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「ぼく史上、最高のヴィンテージデニムジャケット5着です」前編──ベルベルジン・ディレクター、藤原裕「ヴィンテージ百景」

ヴィンテージデニムジャケットが高騰中! 藤原裕さんがいま、本当に好きなモデルはどれ?
藤原裕 ベルベルジン

【はじめに】

ヴィンテージデニムから時計、ゴローズまで。原宿にある古着屋「ベルベルジン」のディレクター、藤原裕の周りには古くて新しいモノがごろごろころがっている。いまかれが注目しているヴィンテージウェアをはじめ、藤原裕の周囲で熱い“今”を発信する!

こんにちは、藤原裕です。前回は、ぼくのマイベスト・ジーンズをご紹介しました。こんかいは、ここ数年、人気が急速に、いや爆速で高まっているデニムジャケットです。個体がそもそも少ない市場であるうえに、いまは、ファッションの世界でビッグサイズ人気の後押しがあり、世界的に売れました。50年代前後にリリースされた、デニムジャケットの祖である“ファースト”モデルでお気に入りのアイテムを2回にわたって取り上げます。

第5位 ラングラー 111MJ

ちょっと細いのがいい

ラングラーのジャケット(111MJ)の“ファースト”は、半年ほど前に購入したものです。購入時は70年代のものと思われるパッチワークやワッペンが施してあったのですが、1枚1枚慎重に取り除いて、少しリペアをしました。

ブランドの設立年は、デニム3大ブランド(リーバイス、リー、ラングラー)の中で最も新しいのですが、古着の数が少ないんです。特に大きめのサイズは個体数が圧倒的に少ないこともあって、ずっと入手できずにいました。これは1950年代のものです。ラングラーは当時唯一、デザイナーがデザインを手掛けたということもあって、作りが他の2ブランドとは少し違うのが特徴です。デニムジャケットのファーストモデルというと、リーバイスの影響から1ポケット仕様のデザインをイメージしがちですが、ラングラーの場合はファーストモデルでありながら2ポケット仕様。またこのモデルは動きやすさを考慮し、肩部分にアクションプリーツを施し、内側にはゴムバンドが付けられています。あとこのジャケットの特徴である丸カンヌキ留めは、ラングラーが初めて採用したものだと思います。シルエットはやや細身なので、他の2ブランドと比べると、ファッション的には使いやすくていいんです。

こちらの111MJは、生前にジョン・レノンが着用していたということもあり、ヴィンテージ市場においては価値の高い人気モデルとなっている。ちなみにこのモデルの前に11MJというプロトタイプも存在し、こちらも人気が高い。

ボックスシルエットだが、リーバイスやリーと比べると着丈は縦長で、やや細身のシルエット。これはだいぶ色落ちしているが、ラングラーらしい色落ちというものがあり、リーバイスの右綾織デニムのゴワッとしたものでなく、サッとすっきりした印象の縦落ちが特徴。

年代的に新しいものは、ベルマークが斜めにプリント表記される。この当時はまだベルマークが縦向きで、サイズ表記も入る。

両サイド部分には、ウエストのサイズを調整するためのアジャスターストラップも装備。当時のデニムジャケットとしては珍しいディテール。

身頃中央の丸い刺しゅうが“丸カンヌキ留”だ。

第4位 リーバイス 506XXE ”ブリーチ”

白いファースト

これはリーバイスの506XXEというデニムジャケットで、背中はいわゆる2枚はぎで“Tバック”と呼ばれている仕様です。一見するとホワイトデニムですが、実はきれいにブリーチされています。着ているとよく「ホワイトデニムのファーストってあるんですか?」って聞かれますね(笑)。あまりの珍しさから、数百万円単位で売って欲しいと言われたこともあります。これは先輩から購入したのですが、当時はお互い、デニムジャケット市場が高騰するとは予想もせず、超激安で譲っていただいたのです……(笑)。ぶっちゃけめちゃくちゃラッキーでした(笑)。これはウン10年前に所有していたひとがブリーチしたものだと思います。ここまでキレイに全体が漂白された個体は過去に見たことがないですね。通常、服を強くブリーチすると、薄い素材では生地が破れます。しかし、これは古着なのに特に破れもないので、元々はデッドストックに近い状態だったんじゃないでしょうか。まさか、そのときのオーナーも将来、このGジャンに数百万円の値段が付くとは思ってもいなかったでしょうね。これは一生手放すつもりはありません(笑)!

