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 米Apple(アップル)の自動車参入の可能性がささやかれる中、どのようなインパクトを自動車産業に与えるのか。トップアナリストとして自動車産業を見続けてきたナカニシ自動車産業リサーチ代表の中西孝樹氏に、アップルカーの衝撃を洞察してもらった。(聞き手は星 正道=日本経済新聞社企業報道部)

中西孝樹氏
中西孝樹氏
(写真:日本経済新聞社)
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2021年1月以降、Appleと自動車大手による提携協議の報道が相次いでいます。受け止めは。

 やはりきたか、というのが率直な感想だ。来るべきものが来た。Appleには16年ごろから自動運転プロジェクト「タイタン」があり、19年後半からそのプロジェクトが再加速し始めた話を私も耳にしていた。ソニーが20年に自動運転の電気自動車(EV)「VISION-S(ビジョンS)」を発表し、Appleも後れを取ってはならないという状況になっていた。

 強気なAppleというよりも、焦りがあると考えている。タイタンは当初、20年、21年には実用化されるとみられていたが、曲折があり、ものになるところまで到達できていない。得意のUI(ユーザーインターフェース)があるとしても、自動運転や電池技術の存在感はなく、肝心の次世代技術のパテントも見えていない。好調な米Tesla(テスラ)や、ソニーの動きを踏まえ、Appleにも焦りがあるだろう。本来、秘密主義のAppleなだけに、ここまで情報が漏れるのには、それなりの理由があるとみる。

Teslaの勢いが影響していると。

 TeslaとAppleのコアコンピタンスは重なる。Appleは当初、自動車産業にすっと入れると思っていた節があるが、相当な遅れになってしまった。実際、Teslaは参入に苦労した。18年の段階でTeslaはかなりの確率で倒産と言われて、事業売却の話が浮上した。ところがTeslaは乗り切り、劇的に変化して飛躍を遂げた。

 自動車販売10万台規模のメーカーが25年には150万~170万台くらいの規模に育つ可能性が見えてきた。誰も想像できなかったことだ。主力モデルが3つそろい、飛躍の可能性を確認できたのが19~20年ごろ。このままではAppleは自動車でやろうとしていることをTeslaに全部、押さえられかねない。逆算すると、Appleは25年には自動車をしっかりと販売し、30年くらいにはTeslaに対抗できるポジションに立つことを見据えているのではないか。