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横田めぐみさんの父、滋さんが87歳で亡くなった。
めぐみさんが北朝鮮に拉致されたのは43年前のことだ。唐突に消えた娘の姿を妻の早紀江さんと追い続けた後半生は、報われぬまま幕を閉じた。
拉致事件の多くは、韓国と北朝鮮の対立が厳しかった1970年代から80年代初めに起きた。工作員への日本語教育係の確保などが目的だ。ただ物証は乏しく、メディアも強い関心を払わなかった。
娘が拉致被害にあったと横田さん夫妻が知ったのは、事件から19年余りたってからだった。それまで手がかりは何もなかった。女性の頭骨が日本海で見つかったと連絡を受け、震えながら警察に向かったこともあるという。
帰国を待つ家族の高齢化は容赦なく進む。政府が認定する未帰国の被害者12人の親で存命なのは、早紀江さんら2人だけになった。
北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記は2002年の日朝首脳会談で拉致を認めて謝罪し、生存者5人の帰国が実現した。一方で北朝鮮は、めぐみさんら8人については詳細な説明なしに「死亡」と伝えてきた。その後の対応も不誠実で、とうてい信用できるものではなかった。
会談に官房副長官として同席した安倍晋三首相は拉致問題での強硬姿勢で存在感を高めた。政権に就いてからは自らの手で解決する決意を繰り返し語ってきた。
ただ取り組みは、ほとんど実を結んでいない。
14年のストックホルム合意では北朝鮮に再調査を約束させたが、何も得られないまま終わった。
その後は核・ミサイル問題と同時に解決を図ろうとトランプ米大統領の「最大限の圧力」路線に同調したが、昨年5月には一転して無条件の首脳会談を金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に呼びかけた。北朝鮮が前年に米韓との対話路線に転じたことを受けたものだが、いまだに反応はない。
厳しさを増す安全保障環境の下での拉致事件の解決は簡単ではない。首相が協力を期待するトランプ氏も、最近は金正恩氏との信頼関係を強調するばかりだ。
政府は、この間の経緯をいったん検証して戦略を立て直す必要がある。早期解決を図るための取り組みを強化すべきだ。