ポールスター1のインパクトに加え、先に発表されたSUV「ポールスター3」やコンセプトカー「Polestar Precept(プリセプト)」を見れば、EV市場での地位の確保という目標は容易に達成できそうに思える。また、ボルボの親会社である中国の浙江吉利控股集団(ジーリー)は「ロータス」「Lynk&Co(リンク・アンド・コー)」といったブランドも傘下にもつ。

では、テスラとの戦いはどうだろう。これについては、僅差ではあるが勝利と言っていい。

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価格面から見ていくと、ポールスター2の英国での販売価格は44,900ポンド(約610万円)からで、モデル3のベースモデルと比べて7,400ポンド(約100万円)高い。ただし、これはあくまでも標準仕様の場合で、オプションを付ければ大きく変わってくる。

ポールスター2は、容量78kWhのバッテリーパックと車体の前後に設置されたモーター2基によって、最大出力408馬力を実現した。時速60マイル(同約97km)までの加速時間は4.7秒、最高速度は時速127マイル (約204km)となっている。つまりスピードも加速も十分なわけだが、EVでも速さを求めることができるのはすでに周知の事実である。

洗練された走り

それよりも、ポールスター2で驚かされるのは、その洗練された走りだ。運転していると、モデル3より快適で荒々しさがなく(いい意味で)シンプルに感じる。高速道路にふさわしい速度性能を備えるが、都市部での移動にも適しており、走行モードは数が限られているので混乱することもない。

物理的なキーやスタートボタンはない。デジタルキーの入ったスマートフォンをもった人が近づくと、クルマがそれを検知して自動的にドアが開くシステムになっている。設定など細かいことを考える必要はなく、アップルの言葉を借りれば「ちゃんと動く」のだ。

回生ブレーキは少し重さを感じるが想定の範囲内で、試しに1時間ほど走ってみたが、ブレーキペダルに触れたのは本当に2回だけだった。なお、回生ブレーキはオフにしておくこともできる。

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ハンドリングはモデル3よりわずかに優れている印象だ。決して重量が軽いクルマではないが、サスペンションのよさに加えて、重心が低いというEVの利点ゆえに、運転していて体が振り回されるようなことはまったくない。

BMWのEV「ミニ クーパーSE」でも同じことを感じたのだが、回生ブレーキを無視すれば、このクルマがEVであるという事実を忘れてしまう。テスラが目指しているが到達できていない「上質さ」を備えたモデルで、実によくできている。

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北欧ブランドらしい美しさ

走りだけでなく、外観からインテリアまで、すべてにおいて失望させられる点はほとんどない。この事実だけでも、モデル3の購入を検討している人に考え直すよう説得するには十分ではないだろうか。

ポールスター2の航続距離は、オプションの「パフォーマンスパック」を付けても292マイル(約470km)と、モデル3には及ばない。ただし、パフォーマンスパックではブレンボ製ブレーキ、20インチのアルミホイール、ホイールごとに調節可能なオーリンズ製のダンパーといった装備が付いてくる。これに対してモデル3の場合、こうしたものはすべて別に購入する必要がある。

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外観もポールスター2とモデル3を並べてみると、どちらが美しいかは明白だと感じた。試乗車が届いたときはロックダウン(都市封鎖)が続いていたが、近所の人がわざわざやってきて「いいクルマだね」と声をかけてきた。5ドアのファストバックに『宇宙空母ギャラクティカ』に出てくるサイロンの目のようなテールライトが特徴で、フロントグリルもテスラと違って形状に迷いがない。

黒を多用した内装は、北欧ブランドらしくミニマルなデザインでわざとらしさがなく、すべてが機能的にあるべき場所に収まっている。ダッシュボードの表示には視認性を優先して特別にデザインされたフォントが使われており、車外から窓越しに充電状況を確認したいときなどでも見やすくできている。

まるでスマートフォンそのもの

車載インフォテインメントシステムには、業界で初めてグーグルのモバイルOS「Android」を採用した。車載システムとスマートフォンの連携では、アップルは「CarPlay」、グーグルは「Android Auto」をそれぞれ提供しており、自動車メーカーはこれを独自に作り替えたものを自社モデルに搭載する場合が多い。だがボルボは今回、車載システムにもスマートフォンと同じものをそのまま使うという、ドライヴァーがずっと望んでいたシンプルな解決策をとった。

結果としてできあがったのは、いわばAndroidベースのおしゃれなタブレット端末で、ホーム画面には一度に4つのアプリが表示される。多くの車載システムと違って直感的な操作が可能で、タブレット端末を使ったことのある人なら、ナヴィゲーションを含め誰でも簡単に使いこなせるだろう。

