サウジ皇太子、国際的評価に傷 正念場は王位継承後か

サウジアラビアのムハンマド皇太子(ゲッティ=共同)
サウジアラビアのムハンマド皇太子(ゲッティ=共同)

 【カイロ=佐藤貴生】サウジアラビアで大きな権力を握るムハンマド皇太子(35)が反体制サウジ人記者の拘束や殺害を承認していたとの報告書をバイデン米政権が公表し、次期国王と目される皇太子の国際的な評価は傷ついた。

 サウジ外務省は26日、報告書は「虚偽や受け入れられない評価」が含まれているとして、「完全に拒絶する」との声明を出した。ただ、皇太子は国内で有力王族や富豪、反体制派の締め付けを強めており、目的のために手段を選ばぬ強権姿勢で知られている。

 皇太子は2017年に「反汚職」の名目で王族や富豪ら約380人を拘束、約1070億ドル(約11兆4千億円)をはきださせている。国王を目指す上で障害となりかねない有力王族を排し、自ら主導する社会・経済の大規模改革「ビジョン2030」の資金を捻出する狙いとの指摘も出た。

 一方、サウジの首都リヤドに事務所を置く日本貿易振興機構(ジェトロ)の庄秀輝所長は、報告書の公表を受けて「外国企業が対サウジ投資をためらうことは考えにくい」と話す。記者殺害事件から2年以上が過ぎ、外国企業の間で事件の印象は薄れている。

 皇太子の次期国王への道筋も、父親のサルマン国王(85)の寵愛(ちょううあい)を受けている限りは揺るがない。皇太子は国防相も兼務し、国王の信頼に変化はみられない。ロイター通信によると、サウジの大手メディアは報告書公表のニュースをほとんど伝えなかった。

 皇太子の正念場はむしろ、国王という後ろ盾を失った後だとの指摘がある。

 サウジの歴代国王は王室内に対立の火種を残さぬよう、親子間の権力移譲は避けるのが通例だった。王位継承後も、王室内部や国内の有力者に不満がくすぶり続ける懸念がある。

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