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デザイン思考のファシリテーターは、なぜポストイットを使わせるのか

デザイン思考のファシリテーターは、なぜポストイットを使わせるのか

サンフランシスコ発デザイン会社の公式ブログ
btrax

『デザイン思考のワークショップ』と聞くと、複数の大人たちが壁一面に並べられたポストイットに向き合う姿を想像する人は少なくないだろう。実際、btraxで実施する研修の様子を写真で振り返ろうとすると、思考の経緯を記録するために撮影した“ポストイットだらけの絵面”が大半を占める。

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“design thinking workshop”とGoogleで画像検索すると、ポストイットを使用しているシーンがよく目につく.

しかし、なぜ『デザイン思考』のファシリテーターは、ワークショップの参加者にポストイットを使わせるのだろう?

ポストイットを使うと、誰でも革新的なアイデアが浮かぶようになるのだろうか?カラフルな紙が並んでいると、参加者が退屈しないような場の演出ができるからだろうか?

デザイン思考に限らずとも、ワークショップ会場に行けば、必ずと言っていいほどテーブルに用意されている付箋紙。通称・ポストイット。

ワークショップに慣れている人にとっては、もはやその存在に疑問どころか注目さえもしないかもしれない。しかし、私たちはその特徴を理解し、本当の意味で使いこなせているのだろうか。

そうした疑問から、今回はポストイットが『デザイン思考のワークショップ』で好まれるのかという点に着目する。そして、ポストイットを手にした人たちに何が求められているのかについて、整理してみたい。

“ポストイットの生みの親”である3Mの科学者、スペンサー・シルバーとアート・フライ.功績は計り知れない2人だが、当初は“丈夫な接着剤”を開発しようとしていたという.出典:3M

『デザイン思考』でポストイットが好まれるシーン

普段、同じ会場に集まる形でのワークショップでは、ポストイットのサイズは、一辺が75mmの正方形と、75mm x 120mm の長方形を使用することが主流だ。参加者はいつでもポストイットを手にできる状態にある。

しかし実際の『デザイン思考』を学ぶ研修ワークショップを振り返ってみると、ファシリテーターから参加者へ、全てのワークで常に最優先でポストイットの使用を求めているというわけではない。ポストイットを使うべきシーンと使っても良いシーンがあるのだ。

『デザイン思考』の段階と、btraxのワークショップで使用する主なツールの関係の例.参加者の焦点や議論の特性に合わせ、使うツールには特徴がある.

ポストイットを、最優先のツール・使うべきツールとしているのは、フィールドリサーチ等で情報を収集した後の『分析・統合(定義)』のフェーズである。膨大で雑多なデータの中から、新たな関係性を見出しながら、その後のデザインの発想のためのヒントとなる情報へと編集していく行程だ。

なお、ここで最も使用量の多いツールはポストイットになるが、もちろんそれだけではない。リサーチで得た情報には、様々なものが含まれる。

インタビュー回答者の実際の発言、回答者自身が作成した図はもちろん、リサーチャーによる写真や描写、対象のサービスに関して習得した文献情報や統計情報などがあり、様々なビジュアル化されたデータとポストイットが混在している状況だ。

データ収集後の“リサーチウォール”(出典:d.school) .全体像を把握できるように、得た情報はまず全て、壁一面に並べる.文字だけでなく、イラストや写真なども対象の理解がしやすくなるため歓迎だ.

また、インタビューや観察等を通したデータの収集、プロトタイプをユーザーテストにかけて新たなデータを得る検証のフェーズでも、ワークショップ参加者には、「可能な状況であれば、得た情報の記述にはポストイットを使おう」と伝えている。直後の分析・統合を想定し、スムーズに移行しやすくするためだ。

一方、同じ「紙」であっても、プログラム後半の発想や試作フェーズでは、ポストイットよりも大きいA4サイズの白紙や、切り貼りがしやすい折り紙または画用紙などを推奨することが多い。

もちろん、アイデアの視覚化にポストイットが不向きというわけではないが、どちらかというと、ここで道具を切り替えることで、参加者に“発想モード”あるいは“試作モード”へのスイッチを入れさせる狙いが大きい。

普段からアイデアを視覚化する習慣のない人々には、ポストイットを持たせたままにするよりも、より大きな紙や折り紙などを前にした方が、躊躇なく、手を使いながらアイデアを考える姿勢になりやすい傾向がある。

ポストイットに込められたファシリテーターからの3つのメッセージ

ワークショップの場で、ファシリテーターは、チームのメンバーの表情や熱量などを感じ取りながら様々な働きかけをしている。問いかけや見守り、事例の紹介などに加え、手に持たせる道具にも重要なメッセージが込められている。

もちろん、ワークショップの目的や参加者の特性によって使う道具は様々ではある。が、特に教育や人材育成に重点をおいた『デザイン思考』のワークショップでポストイットを使う際、ファシリテーターが意識してもらいたいと感じていることを3つ紹介する。

①手を動かしながら考えよう

参加者にポストイットを渡すということは、ファシリテーターからの「さぁ、手を動かそう」というメッセージだ。

新たなプロダクトやサービスの設計を進める上では、最終的にアイデアを視覚化した「プロトタイプ」を欠くことができない。

概念図でもスケッチでも、段ボールで作った試作品でも、棒人間のマンガでも、プロトタイプはどんなものでも良いが、他者へ新たな体験や価値を伝えるためには「実際に自分たちの手で作る行為」が必要となる。