そして、もちろん「Google アシスタント」も使える。Spotifyで好きな音楽を聴く、カーナビで目的地を設定する、テキストメッセージを送信する、エアコンの温度を調整するといったことが、すべて音声コマンドだけでできるのだ。極端な話、ポールスター2はブレーキとアクセルのついた巨大なスマートスピーカーだと考えてもいい。このスピーカーは1回充電すれば、軽々と300マイル(約483km)を走ってくれる。

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とはいえ、ポールスターがいかによくできたクルマであっても、搭載されたGoogle アシスタントは標準的なシステムと同じである。このため、「すみません、よくわかりません」と言い返される事態は頻繁に起きる。それに、まったくわけのわからない反応が返ってくることも、たまにある。

また、すべてが音声コマンドでできるようになっているわけではない。例えば、シートヒーターをオンにすることは音声コマンドで可能だが、その温度調節はタッチスクリーンでなければできない。アプリ「TuneIn Radio」をインストールしておけばラジオは聴けるが、デジタルラジオ局は音声コマンドでは検索できない。さらに、クルマのトランクの開閉も音声コマンドには非対応だ。

音声コマンドを導入するのであれば、個人的にはすべて対応させてほしいと思う。シートヒーターの温度調節やデジタルラジオなどは、開発のどこかの段階で音声コマンド対応にしないという決断があったのだろうが、それほど難しいことではないはずだ。

まだ発展途上なシステム

ポールスターのGoogle UXシステムの責任者であるアロカ・ムッドゥクリシュナによると、車載システムはまだ完成状態には達していない。例えば、ナヴィゲーションアプリ「Waze」などをダウンロードして使えるようにするなど、今後も進化させていくという。

さらにムッドゥクリシュナは、ユーザーからのフィードバックに基づいて新たな機能を追加していきたいとも説明している。ユーザーがどのような走りをしているかといったデータが増えれば、1回の充電で走行可能な距離を延ばすようにソフトウェアを改良することもできるだろう。

また今後は、ホーム画面のデザインを変更したり、よく使うアプリを直接開いたり、地図表示をフルスクリーンにしなくてもいいようにしたりといった変更が加えられていくという。ほかにも、充電スタンドで待っていなければならないときに映画やテレビを観られるよう動画配信プラットフォームとの連携を進めている。

こうした試みがうまくいけば、ポールスター2の車載システムの使い勝手はさらによくなり、他メーカーのインフォテインメントシステムとの差は広がっていくだろう。

前後の車軸に取り付けられた2基のモーターは、それそれが最大出力204馬力、トルクは330Nmで、合わせて408馬力、660Nmのパワーを生み出す。PHOTOGRAPH BY POLESTAR

唯一の残念な点

一方で唯一残念なのは、「レヴェル3」の自動運転には対応していないことだ。これだけ力を入れて自動車の未来を描こうとしているモデルなのに、自動運転ができないのはおかしな気がする。

開発費がかかるので販売価格が上がるという足かせはあるだろうが、ボルボのポールスター部門の最高経営責任者(CEO)のトーマス・インゲンラートは過去に、このテクノロジーはまだ受け入れられないだろうとの趣旨の発言をしている。消費者はクルーズコントロールがどのようなものなのか理解していないというのが彼の主張で、もっともらしくは聞こえる。

だが、これには賛成できない。直感的に使えて信頼性の高いシステムを構築すれば、人々は必ずそれを利用する。高速道路でコンピューターに運転を任せることができるなら、そうしないドライヴァーはいないだろう。

丁寧につくり込まれたモデル

こうした細かい点はさておき、ポールスター2は素晴らしいデザインと品質を兼ね備えており、何よりも実によく考えられたクルマだ。乗ってみれば、開発に注ぎ込まれた努力を感じることができる。いい加減な近道はせず、明確なヴィジョンに向かって丁寧につくり込まれたモデルなのだ。

ポールスターは今後、二輪駆動モデルやバッテリー容量の小さいモデルを計画しており、実際に市場投入されればもちろん値段は安くなる。なお、テスラはこの戦略を採用したモデル3で大きな成功を収めた。

ポールスター2は、深い専門知識と経験をもち合わせた歴史ある自動車メーカーだからこそ、つくることができたクルマだ。イーロン・マスクはテスラを追い抜くブランドが出てきたことを肝に銘じなければならない。

そして、試乗すらせずにポールスター2を購入することを決意したドライヴァーには、失望させられることは決してないと伝えたい。このクルマはEVのあるべき姿を体現することに成功した。あと必要なのは、充電インフラを拡充することだけだろう。


◎「WIRED」な点

デザイン、品質、パフォーマンスのすべてが一流。インフォテインメントシステムには「Android」を採用。洗練されたシンプルさ。

△「TIRED」な点

航続距離はテスラの「モデル3」より短い。「Google アシスタント」には限界がある。「レヴェル3」の自動運転には非対応。


※『WIRED』による自動車の試乗レヴュー記事はこちら


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TEXT BY JEREMY WHITE

TRANSLATION BY CHIHIRO OKA