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データに基づく意思決定の価値を理解しながら、なぜ多くの企業が実践できないのか。それを阻んでいる要因は技術力ではない。組織文化である。データドリブンの組織文化をどうすれば構築できるのか。筆者らは、経営トップがみずからの姿勢を改めることに加えて、3つの変革プログラムを実行することが有効だと主張する。


 世界中の企業がデータ、アナリティクス、人工知能(AI)をもっと効果的に活用しようと目指す中、ある大きな障壁によって、その努力が妨げられているケースが少なくない。すなわち、データおよびアナリティクスのケイパビリティと、そこから生まれる優れた意思決定を、真に重んじる組織文化が欠けているのだ。

 だが本稿で示すように、データドリブンの文化を築き、その結果生じる競争上のメリットを得ることは可能である。

 強固なデータ文化を持つ企業では、重要な決定はデータとアナリティクスに基づいて下され、経営幹部は直感や経験よりも、分析から生じた知見に基づいて行動する。アマゾン・ドットコムやアリババのようなデジタルネイティブ企業は強いデジタル文化を持つが、伝統的企業の多くは前進に苦労している。その主な理由は、ほとんどの企業が「望ましい文化変革の達成」を真っ向から目指す取り組みに乗り出さないからだ。

 したがって、次のような結果も意外ではない。2019年にデロイトが実施した米企業幹部らへの調査によれば、自社はアナリティクス重視型ではないと考えてている人は過半数の63%を占め、自社のツールとリソースを通じてデータにアクセスし利用することに自信がないと答えた人は67%に上る。

 経時的な調査のデータからは、問題が悪化している可能性が示唆される。

 一例として、米大手企業を対象としたニューバンテージ・パートナーズの調査では、自社はデータドリブンであると回答した企業は2019年には31%しかなく、2017年の37%から減少している。2019年には4分の3以上が、ビッグデータとAIの施策を事業に導入することは、いまだに大きな課題だとしている。

 ただし、導入を最も阻んでいるのは文化、組織、業務プロセスにまつわる問題だと答えた企業は95%にも上る。技術そのものを問題として挙げたのは、わずか5%なのだ。

CEOの役割

 組織文化を大きく左右するのは、シニアリーダー、特にCEOの姿勢であることは明らかだ。CEO自身が、意思決定と業務改善においてデータに依拠しているのか、いないのか――それが組織全体に対する強力なメッセージとなるのは間違いない。

 とはいえ、初期にCEOの抵抗や意識の欠如が見られても、組織が前進できないわけではない。CEOはしばしばコミュニケーションやリーダーシップのスキルに関して助言を受けるが、データ分野についても同様に、コーチングを通じて意識を高めることができる。

 コーチ役は最高データ責任者(CDO)など社内の推進者でも、社外の専門家でもよい。CEOにとっての以前からの重要事項――顧客中心主義や、従業員への権限移譲など――をデータおよびアナリティクスと関連づければ、説得力が出るはずだ。

 また、データに基づく意思決定の有無に左右される外部要因を指摘するのもよい。たとえば規制上の要件(例:再入院の条件)や、自社よりもデータドリブンな競合他社の脅威などだ。

 新たな文化を目指すにあたり、CEOは目に見える旗振り役となるべきだが、実行上のパートナーが必要だ。その候補としてふさわしいのは、最高データ責任者だろう。

 この役職はますます普及しており、存在感も職務範囲も増している。データと知見をめぐる変革の推進者となり、以降に述べる取り組みを主導するうえで、CDOはうってつけの立場にある。