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「コロナ後はジョブ型雇用」に落とし穴 日本企業は自営型で 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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雇用とフリーランスの境界があいまいに

そこで期待されるのが、「メンバーシップ型」でも「ジョブ型」でもない第3の選択肢だ。その萌芽(ほうが)はある。

中国や台湾を訪ねると、会社に雇われているのかフリーランスなのかわからないようなビジネスパーソンによく出会う。製造業・非製造業を問わず、中小企業では半ば自営業者のように一人でビジネスを受け持っている人が多い。また、ある程度まとまった仕事ができたら社員を独立させ、アライアンスを組む経営スタイルも目立つようになった。

シリコンバレーでも世界中のフリーランスとネットワークを築き、プロジェクトごとにチームを組んでデザインや開発を行うスタイルが広がっているし、日本でも情報・ソフト系の企業では同じような形態が珍しくなくなった。また製品開発、イベントの企画・運営、雑誌編集のような職場では、各分野のの専門家によるプロジェクトベースの仕事が基本になっているところもある。

大企業のなかにも、ライオンのように他社の社員による副業を募集する企業があらわれてきたし、外部の起業家やクリエーターの知識や技術を活用するオープンイノベーションを取り入れるところも増えている。

このように雇用か独立かを問わず、組織と関わりながら半ば自営業のように働くスタイルを私は「自営型」と呼んでいる。

IT化でアウトソーシングやネットワーキングが容易になるにともない、今後このような「自営型」がますます増加すると予想される。それはフリーランス人口の急増 (内閣府の調査など) からも読み取れる潮流だ。

日本社会に合う「自営型」

しかも「自営型」は日本社会に適合しやすい形態だといえよう。

「仕事に人がつく」欧米と違って、わが国では俗に「人に仕事がつく」と表現されるように仕事の属人性が高い。また近代まで職人や自営業者が多数を占めた歴史もある。そのため日本人、日本社会には「ジョブ型」よりも「自営型」のほうがなじみやすい。

一方で「自営型」は「メンバーシップ型」と違って仕事の分担がはっきりしているので、公平な評価や仕事の調整が難しいといったテレワークに付随する問題は生じにくい。

前述したように、日本企業がいま目標にしている欧米型の職務主義は、賞味期限が実はそれほど長くないかもしれない。したがってそれを無批判に取り入れるのではなく、もう一歩先を見据え、日本的な風土も生かせるようなスタイルを目指すべきである。

現実的な雇用ビジョンとしては、自社に固有の仕事や組織への高い忠誠心が求められる仕事は「メンバーシップ型」、定型的で標準化しやすい業務は「ジョブ型」、一人で丸ごと受け持ったほうが効率的な仕事や専門性の高い仕事は「自営型」というように、複数タイプを併存させるのが適当ではないだろうか。

太田肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。専門は組織論、とくに「個人を生かす組織」について研究。元日本労務学会副会長。組織学会賞、経営科学文献賞、中小企業研究奨励賞本賞などを受賞。『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)、『「ネコ型」人間の時代』(平凡社新書)、『公務員革命』(ちくま新書)、『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『個人尊重の組織論』(中公新書)、『「超」働き方改革』(ちくま新書、2020年7月発刊予定)ほか著書多数。

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