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深まるEU「東西分断」 バイデン政権誕生で対立加速も

 権威主義化が進む東欧のポーランドやハンガリーが、加盟する欧州連合(EU)との関係を悪化させている。新型コロナウイルス禍で深刻な打撃を受けた国を支援するEUの「復興基金」では、「法の支配」順守を資金分配の条件とする仕組みをめぐってドイツなどとの対立が続く。欧州統合に向け東方への拡大を続けてきたEU内の「東西分断」。トランプ米政権が退場し民主党のバイデン政権が誕生する見通しとなったことも、分断の加速につながる可能性がある。

(ロンドン 板東和正)

「法の支配」で論争

 「われわれの国の主権を根本的に制限する内容だ」

 ポーランドのジョブロ法相は11月16日、記者会見でそう熱弁をふるっていた。

 ジョブロ氏は、EU復興基金の仕組みに怒りを隠せない様子だった。EU議長国を務めるドイツと欧州議会の交渉担当者が、「法の支配」の原則に反する加盟国に対しては、基金からの資金拠出を差し止められるとするルールの導入方針を決めたためだ。

 ポーランドやハンガリーでは強権的な政権の下で司法などの独立が後退している。基金運用に関する方針には、それに歯止めをかける狙いがあった。

 しかし、両国は11月、「経済問題を政治的な議論に結びつけるのは誤り」とし、基金を含めたEU予算の承認手続きに拒否権を行使した。ジョブロ氏は、仕組みを受け入れれば「政治的に(EUの)奴隷にされる」と非難。ハンガリーのオルバン首相も「イデオロギー的な脅迫だ」と強硬姿勢をあらわにした。

 基金の運用開始には加盟全27カ国の承認が必要なため、他の加盟国は頭を抱えた。12月10~11日のEU首脳会議でも両国が拒否し続ければ、来年1月に予定される運用開始がずれ込む恐れがある。基金の規模は総額7500億ユーロ(約94兆円)。コロナ禍で低迷した欧州経済の回復が遅れる懸念が広がった。

 基金の運用開始が遅れれば両国にとっても経済的な痛手となるだけに、ドイツのショルツ財務相は12月1日、「EU内に(基金の運用を)邪魔する愚かな国はいないと確信している」と早期の解決を求めたが、両国は妥協する方針を示していない。「両国抜きで基金運用に向けた手続きを進めざるを得ない」(EU高官)との声もあがり始めた。

東西分断の歴史

 法の支配をめぐるEU内の「東西分断」は今回に始まった話ではない。

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