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 電力を効率的に制御し、省エネルギー(以下、省エネ)をもたらすパワー半導体。カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)のメガトレンドを捉え、東芝が最も力を入れる半導体の1つだ(図1)。同社はパワー半導体を「コアコンポーネント(中核部品)」かつ成長事業と位置づけ、積極的な投資を行っている。できる限り早いうちに、同社はパワー半導体を中心としたディスクリート(個別)半導体事業の年間売り上げを、現在の1500億~1600億円から2000億円に引き上げる考えだ。

図1 東芝のパワー半導体
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図1 東芝のパワー半導体
(写真:東芝)

 パワー半導体は、電流を直流から交流に変えるインバーターや、電流を交流から直流に変換するコンバーター、交流の周波数を変える周波数変換などの機能を持つ。それ故に、幅広い製品や分野で省エネに貢献する、まさにカーボンニュートラル時代のキーデバイスといえる。

 中でも東芝は、[1]モビリティーと[2]情報ネットワーク、[3]送配電インフラの3つの領域や市場を大きな商機とみている。

電動車と5G、再エネの風に乗る

 [1]のモビリティーでは、電動車のモーターを制御するインバーターはもちろん、充電のインフラやオンボードチャージャー(車載充電システム)、先進運転支援システム(ADAS)などへの展開に期待する(図2)。電動車では、48V電源を使う簡易ハイブリッド車(マイルドHEV)にも、東芝が開発に力を入れるパワー半導体であるパワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor FieldーEffect Transistor;金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)が多数使われているという。

図2 電気自動車(EV)でのパワー半導体の応用例
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図2 電気自動車(EV)でのパワー半導体の応用例
オンボードチャージャーにおける交流(AC)/直流(DC)コンバーターの昇圧回路の中、またモーター駆動装置のインバーター回路の中にパワー半導体が使われる。(出所:東芝)

 [2]の情報ネットワークでは、特に5G(第5世代移動通信システム)の普及による通信の高速・大容量化のニーズを見込む。5Gによって基地局が増え、通信量が増加すると、基地局の電力使用量が増大する。すると、省エネのためにパワー半導体の需要が増すと東芝はみる。

 [3]の送配電インフラでは、再生可能エネルギーの普及をチャンスとみる。再生可能エネルギーでは多くの場合、発電場所と電力利用者の場所との距離が遠い。この送電を高効率で行うために、高圧直流送電(HVDC)を使用する。ここで高電圧・大電流を扱えるパワー半導体の需要が増えると東芝は予測するのだ。

ものづくりが価値を創造する

 パワー半導体の特徴は、「ものづくりが付加価値を生み出す」(東芝デバイス&ストレージパワーデバイス技師長の高下正勝氏)点だ(図3)。パワー半導体は高い電圧をかけて、大きな電流を半導体ウエハーの裏面から表面へ、すなわちドレインからソースに縦方向に流す。そのため、縦に電流を流れる構造をいかに造り込むかが重要となる。

図3 パワー半導体の製造工程
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図3 パワー半導体の製造工程
製造プロセスの最適化が付加価値の高い製品づくりにつながるという。(写真:東芝)