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茨城県境町が国内初となる自動運転バスの定期運行を始めた。運行をシステム面で支援するのはソフトバンク子会社のBOLDLYだ。社長の佐治友基が自ら事業構想を描き「起業」にこぎ着けた。その思いとは。

(写真:木村 輝)
(写真:木村 輝)
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 2020年11月26日、茨城県西部にある境町で自動運転バスの定期運行が始まった。町の中心部を1日4往復走る。自動運転バスの実証実験は各所で進められているが、期間限定のものが多い。境町の取り組みは、公道を含む町中を自動運転バスが定期運行する国内初の事例だ。

 運行をシステム面で支援するのはソフトバンク子会社BOLDLY(ボードリー)である。社長の佐治友基は「技術の力で交通弱者を救う」との理念を掲げ、全国各地を飛び回り、地方自治体や交通事業者などと組んで50回ほど実証実験を重ねてきた。

 佐治の取り組みを聞きつけた44歳の若き境町長、橋本正裕が佐治を頼った。境町は東京都心から50~60キロメートル圏内だが、鉄道路線がない。町内を巡ったり町外の鉄道の駅に向かったりする路線バスも、赤字や運転士不足のために減便の懸念がある。

 2019年末に橋本は「すぐに自動運転バスを走らせたい。実験ではなく定期運行したいが、いくらかかるのか」と聞いた。佐治は半信半疑のまま「5億円ほどあれば」と答えた。橋本は「分かった」と言い、翌2020年1月の町議会で自動運転バス3台分の購入費などを含む約5億円の予算案を通した。

 購入したのは仏ナビヤ(NAVYA)製の電動自動運転バスARMA(アルマ)だ。ハンドルがなく、人が緊急対応する場合もタッチパネルなどで操作する自動運転に特化した車両だ。BOLDLYは日本の車両保安基準を満たすようARMAを改造してナンバープレートを取得した。ARMAを東京都港区や長崎県対馬市の公道で走らせる実験でノウハウも蓄積していた。

 佐治は「自分たちがやってきたことが認められてうれしかった」と振り返る。だが問題が生じた。新型コロナウイルス禍で、運行に必要な自動運転用地図の作成技術を持つナビヤのフランス人技術者が来日できなくなったのだ。諦めかけたところ、2人の社員が「自分たちが渡仏して技術を習得する」と提案した。欧州の深刻な状況から佐治は止めたが、2人の意志は固く2020年8月から渡仏して技術を習得した。