九州・山口 新年インタビュー

(5)「鉄道事業の効率化と新分野の開拓を」青柳俊彦・JR九州社長

インタビューに答えるJR九州の青柳俊彦社長=福岡市博多区
インタビューに答えるJR九州の青柳俊彦社長=福岡市博多区

令和2年は、新型コロナウイルス感染症への対応に明け暮れた1年だった。コロナそのものというよりも、移動の自粛や感染予防対策などによる影響が大きかった。年半ばには7月豪雨に見舞われ、九州は大きな被害を受けた。災害はこれまでもあったが、肥薩線の被害は非常に大きなものになった。

コロナ禍によって、まさに「人流が蒸発した」と言われる状況になり、お客さまがいなくなってしまった。このため従業員と鉄道を守るため、銀行などから約1千億円を借り入れ、400億円の社債を出して資金を確保した。コロナ禍は第2波、第3波と続き、なかなか去ってくれず、いまなお売り上げは従来の5割を超えていない状況。9月に発表した300億円超となる3年3月期決算の赤字予想を、まだ修正する段階には至っていない。

JR九州グループとしては、これまでもポートフォリオ(事業構成)を広げてきたが、今回のコロナ禍を経験してみると、事業のすべてが「人流」に関わるところにあったということに気づき、反省しているところだ。

それでは、旧年中に何をしたのかというと、平成28年の熊本地震で被災した豊肥線の一部区間が復旧し、4年半ぶりに全線再開させることができた。また、豪華寝台列車「ななつ星」7周年や、新観光列車「36ぷらす3」運行開始のキャンペーンなどを繰り広げた。さらにはJR宮崎駅(宮崎市)前に複合商業施設「アミュプラザみやざき」がオープンするなど、計画していたことは実行できたと思う。

ポートフォリオ拡大

さて新しい年だが、コロナ禍の中で先が読めない状態が続く。ウィズコロナの中で、きちんと事業継続を図っていかなくてはならないと思っている。

これを契機に実現したいことが二つある。一つは鉄道事業を基盤とする事業展開の効率化であり、乗客数の回復がない中でも、持続的な経営ができる体質づくり。一刻も早く実現しないといけない。

もう一つは、得意分野以外への事業展開で、大きな意味でのポートフォリオの拡大、開拓だ。物流やIT分野が考えられる。ただ、不動産や接客といった経験豊かな部分をうまく活用しなくてはいけない。九州を元気にするために、これまでやってきたことをしっかりやる。それに加えて何ができるかということだ。農業部門は昨年ようやく黒字化して、第1段階をクリアした。

在来線は今後協議

長崎新幹線の並行在来線問題はまだ、経営分離という基本論しか決まっていない。ただ、鹿児島ルートをみても分かるように、基本通りにいかないことも現実だ。これから国、自治体、JR九州で協議をして、具体的な方向づけがされる。ダイヤの話はまだ早すぎるが、これまでもきちんと責任は果たしてきており、実際の例を見ていただくと分かると思う。

肥薩線の復旧方法については(熊本・球磨川水系の)ダム建設問題の方向が今年度中に決まるので、その時点になればはっきりする。乗客が少ない傾向はしばらく続くだろうから、赤字路線の問題は、ダイヤ改正を含め、収支改善に向けた根本的な対策が問われている。ただ、運賃の値上げは考えていない。

経費削減策は、以前から計画していた組織見直しや財務関係のデジタル化などをコロナ禍の中で実行している。リモートワークは制度すらなかったが、実現することができた。おかげでコピー用紙は半減できた。コロナが一石を投じたところはある。

コロナに負けない年に

今後の経営見通しは、鉄道を基盤にした会社なので、どの時点で3分の1になった鉄道部門の収益が回復するかがポイントだ。1~2年で戻るものじゃないと覚悟している。3~4年で回復し、さらにコロナ前を上回るような戦略を練っていかないといけない。ウィズコロナの中でも次の中期経営計画で事業を拡大する戦略を練りたい。

3月にはダイヤ改正、4月には熊本駅ビルの開業を控えている。「安全とサービス」を確保しながら収支を改善し、これらの事業を確実に実施したい。鉄道会社としてもコロナに負けない年にして、元気な九州づくりのために頑張りたい。(永尾和夫)

青柳俊彦

あおやぎ・としひこ 昭和28年8月、北九州市門司区生まれ。52年、東京大学工学部卒業後、日本国有鉄道に入り、国鉄の分割民営化に伴い、62年、JR九州総合企画本部経営管理室副長。専務取締役鉄道事業本部長兼北部九州地域本社長などを経て平成26年6月、社長に就任。

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