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原発事故により放射性物質が周辺に広がった際、体内に吸い込んだ放射性ヨウ素が甲状腺に集まることで起きる「甲状腺被ばく」は、甲状腺がんを引き起こす恐れがある。甲状腺被ばくの影響を防ぐ効果が期待される医薬品が「安定ヨウ素剤」だ。ただ、原発周辺の自治体では住民への配布が進んでいない。【荒木涼子】
説明会のハードル、郵送ケースも
2011年の東京電力福島第1原発事故では、国の安定ヨウ素剤の服用指示が、通信網の混乱などで原発周辺の自治体に伝わらなかった。その上、安定ヨウ素剤をもらえなかった住民も多かった。この教訓を踏まえ、原子力規制委員会は原子力災害対策指針に基づき安定ヨウ素剤を配布するためのマニュアルを定めた。
マニュアルでは、原発の5キロ圏内で暮らす原則40歳未満の住民を対象に、道府県や市町村が事前に配ることになっている。40歳以上でも、妊婦や希望者には配布される。入手した住民は、道府県と市町村が開く定期的な説明会に参加し、医師ら専門家から説明を受けたり、3~5年の使用期限ごとに交換したりする必要がある。
しかし、実際には説明会への参加などがハードルになり、配布率は高まっていない。
東京大と毎日新聞のアンケートで安定ヨウ素剤に関して尋ねたところ、原発5キロ圏内の14道府県の配布率は、全体で57%にとどまった。再稼働に向け国の新規制基準を満たした原発5キロ圏内の8府県でさえ、配布率は67%と100%にはほど遠い。
「説明会の会場に足を運んでもらえないと始まらない。チラシで周知を心がけているが、原発が再稼働して関心が高かった15年ごろに比べ、ハードルは高くなった」。九州電力川内(せんだい)原発がある鹿児島県薩摩川内市の担当者はそう話した。21年3月15日時点の配布率は68.5%という。
同原発の1号機が再稼働したのは15年8月。15年度の配布率は74.1%だった。ところが、安定ヨウ素剤の使用期限が迫り、交換の時期を迎えた18年度には60%を切った。それから、説明会を開くとその度にやや増えるものの、対象の全員に行き渡るかは見通せないという。「交換時期が来れば、また配布率は下がる。受け取りたい人が減ってきているとさえ感じている」
一方、東北電力女川原発がある宮城県は、…
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