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「校則は時代にあわせて変えたっていい」伝統女子校の生徒と先生が1年間話し合い

今村久美認定NPO法人カタリバ代表理事
「校則を見直す中での学び」を振り返る安田女子中学高等学校の生徒達(カタリバ撮影)

2020年、コロナ禍でかわった学校の動き

2020年は、コロナ禍による変化があちこちで起きた年でした。学校では、授業のオンライン化が進んでいきました。その裏で、もう1つ起きていた変化が、これまで当たり前に存在した「校則」を、再度捉え直す動きです。

2020年3月には佐賀県教育委員会が県立高校に校則の見直しを求める通知を出しました。同年6月には中学生が学校に携帯電話を持ち込むことを条件付きで認めることを文部科学省が検討。学校側と生徒、保護者が合意した上でのルール作りを学校へ求めました。これまで「変わらない」と思われてきた校則・ルールにも、変化が生まれつつあるのかもしれません。

私が代表を務めるNPO「カタリバ」は20年間、対話型キャリア教育や10代のための放課後の居場所づくりに取り組んできました。その中で、「校則だからこれはできない」「決まっているものだからしょうがない」と話す子どもたちのことも、たくさん見てきました。

その言葉を聞く度に、「校則は、子どもたちの主体性を奪うシステムになっていないか?」という仮説を持つようになりました。「ブラック校則」という言葉も流行り、学校に対して批判の目が向けられ、先生という存在について厳しく語られることも増えました。

しかし実は、システムを作る側にいるようにも見える先生達や保護者の中にも、「この校則は必要なのか」「理由の説明もなく、これが規律だと下ろすことは正しいことなのか?」と疑問を持つ人もいます。ただ、大人も子どももある意味「わきまえ」すぎて、声を上げ、実際に変えるという経験をしていない。

みんなで新しい時代の「校則」を対話的に再検討し、思考し、つくっていきたい。そんな想いで、「ルールメイカー育成プロジェクト」を2019年からスタートさせました。

伝統のある私立女子校での校則改革

この動きは、経済産業省「2020年度未来の教室実証事業」にも採択され、いくつかのモデル校でプログラムを実施しました。モデル校の1つが、広島県にある私立安田女子中学高等学校でした。

安田女子中学高等学校は、女性の教育が重視されていなかった時代に、「女性のために教育の場を」と1915年に立ち上げられた学校です。1945年には原爆投下で校舎が全壊し多くの教員や生徒を亡くすなど、苦難を乗り越えながら、女子教育に取り組んできた伝統のある学校でした。

礼儀作法や掃除、茶道などを通して思いやりや教養を身につけることを大切にしており、制服の着方の指定や髪型の指定、「スマホ持ち込みはダメ」というルール、「プリクラやゲームセンターは保護者同伴」など放課後の過ごし方に関する決まりなど、細かな校則がありました。

春に生徒たち20名で有志メンバーをつくり、入学したばかりの中1・高1をのぞいて全校生徒に校則やルールについてアンケートをとってみると、80%以上が「校則を改善したい」という意見

生徒たちは教員や親へ「今の校則についてどう思うか」をインタビューしたり、ミーティングを重ねていきました。全校アンケートも取りながら見直したい校則の改定案をつくり、先生に提案プレゼンをしながら調整し、春から改定した校則が実施されることになりました。

学校内だけでなく、外部の社会人も交えて話し合う

この取り組みは、学校の教員と生徒、NPOカタリバだけではなく、外部の社会人とともにすすめています。

プロジェクトに参加した1人が、弁護士の山本さん。東京の弁護士事務所で働いている30代で、会社のM&Aや創業期の会社への法的なアドバイスを行っています。その傍ら、複数のNPOでのプロボノ活動にも10年以上携わっており、今回ルールメイカー育成プロジェクトにも参加してくださいました。

安田女子中学高等学校の校則改革は、これまでの校則をがらりと変えるのではなく、これまでの校則を活かした細かい改定案がいくつも出てきました。山本さんは生徒とのワークショップに定期的に参加し、弁護士目線で改定案をフィードバック。

生徒からは、「これまで弁護士と直接話すことなんてなかった。自分たちだけでは気付かない視点がもらえて議論しやすくなった」という声が出てきました。

「最初はあれがイヤ、これがイヤと不満しか言えなかった生徒たちが、だんだん親や先生や他の生徒などの多様な視点を理解しながら提案できるように。生徒が成長していく姿を見られるのが、得がたい経験でした」と山本さんは話します。

1年間の取り組みで、先生にも変化が

また、生徒たちだけでなく、教員にも考え方の変化が見られました。

安田女子中学高等学校の生徒会顧問の先生は、「外部の社会人が生徒を優しく温かく見守ってくれ、時には対等に鋭い意見を伝えてくれる様子を見て、『自分もこういう風に話を聞かないと』と思いました。つい結論を急いでしまったり根拠を求めてしまうところがあったのですが、この1年間で、自分の生徒への関わり方が変わったなと思います」と話してくれました。

最初は先生たちの中にも、「ルールは守らないといけない」「ルールを変えてはいけない」という認識がありました。また、様々な理由で作られた校則やルールの経緯を知らない生徒達が集まって見直すことに対して漠然とした不安を感じたり、自分たちが守ってきた校則を変えることに寂しさを感じる先生もいたそうです。

ルールメイカー育成プロジェクトの導入を決めた管理職の先生は、「『校則を変えないと批判されるから』ではなく、『みんなで良い学校を作りたいから』という理由で、生徒達が中心となって校則と向き合うことができたのは大きかったです。カタリバや外部の社会人の方が伴走してくれたことで、教員と生徒にとって気持ちの良い場作りに繋がったのではないかと思います」と、1年間の取り組みを振り返って話してくれました。

次世代の子どもたちが民主主義をつくる練習を

もし、学校の先生と生徒だけで校則をどう変えるかについて話し合っていたら、「先生はわかってくれない」「生徒がわがままだ」と反発し合ってしまう時もあったかもしれません。

フラットな目線を持った学校外の人がプロジェクトに入ることによって、校則改革が進みやすくなったり、生徒の成長につながるのではないかと私たちは感じています。

既存の校則やルールに対して生徒が主体となり、先生・保護者などの関係者との対話を重ね納得解をつくる。そのプロセスを通して、子どもたちが成長する。こうした体験や活動を、もっと多くの学校で拡げていけたらと考えています。

2021年は、校則改革に取り組む実証事業校を新たに10校募集するとともに、校則改革に伴走していくプロボノの社会人も募集予定です。2月23日にはフォーラムをひらき、安田女子中学高等学校をはじめモデル校の生徒による事例発表や、著書『ブラック校則』が話題の内田良さん、哲学者・教育学者の苫野一徳さんとのディスカッションも行います。

校則というと些細なことに聞こえるかもしれませんが、校則を見直すプロセスは、次世代の子どもたちが民主主義をつくる練習にもなっていくはず。関心のある学校や保護者、教育に関わりたい社会人などと、みんなで手を取り合いながら、学校をもっとイキイキとした場にしていけたらと思います。

認定NPO法人カタリバ代表理事

2001年にNPOカタリバを設立。高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会 委員。著書に「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」(ダイヤモンド社、2023年)」

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