最新記事

アメリカ政治

トランプ後継への隠し切れない野心、元国連大使ニッキー・ヘイリー

NIKKI HALEY'S BIG CHANCE

2021年3月5日(金)18時00分
ビル・パウエル(本誌記者)

トランプ的な政策を推進しつつ、実務家として有能なヘイリーに期待が集まる PHOTO ILLUSTRATION BY GLUEKIT; ALBIN LOHR-JONESーPACIFIC PRESSーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<議事堂襲撃事件でトランプへの求心力は急落、ヘイリーは「2024年」を制するのか?>

ニッキー・ヘイリーはドナルド・トランプに忠実だった。国連大使を務めたが、あの男と仲たがいすることなくホワイトハウスを去った。トランプ政権で稀有な例だ。娘婿で最側近だったジャレッド・クシュナーも言っていた。彼女が戻ってくるならいつでも大歓迎だと。

しかし1月のあの出来事でヘイリーは心変わりしたらしい。FOXニュースの番組に出演した彼女は昨秋の大統領選について、およそ非トランプ的な見解を披露している。

「たくさんの女性、たくさんの大卒者に見放された。私は彼らを取り戻し、党の裾野を広げたい」。彼女はそう言った。「1月6日はひどかったし、選挙後の大統領の行動は、褒められたものじゃなかった。それが残念。なぜならトランプ政権の成果は誇らしいものだと、私は本気で信じているから」

これを聞いて、共和党内部には激震が走った。2024年の大統領選には自分が立つと宣言したに等しいからだ。ヘイリーは礼儀正しくトランプ政権の業績をたたえたが、あの男からは距離を置いた。そこが次期大統領の座を(ひそかに)狙う他の男たち(テキサス州のテッド・クルーズやフロリダ州のマルコ・ルビオら)とは違う。匿名で取材に応じたトランプ陣営の元幹部によれば、そのときトランプの取り巻き連中は「頭から火を噴いた」そうだ。

襲撃事件で勢力図が一変

サウスカロライナ州知事を2期務めたヘイリーは、明確に企業寄りで典型的な共和党政治家だが、選挙では女性や大卒有権者からも広く支持された。口に出してこそ言わなかったが、彼女は確信している。トランプ(の亜流)では女性や大卒者の支持を取り戻せないが、自分ならできると。新副大統領のカマラ・ハリス(順当にいけば民主党の次期大統領候補となる可能性が高い)と同じインド系の女性という点も、選挙戦では有利に働くだろう。

彼女が示唆したとおり、1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件で共和党内の勢力図は一変した。あの日までは、昨秋の大統領選で共和党候補者として史上最多の7400万票を獲得したトランプこそが次の大統領選でも最有力候補と目されていた。彼が出ないとすれば、後継者は長男のドナルド・トランプJr.かテキサス州選出上院議員のクルーズ。そんな空気だったが、あの日を境にトランプの政治的な求心力は一気に低下した。2度目の弾劾裁判でも無罪にしてもらえたが、以前ほどの影響力を回復するのは難しい。

トランプJr.の野心にはみんな気付いている。2016年の選挙戦中から、彼は集会にもテレビにも出まくり、SNSでも活発にメッセージを発信していた。ひたすら父親を守り、批判派を攻撃することに徹してきた。支持者の心をつかむ術にたけているし、それを楽しんでいるようにも見えた。政治経験はないが、そのことは父親のときと同様、むしろプラスになるはずだ。

そして1月下旬の時点でも、共和党支持者に限ればドナルド・トランプの支持率は落ちていなかった。NBCの調査で、共和党員の87%は大統領時代のトランプの仕事ぶりを評価すると答えていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国と中国、外交・安保対話開始へ 3カ国首脳会合前

ワールド

岸田首相、日本産食品の輸入規制撤廃求める 日中首脳

ワールド

台湾の頼総統、中国軍事演習終了後にあらためて相互理

ビジネス

ロシア事業手掛ける欧州の銀行は多くのリスクに直面=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 9

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 10

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中