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 長期にわたって多大な投資が必要な研究開発をいかに事業化するのか。多くの企業にとって、研究開発と事業化の間に横たわる、いわゆる「死の谷」をどうやって越えるのかは永遠の課題だ。NTTが2019年夏、研究開発のリソースを結集した次世代情報処理基盤構想「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」を打ち出した。NTTは新構想で、いかに死の谷を越えようとしているのか。IOWN構想の名付け親である同社常務執行役員研究企画部門長の川添雄彦氏に聞いた。

IOWNの名付け親であるNTT常務執行役員研究企画部門長の川添雄彦氏
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IOWNの名付け親であるNTT常務執行役員研究企画部門長の川添雄彦氏
(撮影:日経クロステック)

当初の構想通り実を結んだケースは少なく

 INS(高度情報通信システム)構想にVI&P構想、マルチメディア基本構想、21世紀R&Dビジョン、”光”新世代ビジョン、NGN(Next Generation Network)構想――。いずれも過去40年近くにわたってNTTがビジョンとして打ち出してきた研究開発構想だ。華々しく構想を打ち出したものの、新たなサービスを生み出さずインフラ導入にとどまり、当初の構想通り実を結んだケースは少ない。

 例えば2004年に公表したNGN構想。当初は電話網のIP化と共に、ネットワークの品質制御機能などをSNI(application-Server Network Interface)というインターフェースで一般企業に開放し、新たなサービスを生み出す触れ込みだった。

 だが結果的に一般企業とのサービス共創は大きな成果をあげず、現状でNGNはもっぱら、NTT東西のFTTHやIP電話サービスのバックボーンとしての役割にとどまっている。

 そんなNTTが、NGN構想以来久々の研究開発構想として2019年に公表したのがIOWN構想である。IOWN構想は、低消費エネルギー性に優れた光技術を、Beyond 5G/6G時代のコンピューティング基盤から通信に至るまで活用。現在の世界のインターネットや情報処理基盤を根こそぎ変革していこうという壮大な構想だ。目標とする電力効率は現在の実に100倍。伝送容量も同125倍、エンドツーエンドの遅延も同1/200と極めて野心的だ。

 「これまでさまざまな研究開発構想を立ち上げてきた反省点も踏まえ、IOWN構想では新たなアプローチで進めている」と川添氏は打ち明ける。

 NTTは、今や日本では数少なくなった基礎研究を含めた研究開発を続ける企業だ。国内で3つの総合研究所、北米にも新たに基礎研究をターゲットにする研究所を設け、NTT持ち株会社だけで約2300人の研究者を抱える。IOWN構想は、そんな研究所の開発成果をこれでもかというほど盛り込んでいる。IOWN構想の核となる光電融合技術も、研究所で長年取り組んできた光技術の研究成果だ。

いつ、誰と、どこまでやるのか

 川添氏は「IOWN構想は、いつ、誰と、どこまでやるのか、という3点で、これまでの構想とは異なる」と強調する。

IOWN Global Forumには世界のIT主要企業を含む35社が参画する
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IOWN Global Forumには世界のIT主要企業を含む35社が参画する
(出所:IOWN Global Forumのホームページ)

 まず「いつ」という点で川添氏は、「研究の発明時期と市場投入の時期にはズレがあり、市場化の時期を見極めることがとても重要」と指摘する。