コロナ禍を機に、手元資金を厚くするために減配や自社株買いを取りやめる企業が増えている。だが、日本企業はすでに多くのキャッシュを持っている。資本効率を考えず、ただため込むだけの「安全経営」は見直すべきだ。大和総研主席コンサルタント太田達之助氏に聞いた。
<span class="fontBold">太田達之助氏</span><br> 	大和総研主席コンサルタント<br> 1991年大和総研入社、企業財務戦略リサーチなどを担当。その後、財務戦略アドバイザリー(大和証券SMBC)やプライベートエクイティ部長(大和証券SMBCプリンシパル・インベストメンツ)などを経て、15年から現職。公認会計士の資格を持ち、一貫して企業の財務戦略や企業価値分析、M&amp;A戦略などの立案に携わる
太田達之助氏
大和総研主席コンサルタント
1991年大和総研入社、企業財務戦略リサーチなどを担当。その後、財務戦略アドバイザリー(大和証券SMBC)やプライベートエクイティ部長(大和証券SMBCプリンシパル・インベストメンツ)などを経て、15年から現職。公認会計士の資格を持ち、一貫して企業の財務戦略や企業価値分析、M&A戦略などの立案に携わる

今回のコロナショックを受け、企業が手元資金を手厚くする動きが相次いでいます。

太田氏:実質無借金・過剰資本で過剰なキャッシュを持っていながら、即座に減配に動く企業が散見されます。こうした企業は「売り上げが落ち込んだから」「今までに経験したことのない有事」などと釈明することが多いようです。

 コロナ禍を機に、企業の配当政策が二極化していますね。この非常事態がいつ収束するか分からない状況において、どのような優先順位を持って経営に臨むか、本音が見え隠れしていると思います。

 日本企業は近年、海外投資家から株主重視の経営を迫られ、転換の動きが見られました。でもまだまだ財務安全性を偏重している企業が多いのも事実です。

米国企業とは対照的ですね。

太田氏:世界最大の航空機メーカーである米ボーイングのケースが象徴的です。財務安全性を度外視して極端に資本効率を追求した財務戦略が、コロナ禍で裏目に出てしまっています。

 ボーイングのROE(自己資本利益率)は、積極的な自社株買いによる資本の圧縮により上昇を続け、2017年に683%、18年度に1047%でした。しかし、19年度は同社の小型旅客機が2回墜落事故を起こして運行停止に追い込まれたことで資金繰りが急激に悪化。20年第1四半期は1兆円を超える債務超過となりROEは算定不能になってしまいました。加えてコロナの影響で人の移動が世界的になくなってしまったことで売り上げが立たなくなり、経営危機にひんしています。

マックもスタバも債務超過

 ボーイングは極端な事例と言えるでしょう。しかし、米国の優良企業が債務超過になっている例はそれほど珍しくありません。著名な企業では、外食のマクドナルド、コーヒーチェーンのスターバックス、たばこメーカーのフィリップモリスも債務超過会社です。

 これらの企業の共通点は、景気変動の影響を受けにくく、事業が安定しているため、キャッシュフローがきちんと回っていることです。でも成長性はさほどありません。

 なので、株価を上げるために、借金をしてまでも高額配当を出し、自社株買いをして株主に配慮した経営方針を取っているのです。キャッシュフローがきちんと回れば、経営不安は起こらないと判断しているわけですね。

 利益を上回る株主還元を続ければ、ROEの分母を構成する自己資本は小さくなりますので、資本効率は極限まで高まります。もっとも、日本の上場制度やビジネスのやり方に倣えば、こうした企業は上場廃止もしくは倒産リスクが高いとみなされてしまいますので、一概に評価できるわけではないのですが。

倒産もしなければ成長もしない

ROEを大きくする戦略が、日本と米国では違う。

太田氏:そうです。レベル感が全く違います。内部留保をため込み安全経営に終始する日本企業と、十分な株主還元を行うことで資本効率を高めようとする米国企業。

 下図は主な日米企業が当期純利益のうち、何割を配当や自社株買いに回しているかを比較したものです。緑色部分が内部留保に相当する分ですが、利益を上回る配当や自社株買いをしている米国企業と、利益をため込んでいる日本企業の差がくっきりと出ています。

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