東京電力福島第1原発の敷地内にある汚染処理水について、政府は再処理した後に海洋放出する方針を決めた。漁業関係者ら地元の反対を押し切った形だ。
1~3号機の原子炉建屋では、溶け落ちた核燃料と地下水が接触して汚染水が発生し続けている。2年後にはタンクの容量を超えるとの試算がある。
処分方法について、政府は有識者による6年以上の議論の結果であることを強調する。
しかし、2015年には当時の経済産業相が「関係者の理解なしには海洋放出は行わない」と約束した。今回の決定は、理解を得る努力が不十分なまま行われた。
政府と東電は、地元への配慮を欠く対応を繰り返してきた。福島の人々は不信感を募らせている。
にもかかわらず「保管場所がなくなる」との理屈で一方的に押し通そうとする手法には、誠実さがうかがえない。
海洋放出を担う東電は、これまでも高濃度汚染水を海に流したり、地震計を壊れたまま放置したりする不祥事を重ねてきた。柏崎刈羽原発ではテロ対策の不備も発覚した。事業者としての能力が疑われている。
処理水を保管し続ければ廃炉作業に支障が出ると主張するが、燃料の回収など難題が山積し、具体的な展望を示せないようでは説得力を欠く。
政府や東電は、放射性物質を放出前に基準未満に減らすと説明している。除去できないトリチウムについても、基準未満になるまで薄める計画だ。
トリチウムは弱い放射線を出すが、基準を満たしていれば健康被害は避けられるという。ただ、こうした科学的な合理性を訴えるだけでは国民の理解は得られまい。まして、中国や韓国など近隣諸国の懸念を拭うのは容易ではない。
政府は決定に際し、風評被害対策を充実させると表明した。だが最も重要なのは、風評そのものを生まないことだ。海洋放出以外の代替策の検討が尽くされたのか、疑問視する声もある。
放出開始までは、2年程度を見込むという。政府と東電はまず、信頼を取り戻すよう努めるべきだ。それなくして見切り発車することは許されない。