大連空港の健康申告エリア
大連空港の健康申告エリア

 中国・北京の対外経済貿易大学で教えている私は、2020年、コロナの感染拡大の影響で日本滞在を余儀なくされた。だが、北京の事情が落ち着き始めたこともあり、大学に戻るために12月末、日本を出発した。そこで今回は、私が経験した中国の水際対策についてお伝えしたい。

 中国では、新型コロナウイルス対策として外国からの渡航者を厳しく管理している。

 米国や中国、韓国などから日本に入国した友人たちに話を聞くと、日本における水際対策は「極めて緩い」と言っていた。空港からの移動では公共交通機関を使わないことや14日間の自宅待機を「お願い」するにすぎず、そこに強制力はない。

 それでは中国の水際対策はどのように行われているのだろうか。私が飛んだ大連では、想像を超える現場体制が整っていた。

物々しい空港から日本人向け隔離ホテルへ

 中国は、外国からの渡航者全員に対し、在日本中国大使館指定の病院でのPCR検査と抗体検査を義務付けている。検査は出国前48時間以内に行い、陰性証明を受け取ったら、オンライン上で中国大使館に申請を行い、QRコードの付いた「健康状況声明書」を入手する。これは空港のチェックインカウンターで必要となる。

 もう一つ空港のチェックインまでに申請しておかなければならないのが、中国税関が求める健康コードだ。飛行機の座席番号も記入が必要で、万が一同乗者に陽性者が出た場合、その前後3列の乗客が濃厚接触者となり、集中管理の対象となる。

 フライト中はいたって普通だったが、到着すると防護服に身を包んだ関係者が機内に乗り込み、混雑しないように少人数ずつ降ろしていく。空港も防護服を着た関係者だらけで非常に物々しい雰囲気だった。

 健康申告エリアで、事前に入手しておいた健康コードの提示が求められ、問診を受ける。その後、PCR検査を受けてから入国手続きを行う。全てのプロセスにおいて数十人に同時に対応できる体制が整っており、待ち時間も比較的短く、スムーズに手続きを終えることができた。

 荷物を受け取りロビーに出ると、日本人だけ別の場所に移動させられる。荷物に消毒液をまんべんなく振りかけられた後、バスでホテルに向かった。到着したのは郊外のリゾートホテル「聖汐湾度假酒店」。宿泊している人はほとんどが日本国籍だった。宿泊費は自費。1日3食付いて500元(約8000円)、2人以上だと1人当たり食事代として100元追加が求められる。

 大連にはもう一つ日本人向けのホテル「大連昱聖苑国際酒店」があり、そこで隔離を経験した日本人の友人によると、フロントに日本語がしゃべれるスタッフがいて、案内各種も全て日本語だったという。なお、同時期に上海、広州で隔離を受けていた日本人の友人たちにも話を聞いたが、ホテル内には中国人も多く、日本人向けのホテルを用意しているのは大連だけのようだ。

 ホテル到着後チェックインを済ませ、ウィーチャットのグループチャットに加入すると、各自割り当てられた部屋に移動し、そこから2週間一歩も外に出られない隔離生活が始まった。

チャット上で日本人同士が助け合い

隔離ホテルでは窓からの景色を眺めて一息ついた
隔離ホテルでは窓からの景色を眺めて一息ついた

 全ての連絡はグループチャットで行う。日課の検温結果以外にも、年齢やパスポート番号、電話番号など数十人の個人情報がチャット上で公開される。

 個人情報の問題が懸念される半面、グループ内で日本人同士が助け合うことができる利点もある。中国語が分からない方にとっては心強いサポートだ。また、過去に宿泊した「先人」たちが残した「日本人向け隔離マニュアル」もシェアされ、新たな問題が起これば、誰かがマニュアルを更新し次の世代へと引き継いでいく。私も微力ながら貢献した。個人的にも、グループチャット上で旧知の友人と再会し、共通の友人の紹介を通じた新しい出会いもあった。

 ホテルによって対応が大きく異なるのが食事で、私のホテルでは3食全てが弁当だった。中国では日常よく使われるフードデリバリーサービスは受けられず、弁当以外の食事やお酒は、決められたメニューの中から選んで持ってきてもらうしかなかった。一方、友人が泊まった広州のホテルでは、弁当は付いておらず全てデリバリーで手配する必要があり、お酒は原則禁止だったという。

 弁当は全て地元料理。私は中国生活が長いので全く問題なかったが、食事が口に合わない人もいたようだ。電子レンジは備わっていなかったが湯沸かしポットはあるので、中国の食事に不慣れな人はラーメンやスープ、レトルトカレーなど、お湯で対応できるインスタント食品を準備しておくといいだろう。

 仕事の環境としては申し分ない。インターネット環境は、プライベートで動画を見るには若干物足りないが、オンライン会議ツールは全く問題なく使えた。何よりも、窓からの景色が素晴らしく、気分転換に外を眺めながら持ち込んだコーヒーで一息ついた。

隔離ホテルを支える中国人スタッフたち

 我々の生活を全面的にサポートしてくれるスタッフたちは親切だった。日用品や果物、お菓子などの買い出し、宅配便の手配など、各部屋から様々な要望が毎日出されてくる。食事についても、「朝食不要」や「おかずのみ」、さらには「パクチーを抜いてほしい」という個別の案件にも細やかに対応していた。

 宿泊客からのクレームもあった。ある人が「食事のクオリティーを高めてほしい」とチャット上でつぶやくと、「まずくて全部捨てた」と言う人や、シンガポールの弁当の写真を掲載し「シンガポールの弁当はうまいが、中国はまずい」と愚痴る人まで現れた。このようなわがままな日本人に対しても、「弁当会社と協議を始めましたので近日中に調整いたします。ご不便をおかけして大変申し訳ございません」と誠意のある対応をしていたのが印象深い。

 なお、隔離期間中にもPCR検査と抗体検査がそれぞれ1回ずつ行われる。防護服を着た医療従事者が優しく対応してくれた。リスクと隣り合わせの中、我々の生活をサポートしてくれたスタッフたちには心から感謝したい。

 チェックアウト時には、ある女性スタッフが「お疲れさまでした」と笑顔で送り出してくれた。

 14日間のホテル生活を終え、北京に帰り着いたのが2021年元日。空港では北京人で20年来の親友が笑顔で出迎えてくれた。新たな北京生活が始まった。

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