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東京・品川に、宅配便の集配センターと企業ミュージアム、研修施設を複合した建築が登場した。地上5階の荷さばき場まで、外周の車路を集配車が上下し、車路に挟まる形で展示空間などが連なる。

東側の高浜運河越しに見た外観。ガラスのカーテンウオールが斜めのスリット状に開いた部分は、宅配便などの集配車が走行する車路になっている(写真:安川 千秋)
東側の高浜運河越しに見た外観。ガラスのカーテンウオールが斜めのスリット状に開いた部分は、宅配便などの集配車が走行する車路になっている(写真:安川 千秋)
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 全面ガラスのカーテンウオールに開いた斜めのスリットの内側を、見慣れたトラックがそろりそろりと走っていく。ベージュと緑のツートンカラーで塗装された「クロネコヤマト」の集配車だ。スリットの内側にある車路を地上5階まで上り下りする〔写真1〕。

〔写真1〕荷さばき場を街に見せず
〔写真1〕荷さばき場を街に見せず
旧海岸通りに面した西側の正面外観。建物内にはヤマト運輸の集配拠点「宅急便センター」やミュージアム、研修施設などが入る。一般的な宅急便センターとは違って、街に面して荷さばき場を見せず、建物の内側に配置した(写真:安川 千秋)
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 この建物は、物流大手のヤマト運輸が建てた「ヤマト港南ビル」。JR線・京急線の品川駅から南東に歩いて10分弱のところに立つ。品川駅東側の港南地区は、30年ほど前からオフィスビルが次々に立ち、ビジネス街として成長したエリアだ。

 ヤマト港南ビルも一見オフィスビルのようだが、その外観からはイメージしにくい複数の用途が同居する複合建築だ。地上10階建ての建物内には、同社の集配拠点である「宅急便センター」のほか、企業ミュージアムや研修施設などが入る。「一般的な建築では思い付かない組み合わせだが、物流を生業とする会社にとっては合理性の高い複合建築と言える」。設計を手掛けた日建設計の設計部門ダイレクターアーキテクトの渡辺由紀氏はそう話す。

博物館と車路の二重らせん

 ヤマト港南ビルは、宅急便センターや社員寮のあった旧ビルを、老朽化に伴って建て替えたものだ。「当社は2019年に創業100周年を控えていたことから、次の100年につなぐ意味も込め、建て替えの在り方を検討した。その結果、当社の“現場”である宅急便センターと、100年の歴史を伝えるミュージアム、歴史を学びながら社員教育のできる研修施設を併せ持つ建物を計画した」。計画をとりまとめたヤマトホールディングスの森信介氏は、物流を生業とする企業ならではの複合用途の建築になった背景をそう説明する。現在、森氏は人事戦略立案推進機能シニアマネージャーを務める。

 新しいビルは19年9月に竣工した。その翌月に宅急便センターの稼働を始めたが、20年春に予定していた「クロネコヤマトミュージアム」のオープンがコロナ禍の影響で7月2日までずれ込んだ。