那覇空港を4日午前11時半ごろに出発した東京行きの日本航空(JAL)904便が正午ごろ、左エンジンを損傷、那覇空港に引き返し午後0時25分ごろ、第2滑走路に緊急着陸した。同機には沖縄タイムス社編集局デジタル部長の黒島美奈子さん(50)が搭乗していた。二つあるエンジンのうち一つでの航行を余儀なくされた同機。揺れや降下で機内には動揺が広がったという。不安に包まれた緊迫の30分をルポした。

■「ドン」という大音量と衝撃

 4日午前11時半ごろに那覇空港を離陸してから20分ほどたったころだ。いきなり、「ドン」という大音量と大きな衝撃を感じた。直後、これまで経験したことのない小刻みの振動を感じた。私は、座っていた後部右側通路の座席から、座席五つ分隔てた左側通路の窓を思わず見た。視線の先には、左側窓際に座る男性が、窓の外を覗き込む姿があった。

 何かがあった。

 鳥が機体にぶつかった? 雷が落ちた? これまで聞きかじった情報の断片が頭に浮かんでは消える。しばらくすると、機内アナウンスが鳴った。

「ただいま、大きく揺れました。いま原因を調べています」

 えっ?「大きく揺れましたが、安心してください」じゃないの? いつもと違うアナウンスで、私はこの時ようやく、トラブルが起こったことを理解した。ここまで、およそ5分くらいだろうか。ふと通路上のモニターを見ると、さっきまで12000メートルだった高度が、5000メートルまで下がっている。50年の人生で初めて死が頭をよぎった。

 再び、アナウンスの声。「左側のエンジンが損傷したようです。機長の判断で那覇空港に戻ることになりました」

■祈るような気持ちで窓の外を確認

 もう一度モニターを見た。数十秒ごとに切り替わる画面に今度は、飛行機の進路図が示され、沖縄本島の北西部の海上を飛んでいることが分かる。飛行機の頭が、海上を左旋回していた。「那覇空港に戻るのかも知れない」。祈るような気持ちで、モニターの高度と、窓の外の景色を交互に確認した。

 機内はガタガタとなる振動音や、時折アナウンスがなるほかは静かだ。遠くから赤ちゃんの泣き声が聞こえた。赤ちゃんも不穏な気配を感じ取っているんだろう。衝撃で、天井から、酸素マスクが降りている座席もあった。

 しばらくして後方から、機内スタッフらしき男性2人が、急ぎ足でやってきた。左側通路席から窓の外を確認しているみたいだ。

 「家族にメモしておこう」とLINEを開いた。機内で発信はできないが、万が一のために。もしかしたら、この便の異常がすでにニュースになっているかもしれない。「いま、飛行機がエンジントラブルで、那覇に引き返しています。たぶん大丈夫だから心配しないでね」と綴った。非常時に残す言葉じゃないが、そんな文しか思い付かなかった。

 そうしているうちに三度目のアナウンスがなった。「機長です。左側エンジンの損傷が分かりました。この機は、ただいま右側エンジンだけで飛行しています。私たちは、こうしたときのために日頃から十分な訓練を受けています。乗客のみなさまは、どうか座席に座ったままでお願いします」

 冷静な声で、語りかけるような口調に少し安心した。この間十数分。乗客に適宜詳しい情報が与えられることで、安心を与えてられている。機内で声をあげるような客は一人もいなかった。

 幾度目かのアナウンスが告げた。「当機はまもなく那覇空港に着陸します」

 右側の窓から、陸と建物が見えてきた。那覇を離陸してたった数十分のことなのに、懐かしい故郷の土地を久しぶりに見たような気持ちになった。

 機体の振動が少しずつ強まり……「バーン」。

 まるで滑走路に機体が叩きつけられるような音がした後、機体は止まった。

 安心した乗客から拍手が起きるかも知れないと思ったが、機内は静まったまま。そのくらい危機迫った状況だった。私は、隣の席の人と小さく拍手した。