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『新型コロナワクチンで17人のアナフィラキシー』、リスクの高いワクチンなのですか?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

『新型コロナワクチンでアナフィラキシー』という言葉を、ニュースでよく聞くようになりました。

新型コロナのワクチンが、『他のワクチンや薬剤と同様に』アナフィラキシーを起こしうることは既にわかっていました(※1)。

そして3月9日の厚生労働省の発表では、17例のアナフィラキシーが報告されています(※2)。

新型コロナワクチン接種の実績は3月9日までで107,558回と報告されていますから、

ざっくりと計算すると、100万回中158例、約0.016%程度の発生率ということになるでしょう(※3)。

2020年12月にCDCから発表されたファイザー社の新型コロナワクチンのアナフィラキシーの頻度は1,893,360回中21例(100万回あたり11.1例)であったことから、やや多いようにも思えますね(※4)。

(※1)『新型コロナワクチンで6人のアナフィラキシー』は、どれくらいのリスク?アレルギー専門医が考察

(※2)アナフィラキシーについての報告事例一覧(3月9日更新、計17例)

(※3)新型コロナワクチンの接種実績

(※4)Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Moderna COVID-19 Vaccine — United States, December 21, 2020–January 10, 2021

では、新型コロナワクチンのアナフィラキシーの頻度はとても高く、リスクの高いワクチンなのでしょうか?

アナフィラキシーとは何でしょうか?アナフィラキシーショックとの違いは?

ここで、『アナフィラキシーとはなにか』から、おさらいしてみましょう

ちょっと難しい言葉もでてきますが、大事なことですのでちょっとお付き合いくださいね。

アナフィラキシーは、『アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏症状』とのことです(※5)。

むずかしいですね。

まず、すこしだけ簡単にしましょう。

アナフィラキシーとは、

『アレルゲン等が体にはいってくることで、ふたつ以上の臓器に、そして全身にアレルギー症状が起こる、いのちに危険がおよぶ可能性のある過敏な反応』

のことです。

これでも、2つ以上の臓器、というのがわかりにくいですね。

臓器、というのは体のそれぞれのパーツと考えるといいでしょう。

たとえば、

1)皮膚(じんましん、赤くなるなど)

2)呼吸器(咳やぜいぜい、呼吸が苦しくなるなど)

3)循環器の症状(血圧が下がったり、意識障害を起こす)

4)消化器(何度も吐く、つよい腹痛など)

といった症状のグループのうち、ふたつの臓器にわたって症状が急速に広がるのがアナフィラキシーです。

それでも難しいですよね。

さらにややこしいことに、アナフィラキシーには3つの診断基準があります。

アナフィラキシーガイドラインより筆者作成
アナフィラキシーガイドラインより筆者作成

ひとつひとつ行きましょう。

ひとつ目が、

『アレルギーの原因になるものが体に入ったかどうか分からなくても、まず1)皮ふの症状があって、それ以外の、2)呼吸器症状、3)循環器症状、4)消化器症状のどれかが、急速に(数分~数時間以内)に現れる』というものです。

アナフィラキシーガイドラインより筆者作成
アナフィラキシーガイドラインより筆者作成

ただ、今回心配なのは、新型コロナワクチンを接種直後の話ですね。

その場合はふたつ目の診断基準が重要になります。

すなわち、『(アレルゲンになる可能性のある)新型コロナワクチンを接種したあとに、1)皮ふ症状、2)呼吸器症状、3)循環器症状、4)消化器症状のうち、どれかふたつの症状が急速に(数分~数時間以内)に現れる』というものです。

アナフィラキシーガイドラインより筆者作成
アナフィラキシーガイドラインより筆者作成

そして、特に、アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合を『アナフィラキシーショック』といいます。この場合は、必ずしも皮ふの症状などは明らかでなくても診断されます。

アナフィラキシーガイドラインより筆者作成
アナフィラキシーガイドラインより筆者作成

つまり、アナフィラキシーは心配な症状ではありますが、『アナフィラキシーショック』とは必ずしも言えません。速やかな対処で回復することが多いということです。

たとえば、じんましんがたくさん出て、同時に呼吸が苦しくなった(=2つの臓器に症状があり、全身に広がった)場合はアナフィラキシーですが、血圧が下がったり意識状態がしっかりしていればアナフィラキシーショックではないということになります。

よく、『ショックを起こさなかったからアナフィラキシーではないですよね?』と言われる方もいらっしゃいますが、そういうわけではないということです。

(※5)アナフィラキシーガイドライン

厚生労働省から発表された、アナフィラキシーの詳細を確認してみると…

最初に述べた、厚生労働省からの報告を確認してみましょう(※2)。

このような例が挙げられています。

1) 接種後5分以内に咳がみられ、その後、呼吸が早い、まぶたの腫れ、全身のかゆみ等の症状がみられた。投薬後、症状は改善した。

2) 接種後30分以内に咳、のどの痛み等の症状がみられた。投薬後、症状は回復した。

3) 接種後10分の時点でかゆみ、発赤が発生し、その後、下痢の症状がみられた。その後、症状は軽快した。

いわゆる、『ショック』とまでは至らない、かなり軽い症状の方も多く見うけられます

もし、『アナフィラキシー』を、『ショック症状をおこしている』と考えておられる方がいらっしゃるとすれば、必ずしもそうではないということです。

そして、『全員が、処置や安静で回復』されていることも留意しておいてよいでしょう。

アナフィラキシーは、新型コロナワクチン以外の医薬品ではどれくらい起こるのでしょう?

