あくびは、哺乳類をはじめとした脊椎(せきつい)動物で見られる行動だが、この一見単純な現象も分かっていないことが多く、今のところ科学的な説明は十分ではない。(参考記事:「あくびが出るのは脳を冷やすため?」)
自然に発生するあくびもあれば、あくびを見たり、聞いたりしたときに出る伝染性のあくびもある。自発的なあくびには、頭部への血流を増やす、脳への酸素供給、脳の冷却といった生理機能があるとする研究が多い。その結果、あくびをした動物は、特に眠気のあるときに注意力を高められる。
一方で未解明なのは、伝染性のあくび、つまり哺乳類はなぜ誰かのあくびに反応してあくびをするのか、という問題だ。
人間の場合、伝染性のあくびは一種の共感ではないかという研究結果がある。通常、あくびをする人はストレスや不安、退屈、疲労を感じており、その人への共感としてあくびが出るというのだ。伝染性のあくびはチンパンジー、オオカミ、イヌ、ヒツジ、ゾウでも研究されている。ただ、これまでライオンを対象にした研究はなかった。(参考記事:「オオカミもあくびがうつる」)
今回、南アフリカに暮らす野生のライオンを対象に、伝染性のあくびの研究が行われた。ライオンは仲間のあくびに「感染」した後、動きを協調させる傾向が見られた。この論文は学術誌「Animal Behaviour」の2021年4月号に発表された。
「データとしてはっきりと結果が出ました。一緒にあくびをした2頭のライオンは、その後に極めて同期的な行動を取ったのです」と、論文の著者であるイタリア、ピサ大学の動物行動学者エリザベッタ・パラージ氏は話す。
つまり、ライオンのように社会性をもつ動物にとって、伝染性のあくびには重要な意味があるということだ。ライオンは狩りや子育て、侵入者からの防御を群れで行う。
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