ついにギグワーカーたちが、パンデミックによる休業に対する「傷病手当」を勝ち取った

UberやLyftなどのアプリを通じて単発の仕事を請け負うギグワーカーたちは、これまで独立した請負業者とみなされ、従業員が受けられる福利厚生の蚊帳の外に置かれてきた。こうしたなかシアトルでは、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で休業した労働者たちに「傷病手当」を支給するよう義務づける条例が可決された。この動きは、ギグワーカーの待遇を従業員と同等にしていくための第一歩になる。
delivery person
NOAM GALAI/GETTY IMAGES

新型コロナウイルスが全米に拡散していった3月、シアトルは米国で初めてロックダウン(都市封鎖)を実施した都市になった。そして仕事がなくなったり、健康への影響が不安だから仕事を辞めたといった声が、アプリを通じて単発の仕事を請け負うギグワーカーから上がり始めた最初の街でもあった。

そして6月になってシアトルは、別の点でも初の都市になった。シアトル市議会が可決した緊急条例により、UberやLyft、DoorDash、Instacartといった企業は、ギグワーカーの勤務日数と報酬額に基く一種の傷病手当を支払う義務が生じるのだ。ジェニー・ダーカン市長の広報担当者によると、市長はこの条例に署名することになるという。

Instacartの元ショッパーで、現在は労働組合「ワーキング・ワシントン」の事務局担当のミア・ケリーは、企業の成長を助けることによって「わたしたちは企業を守る責務を果たしてきました」と語る。「こうした企業は今後はギグワーカーを従業員と認めて、わたしたちを守るために何らかの対策を講じなければなりません」

労働問題の大きな争点

今年3月に米国の各地でロックダウンが始まって以来、新型コロナウイルスによるパンデミックの最前線で働いてきたギグワーカーにとって、この条例は最も重要な決定になる。適切な防護装備を労働者に提供することにも苦心する企業もあるなかで、ギグワーカーは多くの街でエッセンシャルワーカー(必要不可欠な労働者)に分類されてきた。

ギグエコノミーのほとんどの企業は、新型コロナウイルスと診断されたり隔離されたりしたギグワーカーのために基金を創設してきた。さらにUberの最高経営責任者(CEO)のダラ・コスロシャヒは、連邦政府による救済法の支援対象にギグワーカーを含めるようホワイトハウスに個人的にロビー活動を実施し、これらの独立請負業者が一種の雇用保険の対象になる初めてのケースとなった。ところが、支援を得るための書類を揃えることや、会社に要求に応えてもらうことは難しかったと報道機関に語った労働者もいる。

ドライヴァーの権利を主張する人々にとって、傷病手当はパンデミックにまつわる労働問題の大きな争点となっている。その理由は簡単で、感染した労働者が人を乗せたり食事を運んだりすることは、公衆衛生上の危険になるからだ。

少なくとも2023年末まで効力をもつシアトルの新条例は、企業に選択を求めている。ひとつが、労働者が19年10月以降にアプリを利用して働くことに同意した日数30日ごとに、1日の傷病休暇を与えること。もうひとつは、全員に5日間の傷病休暇を与え、そのあと30日ごとに1日与えるかだ。労働者が受け取る手当はボーナスとチップも含め、1勤務日ごとに労働者に支払われた金額の平均となる。

Uberの広報担当者は、同社は「シアトル市議会が、新条例の影響を受ける可能性のある市民やグループからの意味のある意見を聞くことなく、ひとつの業種のみを対象に緊急対策を検討していることに大いなる懸念を抱いています」とコメントしている。Lyftの広報担当者は、傷病手当を受給するシアトルのドライヴァーが、連邦政府の救済基金を請求できなくなる可能性を懸念しているという。DoorDashにもコメントを求めたが、反応はなかった。

ほかの地域にも波及

これまでのところ、ほかの都市がシアトルのモデルを採用する動きはない。だが組合事務局のケリーによると、ノースカロライナ、カリフォルニア、ニューヨークなどの州に住むギグワーカーから問い合わせが来ているという。

カリフォルニア州では、UberとLyftのドライヴァーによる緊急傷病手当の要求を連邦判事が退け、代わりに少なくともふたつの事例に対して仲裁審理に入るよう命じた。このうちひとつの審理の結果、Uberは定期的にカリフォルニア州で働いているドライヴァーの一部に360ドル(約39,000円)を支払うことを明らかにした。対象は新型コロナウイルス感染症と診断されたか、症状があったか、ウイルスに晒されたと確信しているか、あるいはリスクが高まる持病があることを証明できるかする労働者である。

カリフォルニア州とマサチューセッツ州における裁判でドライヴァーの代理人を務める弁護士のシャノン・リスリオーダンは、Uberの譲歩はギグワーカーを従業員として扱うようにする闘いにおける第一歩だと語っている。「従業員として保護されないこうした労働者たち全員が直面する不当行為に、今回の危機は多くの人の目を向けさせたと思います」と、彼女は言う。

もうひとつ、少しささやかな動きがワシントンD.C.であった。Instacartが新型コロナウイルス関連の傷病休暇ポリシーを拡充し、それを全国に適用することに同意したとワシントンD.C.のカール・ラシーン司法長官が語ったのである。

それまでInstacartは、買い物を代行するショッパーのうち新型コロナウイルスに陽性反応があったか、公衆衛生当局によって自己隔離を命じられた場合にのみ傷病手当を支給していた。それが今後は、陽性と診断された人と同居しているショッパーにも手当を支給し、ウイルスの感染を確信している場合は無償の遠隔医療を提供する。

ワシントンD.C.では、子どもの主たる養育者であるショッパーは、子どもの学校が閉鎖されたときは最長で14日まで支援を受けられる。Instacart社長のニラム・ガネンティランは、新たなポリシーは「ショッパーにさらなるセーフティーネットを提供し、ショッパーが必要とするケアを受けられるようにする」ものであるとコメントしている。

運用上の課題も

とはいえ、この合意はInstacartで働く人たち全員を満足させるものにはならない。

Instacartのショッパーを昨年10月から務めるレイチェル・アンターは、新型コロナウイルスに関するニュースをラスヴェガスの自宅で聞くようになった3月に、仕事をやめた。アンターは免疫不全なのだ。

アンターは、のちに新型コロナウイルス感染症の症状を自覚し始めた。このため、検査を受けてから結果を受け取るまでの13日間は自己隔離するように命じられたことや、援助を受ける資格があることを示す医師からの文書を、Instacartに提出しようとした。さらに毎日数多くの電子メールを送ったが、会社から反応はなかったという。

「ふざけた話ですよね」と、彼女は言う。「わたしたちは独立した請負業者ですし、何に立ち向かっているかはわかっていますから」

傷病休暇のポリシーをどのように適用しているかInstacartに問い合わせたが、返答はなかった。

最終的にアンターは、新型コロナウイルスに対する陰性の検査結果を受け取った。それでも彼女は、もうInstacartのための買い物は請け負っていない。

※『WIRED』によるギグエコノミーの関連記事はこちら


RELATED ARTICLES

REPORT
ギグワーカーの連帯は国境を越えてUberに立ち向かう


TEXT BY AARIAN MARSHALL