アナフィラキシーは、多くの医薬品で起こりうる症状です。

たとえば、よく使われるセファロスポリンという抗菌薬に対してのアナフィラキシーの頻度は、100万人あたり1人~1000人と推定されています(幅が広いのは研究ごとに差があるからです)(※6)。

そして、解熱鎮痛剤に対するアナフィラキシーの頻度は、100万人の過去1年あたりで考えると30~500人程度ではないかと考えられています(※7)。

では、他の予防接種と比較するとどうでしょう。

米国のデータベースにおける検討で、ワクチン接種約2500万回を検討した報告では、アナフィラキシーの発生率はワクチン 100 万回あたり 1.31回と推定されています(※8) 。この結果と比較すると、新型コロナのワクチンは多いなという印象を持つかたもいらっしゃるかもしれません。

しかし、これらの頻度をそのまま横並びで比較するわけにはいきません。

なぜなら、新型コロナのワクチンは新しい方法で製造されています。

注目が集まっているからこそ、その副反応の情報収集はより丁寧に行われており、『最大限の情報がひろいあげられている』可能性が高いでしょう(※9)。

(※6)New England Journal of Medicine 2001; 345:804-9.

(※7) Current Treatment Options in Allergy 2017; 4:320-8.

(※8)Journal of Allergy and Clinical Immunology 2016; 137:868-78.

(※9)『新型コロナワクチンで6人のアナフィラキシー』は、どれくらいのリスク?アレルギー専門医が考察

さらにもう一つ、留意しておかなければならない点があります

今回の新型コロナワクチンの接種は、特に感染リスクに曝されている医療従事者から始まりました。

一般の方ではなく、医療従事者に始まったわけですね。

3月8日に米国の医学雑誌に、ある米国の病院・医師ネットワークに勤務している人たち64,900人への新型コロナワクチン接種に関し、研究結果が報告されました(※10)。

医療従事者への新型コロナワクチンの接種時にアナフィラキシーが確認されたのは16人で、そのうちファイザー社の新型コロナワクチンでのアナフィラキシーが7人(0.027%)、モデルナ社の新型コロナワクチンでは7人(0.023%)だったのです。

100万回あたり247人の率だったということです。

2020年12月に発表されたファイザー社の新型コロナワクチンのアナフィラキシーの頻度100万回あたり11.1例に比較して、多くみえますよね。

そして最初に述べた、日本で始まった新型コロナワクチン接種のアナフィラキシーの発生率100万人中158人、約0.016%程度と同じくらいにもみえます

この理由はよくわかっていません。

しかし、医療従事者はもともと医薬品にさらされることが多いことから、アレルギーを起こしやすくなっている可能性もあるかもしれません。

たとえば、医療従事者はラテックス(ゴム)製の手袋をすることが多く、ラテックスアレルギーが多いことが知られています(※11)。

つまり、接種をする集団によっても、差がある可能性はあるかもしれないということです(筆者注:mRNAを利用した新型コロナワクチンにラテックスは使用されていませんので、これはあくまで”例”です)。

(※10)Blumenthal KG, et al. Acute Allergic Reactions to mRNA COVID-19 Vaccines. Jama 2021.

(※11)Taylor JS, Erkek E. Latex allergy: diagnosis and management. Dermatologic therapy 2004; 17:289-301.

新型コロナワクチンの重要性はかわりません。

ここまでで言えることは、新型コロナワクチンに関し『アナフィラキシーを起こす可能性はあるけれども、それは必ずしもアナフィラキシーショックではない』ということ、そして現在のところ、適切な処置でみなさん回復していることです。

そして、接種する集団や、症状の程度を低めに、そして感度を高く集計しているために多く見えている可能性もあるということです。

今後、十分に精査していく必要性があるでしょう。

個人的には、すべての情報をタイムリーに開示しておられる厚生労働省の方針は、きわめて重要だと思っています。

情報をひろく共有し、透明性の高い状況で新型コロナワクチンの接種をすすめていくことこそ、大事なのです。

そして、その情報を整理してわかりやすく発信していくことが政府には求められているでしょう。

ワクチンの重要性は変わりません。

私も、接種を心待ちにしています。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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