FILM

3月8日は国際女性デー! 性差別を考えるための映画3選

国際女性デーは、「女性の政治的自由と平等のために戦う」記念の日として制定された。アメリカをはじめ数カ国では、3月は「女性史月間」でもある。ライターで翻訳家の野中モモが、これを機に観たいオススメ作品を厳選した。

未来へつなぐ、女性たちの燃えるような意志

サンディエゴ州立大学の「映画およびテレビにおける女性研究センター」は、毎年、アメリカ合衆国の年間興行成績で上位100本に入る成功を収めた映画のうち、女性が監督した作品が占める割合を出している。この調査によれば、近年、女性監督の割合は増加傾向にあり、2020年には過去最高の数字を記録したそうだ。さて、あなたは「2020年にアメリカでヒットした100本の映画のうち女性監督作品が占める割合」は、どのくらいだと思うだろうか?

正解は16%。残り84%の中にノンバイナリーや性別非公表の人がいる可能性を考えても、やはり女性は男性に比べて明らかに少ないと言えるだろう。しかし、これでも過去最高の数字なのだ。

男性も女性も共に映画を楽しんでいるのに、それを世に送り出す人々のあいだには、極端なジェンダーの不均衡がある。そもそも映画会社の重役やプロデューサーがほぼ男性ばかりの状況下で、女性クリエイターがイニシアチブをとって作品を制作から公開までこぎつけるのは、たいへんな苦労の連続に違いない。

いま、芸術的・批評的な評価を獲得するのみならず、商業的なフィールドでも大活躍する女性の映画監督が少しずつ増えているのは、そんな逆境にあっても決して諦めずに努力を続けてきた先人たちのおかげである。国際女性デーと女性史月間は、平等を求めて闘ってきた人々の歩みに思いを馳せる良い機会。女性クリエイターが実在の女性にスポットを当てた作品から、彼女たちの燃えるような意志を受け取り、未来につなげていこう。

Moviestore collection/アフロ

『未来を花束にして』(サラ・ガヴロン監督/2015年)

君主制が倒れ、共和制が成立してから、性別や財産の有無で制限されない普通選挙が実現するまでに、どれだけの時間を要したのか。これは、歴史を知るうえで外せない重要なポイントだ。『未来を花束にして』は1910年代のイギリスにおける女性参政権運動を、架空の女性をヒロインに据えつつ史実に基づいて描いた作品。

幼い娘を抱えながら洗濯工場にて劣悪な労働条件で働いている主人公は、エメリン・パンクハースト率いる女性政治社会連合の運動に身を投じる。長い年月にわたり、さまざまな人々によってあの手この手で続けられた女性参政権運動の中でも、爆弾の使用や放火など、要求を通すためなら暴力的な手段も辞さなかったことで知られるグループだ。主人公も危険分子として警察から目をつけられ、収監されて拷問を受ける。

2015年10月12日、米・ニューヨークで行われた『未来を花束にして』のプレミアにて、主演のキャリー・マリガンとサラ・ガヴロン監督。 (Photo by Jim Spellman/WireImage)

Jim Spellman

キャリー・マリガン、メリル・ストリープ、ヘレナ・ボナム・カーターというオールスターキャストには、目を覆いたくなるようなつらい史実を少しやわらげて広く伝える効果がある。主人公の夫役のベン・ウィショー、活動家たちを追う警部役のブレンダン・グリーソンも好演。

Everett collection/アフロ

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(ヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン監督/2017年)

一般に、「第1波フェミニズム」といえば、『未来を花束にして』で描かれたような19世紀末から20世紀はじめの女性参政権運動の盛り上がりのことを指す。そして1960年代から1970年代に世界的に広がった、性差別的な制度に加えて社会に浸透した暗黙の性役割分担や画一的な「女らしさ」を批判する動きが、「第2波フェミニズム」だ。

