日本で世界初のカップ麺「カップヌードル」が売り出され、東京・銀座ではマクドナルドの国内1号店がオープンした。日本経済は高度成長を続け、その弊害として水質汚濁などの公害が深刻度を増していた―。

 そんな世相の頃の1971年5月1日、徳島新聞社が主宰する政経懇話会「滴翠クラブ」は産声を上げた。共同通信政経懇話会と提携し、政治、経済、教育、文化など県内各界の指導的な役割を担う約100人に呼び掛けて設立した。

 「滴翠」とは「緑したたる」という意味で、漢詩にも使われる言葉。戦前、徳島市の徳島中央公園内にあった公会堂「滴翠閣」にちなんだ。明治期、県民有志が資金を出し合って建設した滴翠閣は、幅広い分野の情報発信地だった。滴翠クラブも、地域社会の発展に貢献する場を目指し、目まぐるしく変わる内外情勢を学ぶともに、会員相互の交流を目的とした。

 

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 発会式は71年5月22日、徳島市弓町にあった前川記念館で催した。併せて開かれた第1回例会では、この3年後に首相となる阿波市出身の衆議院議員・三木武夫さん、「日本の宇宙開発・ロケット開発の父」と称される糸川英夫さんの2人が講師を務めた。

 以降、新聞放送会館などで原則月1回の例会を重ね、政・財・官で注目を集めるキーパーソンのほか、学者、評論家、文化人、スポーツ選手など各界の第一線で活躍する顔触れが登壇した。

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 吉野川市出身の衆議院議員・後藤田正晴さんは、官房長官時代の87年1月をはじめ最多の計5回講演し、政治の展望について語った。また、池田高校野球部が夏の甲子園で初優勝した直後の82年9月には、蔦文也監督を迎えるなど、時節に即した話題を取り上げてきた。

 拡大例会も何度か開き、東日本大震災後の2014年7月、被災地支援のシンポジウムを福島民報社との共同企画で開催した。徳島市出身の作家・瀬戸内寂聴さん、作家で福島県在住の玄侑宗久さんらが、宗教や哲学、文学などさまざな角度から復興に向けた議論を深めた。

 半世紀にわたって順調に続いた例会だが、20年は新型コロナウイルスの影響で3~6月の例会が中止を余儀なくされた。それでも、会場の座席の間隔を広く取るなど感染防止対策を講じて7月に再開。その後、月2回に増やして例年と同じ回数を維持した。

 設立50年の節目となる21年も充実した講師陣を予定。現在194人を数える会員に、国内外のタイムリーな情報に触れてもらい、コロナ後の時代を読み解く視点を提供していく。