気候変動とスタートアップ
SmartTimes BEENEXT ファウンダー・マネージングパートナー 佐藤輝英氏
コロナ危機よりも大きなインパクトを地球全体にもたらす可能性があるのが気候変動問題である。脱炭素社会を実現し、地球の気候を安全軌道に乗せることは我々が果たすべき未来への責任だ。その実現にはエネルギー部門のみならず、農業、輸送、建設、小売・サービス、情報産業まで、地球規模で全ての産業に変化が必要不可欠だ。
幸いにも、脱炭素で先頭を走る欧州に続き、日本の2050年カーボンニュートラル実現目標の発表や、米国のパリ協定復帰と、各国の足並みがそろいつつあり、国際的機運が高まっている。一方、そもそも残された時間は少ない。国や官民の垣根を超えて人類の英知を総動員し、新しいイノベーションを加速度的に起こしていく必要がある。
スタートアップの世界では、米国で2006~11年にクリーンテックブームがあった。この期間に250億ドルを超える膨大な資金が投じられ、ほぼ全てがエネルギー系スタートアップに投下された。残念ながらほとんどが長期的な資金ニーズに耐えられず、テスラやソーラーシティ、ネストなど限られた企業だけの成功をみて、一旦ブームが収束した。
それから10年。テクノロジーは大幅な進化を遂げた。AIやブロックチェーンの実用化、新素材の開発、バイオテクノロジーの発展、センサーを軸としたIoTの普及。今回はエネルギー業界だけでなく、全産業で気候変動問題に対処するスタートアップが生まれている。最近では、従前はエネルギー産業を指していたクリーンテックから、気候変動問題全体への対処を試みるスタートアップを総称して、クライメートテックと名称を変えて、新しい動きが起き始めている。
資金供給面では、2015年にビル・ゲイツ氏が発起人となって世界のトップビジネスリーダーたちが立ち上げたブレイクスルー・エナジー・ファンドやジェフ・ベゾス氏が昨年立ち上げたベゾス・アース・ファンド、マイクロソフトやユニリーバといった大企業も10億ドルを超える気候変動ファンド組成を発表するなど大きな動きが目立つ。
また、米VCを代表する老舗VCも続々とこの分野に資金を割り振りつつあり、米著名エンジェル投資家であるクリス・サッカ氏も専門ファンドを立ち上げた。今回は各国の大企業も本気度が違う。英BP、米シェル、独ダイムラー、スイスのネスレといった大手企業も軒並みCVCを立ち上げて、援護射撃を始めている。既にこの分野では43のユニコーンが誕生したという報告もある。
起業家は危機を機会と読む。地球規模でのこの危機は、地球規模での機会でもあるのだ。未来のグーグルやアマゾンが今度はこの分野から生まれてくると信じ、当分野の起業家の挑戦をおおいに賞賛し、サポートしていきたいと思う。
[日経産業新聞2021年4月21日付]
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