シネマコンプレックスを全国展開するイオンエンターテイメント(東京・港)は、座席レイアウトの変更に踏み込む新型コロナウイルス感染症対策を推進している。“ラボ”(実験劇場)と位置づける「イオンシネマ市川妙典」(千葉県市川市)で全9スクリーンを順次リニューアル。工事が最後になった1スクリーンも2021年1月23日に稼働を開始している。
国内最多となる92劇場・785スクリーンを展開する同社は20年7月に「フューチャー・シアター・プロジェクト」を立ち上げ、劇場の改変を前提とする防疫対策の検討を進めてきた。イオンシネマ市川妙典では営業を続けながら11月に工事に着手。座席間隔を広げて各席の間に飛沫防護用パーティションを設置し、併せて空調設備の強化なども実施した。
常に人の間隔が保たれた状態の劇場をつくる
20年4月~5月の緊急事態宣言発出時、対象地域にある各社の映画館は臨時休業を余儀なくされた。5月半ばには、政府の指針に基づいて各自治体が休業要請(感染防止措置)を緩和し、順次再開に向かった。
イオンシネマの場合は以後、AI(人工知能)と赤外線カメラを用いる自動検温装置の全館導入などを進めながら営業してきた。収容率50%を人数上限とする施設の使用制限の要請にも座席の「間引き販売」で対応してきた。
「夏に入る頃、問題が長期化するとみられたので、常に人の間隔が保たれた状態の劇場をつくるべきではないかという案が社内で持ち上がった」と、イオンエンターテイメント東日本運営部の入澤考権部長は語る。
7月には前出のフューチャー・シアター・プロジェクトが発足。安全性や快適性を日常的なものとして継続させる「これからの時代に求められる映画館の在り方」の検討を開始した。プロジェクト推進の主管部署はモデル店舗となるイオンシネマ市川妙典の運営を統括する東日本運営部で、同部の中にフューチャーシアター推進グループを設置して臨んだ。
イオンシネマ市川妙典は、1999年の開業で比較的長い歴史を持つ(13年のイオンエンターテイメント設立まではワーナー・マイカル・シネマズとして営業)。「大幅なリニューアルが前提なので、歴史のある劇場から試みるほうが意味がある。長年のファンの方々からの声が特に重要になる、などの理由から対象として設定した」(入澤部長)
9スクリーン全席に飛沫防護用パーティションを設置
感染症拡大後、劇場関連では全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)が20年5月に「映画館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」を策定。また、イオングループが防疫のための“プロトコル”(実施手順書)を定める動きの中で、同社も独自の「イオンエンターテイメント 新型コロナウイルス 防疫プロトコル」を20年7月に制定した。
それら指針に準拠しながら試みる「実験劇場」としての最大の特徴は、客席レイアウトに表れている。
座席の幅約55cm自体は変わらない。両側に専用の肘掛けを設け、さらに座席間の距離を約10cm以上確保。開いた場所に、高さ約107cmの飛沫防護用パーティションを設置した。また、1列ごとに座席を横に半席分ずらし、真正面(真後ろ)に人が座らない格好となるレイアウトに変更した。同社調べ(20年12月時点)で国内初の対策方法としている。
さらにスクリーン中央部には、「アップグレードシート」と名付けた、よりパーソナル感の高い新たな仕様の鑑賞環境を用意した。横幅と足元で従来の座席の約1.5倍の広さを確保し、両側に高さ約110cmのパーティションを設置。各席にサイドテーブルやバッグ置き場、上着掛けが備わる。ワンドリンク付き、500円の追加料金で利用できる。
空調に関しては、導入する空気の清浄度を全スクリーンで高めると同時に、劇場に備わるもともとの換気性能の高さをアナウンスする機会にもしている。