しかし、普段手を動かす習慣のない人々のなかには、描く、スケッチする、触れるプロトタイプを作る、というワークに抵抗を感じる人が多い。例え「簡単に・雑に・安く作ること」という心がけを示したとしても、なかなか行動に移せない。発言するだけに終始したり、なかには腕組みを始めてしまうこともある。

その点、ポストイットは、誰にでも気軽に手に取りやすいツールだ。75mm x 75mm など片手に収まるサイズのため、最初は自分の手の上で遊ばせていても良い。触っている間に親近感が湧いてきたり、あるいは予期せぬ使い方を発想することもある。

ポストイットを早い段階から渡すことで、参加者の手の筋肉をほぐし、自らの手で作ることに対する抵抗を和らげていくことができる。デザイン思考の大きな特徴の1つでもある「手で考える」習慣を、徐々に身に着けるために適したツールと言えるだろう。

ワークショップで参加者へ手渡すポストイットとペン.(出典:3M)

②可視化しながら考えよう

2つめのメッセージは、そのままでは流れて消えていってしまうあらゆる情報を、目に見える状態、自分たちの扱いやすい形に変換しようというものだ。そしてその先に、情報を可視化しながら物事を考えることで、自分たちの理解や議論の質を上げるという狙いがある。

チームで新たな製品やサービスを考える『デザイン思考』のワークでは、他のメンバーとのコミュニケーションを最大限に活用しながら進むことが重要である。しかし、インタビューで得た発言は、誰かが書き留めない限り消えていってしまう。また、誰かのメンバーの脳裏に浮かんだ気づきなどは、そのままの実態のない状態では他者と共有することができない。

これらの、言わば液体・気体のような情報を、メンバーで同時に共有でき、その後に手を加えたり変形させることのできるゲルや固体のような状態へと変換するために、ポストイットはとても勝手の良いツールだ。

バラバラな形式だった情報が統一された面に収まり、全体を俯瞰できる状態になると、対象に対する理解がしやすくなる。

また、「ポストイットにはボールペンではなく、サインペンで」と言われた経験のある人はいないだろうか。この“情報の変換”の際、小さなポストイットに太めのペンで書くという組み合わせにも、実は見逃せないポイントが隠れている。

サインペンを使おうとすると、1枚のポストイットに書けるのは自然と10~20文字前後になる。

この時、字数がある程度限られていることで、書き手はよりシンプルな表現を心がけたり、自然と複雑な因果関係などを紙ごとに分けて記述しようとしている。ポストイットに太めのペンで書くこと自体が、対象の理解を助けることに繋がるのだ。

また、読み手である他のメンバーにとっても、多すぎず、少なすぎずというちょうど良いボリュームの情報が1枚ずつに区切られていることで理解がしやすくなり、結果的にチームの議論の質が上がる。

ワークショップの際、参加者へは「1枚に1トピック」を心がけて記述するように伝えている.(btrax_ワークショップ資料より)

③試行錯誤を繰り返そう

ポストイットは、大量に用意することが可能なツールである。もったいないと思わせないことは、デザインを進める上での試行錯誤のための心のハードルを取り払うことができる。

今日のデザイン思考で挑むことの多い“厄介な”テーマでは、チームとして進むべき新たな道を一筋縄に見つけられる類のものではない。特にデザイン思考における上流での、ある文化圏の生活者のもつ独自の暗黙のルールの可視化、従来の製品やサービスをどう体験しているのかの理解、新たなデザインの機会の探索といったフェーズは、多様な視点からの解釈や、情報の深堀りを繰り返しながら進むものだ。

プロジェクトの方向性を左右する鋭いインサイトや、チームを加速させるコンセプトなど、デザインにおいてキーとなるものは、簡単に私たちの目の前に現れてくれるものではない。

壁一面に並べた無数の情報を動かし、常にそれらの背後に隠れたルールを探り、頭と体を行き来する試行錯誤の結果、何枚ものポストイットを積み重ねた先にやっと行き着くことのできる類のものだろう。

こうした一見関連性のない情報の再結合、新たな視点から理解をし直すというシーンで、小分けにされた情報を、平面上で簡単に動かすことできるポストイットは非常に使いやすいツールなのだ。

参考:KJ法.文化人類学者の川喜田二郎が、雑多なデータをまとめていくための手法として考案したもの.デザイン思考の情報の統合プロセスにおいては、一般的にKJ法が活用されている.(川喜田二郎著『発想法』を基に作成)

まとめ

『デザイン思考』のワークショップで渡されるポストイット。そこに込められたメッセージについて、3つの観点から述べてきた。

もちろん、こうした行為がすべてポストイットでなければできないというわけではない。デザインをするなら常にポストイットを使ってください、というわけでもない。

また、人の思考や行動のパターンは、使う道具に左右されることが多いにある。ワークシートを埋めようとするとそれ以外のことを考えられなくなる、という経験をしたことのある人もいるだろう。道具の持つ様々な特徴を理解した上で、効果的に使うことが重要だ。

ただ、ポストイットを手にすることで促される、手を動かしながら考える、情報を可視化しながら考える、そして試行錯誤から新しい概念を見つけ出すという行為は、今までにない新たな価値を探索・実現するデザインという考え方や一連の行為を理解する上で、非常に相性が良い。

ワーク後に、「本を読んだだけでは理解しきれなかったことが、ワークをしている中で体でつかむことができた」という経験談が多々聞かれる。ポストイットは、ワークショップという場を通じて、参加者が「デザインの考え方」を体で理解するトレーニングのため、控えめながらも後押ししてくれるツールと言えそうである。

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