うっすらと残った淡いブルーも魅力だ。

背面にはしっかりと“T”が。こちらは506XXと同様、ゆったりとしたボックスシルエットが特徴。ボディそのものは第2次世界大戦が終わった後、1947年〜50年くらいにかけて製造されたものと思われる。ブリーチされた年代は不明。

布地を激しくブリーチすると、破れてしまうことがある。古着で生地が薄くなっていればなおさらだ。しかしこちらはほぼ破れなしで、さらに縫い目の奥を見ると、真っ紺のインディゴの存在が確認できる。つまり、ほぼデッドストックの状態からブリーチをかけたと推測される。

いわゆるヴィンテージデニム業界で“ハリ”と呼ばれている年代のもので、シンチバックの幅が大きめで、ハリを通した後に収納するスペースがあるのが特徴。このバックルが使われているのは1947年頃から。

知り合いのブランド、レザーブランドのApple Bee の社長さんが、501に似合う財布を作るべくサンプルにできる古いリベットを探していると聞いた藤原さん。自身が所有するデニム で「O(オー)」が小さい古いリベットがこのジャケットにしか付いていなかったことから、ここから剥ぎ取ってサンプルとして提供したそう。なかなかの男気。

第3位 カーハート ファースト

10年越しの出会い

1940年代製の、いわゆるファーストモデルです。10年以上探してやっと見つけました。僕が知る限り所有している人は3〜4人しかいません。しかもこれはサイズ「42」なのですが、ビッグサイズがまだ見つからないんです。当時のワークブランドのGジャンはリーバイスの特許に触れない範囲で模倣して、1ポケットで作っているますが、カーハートは基本的にカバーオールやエンジニアジャケットといった、着丈の長いアウターがメインだったので、着丈の短いGジャン自体が希少なのです。またこのGジャンは、少し縦長のシルエットであることをはじめ、ラングラーのGジャンと酷似しています。フロントプリーツ部分は、ラングラーは丸カン、こちらはボックスステッチである点、そして縦落ちも40年代特有ののっぺりとした色落ちなど、私見ですが同じ生地感だと思います。ボタンは第2次大戦後に生産された小ボタン仕様でフラップ付きですが、もし大戦中に生産されたカーハートのGジャンが出てきたら、ボタンの数が違っている可能性もあり得ると思います。

カーハートのGジャンは今回の1st以外に、50年代製の2ポケット仕様のものも存在する。ただこの道20年以上の藤原さんをもってしても過去に数着しか見たことがないそう。いかに弾数が少ないかがわかる。

背面。ヨークにダーツがはいっている。

赤いハートマークに青でブランドロゴを施した刺しゅうタグは、人気デザインのひとつ。カーハートは1889年創業。長い歴史ゆえ、10種類以上のタグが存在する。タグのみをコレクションするマニアもいるそう。

カーハートのヴィンテージウエアで、ボタンは特に人気の高いディテールだ。カバーオールではハート型の物も存在するなど種類も豊富だが、こちらは小さめの丸ボタン。文字やハートマークの繊細さはほかのデニムブランドにはない魅力だ。

その形から“UFOリベット”と呼ばれている金属リベット。ヴィンテージのワークウエアやパンツに多く見られるパーツだ。

リーバイスのファーストモデルはポケットのフラップ部分裏のみだが、このGジャンではフラップ以外に、裾やカフスの裏側にまで安価な薄生地を使用。見えない部分でコスト削減をしていたのだろうか。

バックルバックは、針を使わないスライド式のタイプで、いわゆるスライド式のバックル。シルバーに繊細な柄が彫金されているが、こちらはオリジナルではなく、当時の市販品だとは思われる。

第2位、第1位は4月28日公開! 続く!

PROFILE

藤原裕(ふじはら・ゆたか)

ベルベルジン・ディレクター

原宿のヴィンテージショップ『ベルベルジン』顔役。ヴィンテージデニムマイスターとして認知されている一方、多くのブランドでデニムをプロデュースするなど、現在のデニム人気を担っている。酒を飲むときはデニムのために、高タンパク低糖質のつまみにこだわる!

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文・オオサワ系 写真・湯浅亨