再エネ主力化 企業活用カギ 電力取引でコスト減
Earth新潮流 日経ESG編集部 高木邦子
10月、日本政府は2050年の二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロを宣言した。実現に向けた方策の1つが、国内のCO2排出量の約4割を占める電力部門の脱炭素化だ。石炭など化石燃料を使用する火力発電所の比率を減らし、太陽光や風力など再生可能エネルギー由来の電力を増やす「再エネの主力電源化」を加速する必要がある。しかし、課題は多い。
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最大の課題は国際的にも割高な発電コストだ。12年の固定価格買い取り制度(FIT)導入時、政府は脱炭素化と産業競争力の両立を掲げた。短期的に再エネ導入に伴う国民負担(賦課金)は増えるが、将来的に国内市場が拡大して発電コストは低下、再エネ産業の競争力も高まるとした。
しかし、FITで導入が進んだ太陽光発電は、現在も発電コストが主要先進国より数倍高く、産業競争力は低迷したまま。燃料費がかからない太陽光発電では初期費用がコストに大きく影響する。日本は諸外国より初期費用が数倍高く、発電コストに影響している。
系統接続の問題も大きい。全国で送電線の容量不足が発生し、系統の増強や既存の系統の効率利用が急務になっている。また、電力の需給バランスの制御が困難になりつつあり対策が必要だ。天候によって出力が変動しやすい太陽光や風力などの再エネ電源を大量に系統に接続すると、周波数や電圧が大きく変動し、最悪の場合には大規模停電を引き起こす可能性がある。
電力の需給バランス安定化の1つとして期待されるのが、仮想発電所(VPP)だ。太陽光パネルや蓄電池、電気自動車(EV)など電力の需要家が所有する多様なリソースを制御して、大型発電所と同様の機能を実現する。IoT(モノのインターネット)を活用した緻密な統合制御で、高度な需給調整が可能になるとみられている。
VPPは地域の分散電源ネットワークインフラとして様々な機能やサービスを実現するプラットフォームになり得る。実際に、自社の強みを生かしたVPP事業に乗り出す企業も出てきた。
東京ガスは長年にわたる地域冷暖房で培ったエネルギーマネジメント技術を生かし、複数の事業所に分散している太陽光発電設備などのリソースをネットワークでつなぎ、送受電量を自動制御するVPPを実用化。NTTグループは全国7300カ所の電話局に太陽光パネルや蓄電池を設置し、VPPとして運用する構想を打ち出した。
「再エネの主力電源化」を実現するには、企業による再エネ活用も不可欠である。利用されなければ再エネ産業は育たず、電力の供給構造も変えられないからだ。
注目すべきは、事業活動の使用電力を100%再エネにすることを目標にする「RE100」加盟企業の取り組みだ。中でもソニーは「40年に再エネ100%を目指す」と発表して、様々な方策を取っている。
20年2月には自己託送制度を活用し、自家発電した再エネを有効利用する取り組みを始めた。自己託送は、自家発電設備を設置する事業者などが発電した電力を送配電事業者のネットワークを介して別の場所にある事業所に送ることである。
ソニー・ミュージックソリューションズのJARED大井川センターに設置した太陽光発電の余剰電力を中部電力の送配電網を使い、同じ県内にある同社静岡プロダクションセンターで自家消費している。発電量と需要の両方を高精度に予測する技術を導入し、高価な蓄電池を使わずにシステムを構築した。両拠点ともそれまで購入していた電力よりもコストを抑えることができたという。
20年11月からは再エネ電源を選択的に購入することを視野に、IT(情報技術)ベンチャーのデジタルグリッドが運営するプラットフォームでの電力取引を開始した。
デジタルグリッドは、再エネを含む多様な電源と需要家が直接取引するピアツーピア(P2P)の電力取引プラットフォームの開発に取り組んでいる。現在可能な電力取引は、日本卸電力取引所(JEPX)からの直接購入のほか、発電企業を選択して電力を調達することという。
ソニーは、比較的電力消費量の少ない事業所で電力取引の新しい仕組みを試し、将来の再エネ発電事業者とのピアツーピアによる電力調達に備えたいとする。
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大和ハウス工業は「自分たちで使うエネルギーは自分たちでつくる」を掲げ、40年までにすべての電力需要を自らつくった再エネで賄うことを目標にしている。
同社の強みはグループに再エネの開発・運営を手掛ける会社があり、20年以上実績を積み上げてきたこと。事務所や工場、商業施設などの自社施設や遊休地などに太陽光発電や風力発電を導入してきた。現在、グループで全国278カ所、合計379メガワットの再エネ発電を稼働させている。
VPP事業参画や再エネ電力の活用など、企業の規模や業態により様々な取り組みが考えられる。脱炭素社会への貢献を考えれば、ESG(環境・社会・企業統治)経営の点からも検討する価値は大いにあるだろう。
[日経産業新聞2020年12月4日付]
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