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は、後者に重なるアメリカのウーマン・リブ運動の時代に、女性たちをおおいに励ました女子テニスチャンピオン、ビリー・ジーン・キングの伝記映画である。女子チャンピオンの賞金が男子チャンピオンのわずか8分の1であることに怒ったキングは、全米テニス協会に抗議し、自ら新団体を立ち上げる。

自分たちで新しい大会を組織し、ツアーをおこなって大衆の支持を集めていくキングたちの快進撃には、バンドやプロレスものに通じる楽しさも。また、現在はレズビアンとしてカミングアウトしているが、当時は夫がおり、日本では「キング夫人」として知られていた彼女が、初めて女性と恋に落ちる姿も描写される。

2017年10月7日、英・ロンドンで行われた『『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のヨーロッパプレミアでのヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン監督。(Photo by Fred Duval/FilmMagic)

Fred Duval

そんなキングに「男VS女」の試合を持ちかけてきたのが、かつての世界王者ボビー・リッグス。はじめは気がすすまなかったキングだが、ライバルの女子選手がリッグスに敗北したのを受けて、絶対に負けられない闘いに挑むのだった。

スティーヴ・カレルがリッグスの悲しさと滑稽さを見事に表現し、エマ・ストーンはキング役として圧巻の身体能力を見せつける。ファリス&デイトン監督は夫婦なのだそうだ。

Netflix映画『ニーナ・シモン〜魂の歌』独占配信中

Netflix

『ニーナ・シモン〜魂の歌』Netflix(リズ・ガーバス監督/2015年)

不世出のジャズ・シンガーにしてピアニスト、ソングライターでアクティビストでもあるニーナ・シモンの生涯を紹介するドキュメンタリー映画。

1933年、アメリカ合衆国ノースカロライナ州に生まれたシモンは、幼い頃から音楽の才能を見せ、「黒人初のクラシックのピアニストになりたい」という夢を抱いていた。しかし、黒人であることを理由に音楽大学への進学の道を阻まれ、生活のためにクラブで歌いはじめる。そこで警官のアンドリュー・ストラウドと出会い、結婚。アンドリューは警察を辞めてマネージャーとしてシモンを売り出し、スターにしたが、暴力を振るう男でもあった。60年代、シモンは激務と人間関係に傷つきながら、公民権運動にのめり込んでいく。

2015年6月1日、ニューヨークで行われた『ニーナ・シモン〜魂の歌』のプレミアにて。左から、Netflixディレクターのアダム・デル・デオ、リズ・ガーバス監督、Netflixエグゼクティブ・プロデューサーのリサ・ニシムラ。(Photo by Mark Sagliocco/FilmMagic)

Mark Sagliocco

シモンが経験した苦難には、性差別、人種差別、貧困、精神疾患など、さまざまな要素が絡み合っており、平等な社会を目指すにあたってインターセクショナリティ(交差性)を意識することの大切さを思い知らされる。そんな彼女が繰り出すパフォーマンスは、唯一無二の個性と強烈な音楽の魔法に満ちていて驚異的だ。

Netflix映画『ニーナ・シモン〜魂の歌』独占配信中

Netflix

キャリアの初期から晩年までの素晴らしい演奏がいくつか収められている中で、とりわけ彼女が公民権運動の熱気の渦中で披露した「Ain't Got No, I Got Life」は胸を打つ。日本語字幕では歌詞の「I got my sex」が「性別もある」となっているが、ここはもっと大きく「性」として受け止めたい。黒人の同胞たちはもちろんのこと、すべての闘う人の心に響くアンセムだと思う。

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野中モモ(のなか もも)
PROFILE
ライター、翻訳者。東京生まれ。訳書『飢える私 ままならない心と体』『世界を変えた50人の女性科学者たち』『いかさまお菓子の本 淑女の悪趣味スイーツレシピ』『つながりっぱなしの日常を生きる ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの』など。共編著『日本のZINEについて知ってることすべて』。単著『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』。