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 40年以上不変だった一般利用者が支払う銀行の振込手数料が下がる可能性が高まっている。全国の金融機関をオンラインで相互接続する「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」を運営する全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)は2021年3月18日、銀行間の送金にかかる手数料を見直すと発表したからだ。

 現在は銀行間の送金に際して、振り込む(仕向け)銀行が振り込まれる(被仕向け)銀行に対して、「銀行間手数料」を支払っている。銀行間手数料が、一般利用者が負担する振込手数料のベースである。銀行間手数料は銀行間の個別協議により定めるとされているが、実際には3万円未満の振り込みの場合117円(税抜き)、3万円以上の場合は162円(税抜き)で40年以上据え置かれている。

 全銀ネットは2021年10月から「内国為替制度運営費」という制度を新設し、手数料の水準を引き下げる。振り込む銀行から振り込まれる銀行に支払う費用を1件当たり62円とし、現行の銀行間手数料より55~100円下がる計算になる。

振り込み業務のイメージ 
振り込み業務のイメージ 
(出所:全国銀行資金決済ネットワーク)
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 62円の内訳は以下の通りだ。振り込まれる銀行側のシステム費や人件費などの「被仕向対応コスト」が50円。ここには全銀システムの提供元であるNTTデータに支払う全銀システム経費も含まれ、この経費は6円程度と報じられている。この50円に振り込まれる銀行側の利益として12円が加わって合計で62円となる。利益相当分は経済産業省の「企業活動基本調査」に基づいて算定している。

 この62円に振り込む銀行の費用や利益を加えた金額が、消費者が支払う振込手数料となる。振り込む銀行がいくら上乗せするかは、「各行がそれぞれの経営戦略や事業戦略に基づいて決める」と、全銀ネットを傘下に持つ全国銀行協会の三毛兼承会長(三菱UFJ銀行頭取)は話す。

全国銀行協会の三毛兼承会長(三菱UFJ銀行頭取) 
全国銀行協会の三毛兼承会長(三菱UFJ銀行頭取) 
(撮影:日経クロステック)
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 全銀ネットは内国為替制度運営費を5年に1度見直し、「社会通念上合理的な水準であることを維持する」(全銀ネット)としている。5年という数字はITシステムの一般的な減価償却年数に従った。

「事務コストを大幅に上回る」、公取委が問題視

 引き下げのきっかけは約1年前の2020年4月に遡る。同月、公正取引委員会は「フィンテックを活用した金融サービスの向上に向けた競争政策上の課題について」という文書を公表した。

 その中で、現在の銀行間手数料の水準は「事務コストを大幅に上回っている」との見解を示した。さらに各銀行が銀行間手数料を設定してから40年以上見直しておらず、銀行間で変更交渉が行われた事実を確認できなかったことも問題視した。

 「各銀行は、銀行間手数料の必要性を含めた検討を行ったうえ、設定水準、設定根拠に関する説明責任を十分果たすことにより、事務コストを大きく上回る銀行間手数料の水準が維持されている現状の是正に向けて取り組むべきである」。同文書はこのように書いている。