VRゲームに知見の深いクリエイター……ということで真っ先に思い浮かぶのが、エンハンスの水口哲也氏。Oculus Quest 2向けとしても、『テトリス エフェクト』と『Rez Infinite』の2タイトルをリリースしている。ここでは、そんな水口哲也氏に、VRに対する思いや、自身が作り上げたVRゲームに対するこだわりなどを聞いた。

水口哲也氏にOculus Quest 2とVRの可能性を聞く。「VRはゲーム体験の楽しさをさらに拡張してくれる」

水口哲也氏

エンハンス 代表

Oculus ストア『Rez Infinite』ページ
Oculusストア『テトリス エフェクト』ページ

ワイヤレスのOculus Quest 2は自由にプレイできる

――今日はOculus Quest 2のことを中心にお話をうかがいにきました。まずは、Oculus Quest 2に対する率直な感想からお教えください。

水口ワイヤレスでこの値段、さらにはこれだけのハイスペックということで、「なかなかすごいな」というのが率直な感想ですね。とくに、コードや特別なセンサーなしにプレイできるという簡易性はすごいと思います。もちろん、これまでにもスタンドアローンタイプのVRヘッドセットは発売されていますが、Oculus Quest 2はスペック的に頭ひとつ抜けていますよね。

――ワイヤレスでありながら、このスペックをこの値段で実現したというのが大きいということですね。クリエイター目線で見ると、ワイヤレスは魅力的ですか?

水口クリエイター目線はもちろんですが、ユーザー目線で考えたときに、線に繋がっていることを気にせず、立ち上がったり動き回ったりが自由にできるということで、ストレスがなくなったと思います。

 クリエイターの立場からすると、VRを座りながらプレイすることを推奨してきたいままでの流れとは、違った段階に入りつつあるのかなと実感しています。VRの楽しみかたや遊びかたが、今後どんどん変化してくことを予感させますし、遊びかたの自由度がどんどん上がってきそうです。

水口哲也氏にOculus Quest 2とVRの可能性を聞く。「VRはゲーム体験の楽しさをさらに拡張してくれる」

――動き回ってプレイできるほうが、クリエイティビティの幅が広がりますか?

水口ゲームというものは、パッドを持ってテレビの前に座るものだけではなくて、身体性を伴うような遊びもありますよね。まさにそれが“ゲームの幅”だと思うので、そう考えるとワイヤレスはプラスでしかないですね。

 『Rez Infinite』の“Area X”がまさにその最たるもので、このモードは、(ゲーム中で)自由に動いたり飛び回ったりすることができるので、ワイヤレスで自由にプレイできるOculus Quest 2のほうが、プレイスタイルとしてより楽しめると思っています。そもそも“Area X”は、そういう風に作っています。僕自身、新しい技術によってもたらされる新しい使いかたに対するインスピレーションはけっこう湧くほうなので、そう考えるとこれから先に僕たちが作るものも、“自由に動き回れるもの”が当たり前になってくる感じはしますね。

――Oculus Quest 2により、VRはいっそう普及が期待できると思います?

水口2016年が“VR元年”と言われて、そこから4年経つわけですが、つぎのウェーブが来ている感じはしますね。回りの人たちの反応を見ていても、“4年前とは少し違うな”という感じはします。4年前は目新しさや新規性からVRヘッドセットを手にした人たちが多かったように思うのですが、今回は“ようやく自分が待っていたものが来た”という方々もいて、ゲームが大好きだという方々とは、少し違う層が買い始めているように感じます。

――Oculus Quest 2はいろいろな楽しみかたがある中で、ゲーム機としての側面が強く感じられましたが、ゲーマー以外の層にも広まっているということですか?

水口その可能性は十分あると思います。

――ちなみに2016年が“VR元年”とのことですが、そこからのVRの普及は水口さんの想定通りでしたか?

水口思った通りのイメージがありますね。最初は興奮気味に扉が開いて、そこですごく好きになっていく人もいれば、すこし離れていく人もいるだろうなと考えていました。ただ、この流れは止まらないと思いますね。これから5年、10年、20年と、ゲーム産業はもっともっと大きく変わっていくだろうし、進化していくでしょうし、さらには、その向こう側にはXR(※)の時代が来ると信じているひとりです。

 XRというのは、VRだけではなくて、AR(拡張現実)やMR(複合現実)も含む世界なのですが、VRはその入り口にあたり、ARやMRも合流して、すべてが共存していくのではないかと思っています。僕もエンハンスもそれに向けていろいろな準備をしていますし、新しい体験を作り続けていきたいです。

※XR……VRやARなど、仮想空間や拡張空間と現実とを違和感なく融合し、これまでにない新たな現実を作る技術

――ちなみに、XRの時代はいつくらいに来ると想定していますか?

水口まずは2030年までには、状況が揃ってくるのではないかと思っています。

――あと10年ですね。

水口僕は、つぎの3~5年くらいで、いろいろなことが始まるのではないかと思っています。

水口哲也氏にOculus Quest 2とVRの可能性を聞く。「VRはゲーム体験の楽しさをさらに拡張してくれる」
『Rez Infinite』。ハッカ ーとなって電脳空間を浮遊しながら、ウィルスを駆逐し、世界を浄化していくシューティング・アドベンチャー。音楽とビジュアルが融合した共感覚的な体験が味わえる。世界中で数々の賞を受賞。

VRにはプレイヤーといっしょに成長しているという感覚がある

――Oculus Quest 2ならこんなことができそうだといった、クリエイティビティを刺激される部分がありましたら教えてください。

水口特別具体的なことではなくて、さきほどもお話したとおり、ワイヤレスで自由なスタイルで遊べるということがすごく大きいと思います。その環境がもたらすものは、とても大きいです。たとえば、寝る前にちょっとベッドで体験するとか、仕事の合間に立ち上がってプレイするとか、使うのがすごく楽ですよね。従来までのように、設定した固定のプレイ環境の前に移動する必要がなくなるというのは、本当に大きいです。

――そういう意味でいうと、ある意味で携帯ゲーム機のように、いつでもどこでも気軽に遊べるということですね。

水口そうですね。気軽に気楽に遊べるのがけっこう大きいのではないでしょうか。

――今後、Oculus Quest 2でのタイトルは予定されていますか?

水口Quest向けということで言うと、5月に『テトリス エフェクト』を出して、10月に『Rez Infinite』をリリースして、その先は現時点で具体的にお話できることはいまのところないのですが、エンハンスとしては、来年に向けて仕込んでいます。これは、Oculus Quest 2に限らず……ですが。

水口哲也氏にOculus Quest 2とVRの可能性を聞く。「VRはゲーム体験の楽しさをさらに拡張してくれる」
『テトリス エフェクト』。おなじみの『テトリス』をベースに、美しい映像と心地よい音楽で新たな体験にいざなう新感覚のパズルゲーム。

――水口さんのクリエイティブの興味の向く先は、VRの延長線上にあるのですか?

水口延長線上にあります。エンハンス自体は、“体験を拡張する”ことをテーマに、いろいろなクリエイターが集まっている会社で、新しいテクノロジーによる新しい体験作りはみんな大好きです。過去に作ったタイトルは、ほとんどVR化していますし、“PCやコンソールでふつうに遊べるけれども、VRではさらにすごい体験ができる”というのが、僕らの好きなスタイルなんですね。『Rez Infinite』も『テトリス エフェクト』も、テレビモニターの前でも遊べますが、VRで遊ぶことでその体験が何倍にもなり、感動も上がるというのが、エンハンスの正統的な作りかただと思っていて、そこは丁寧にスタイルを貫いていきたいです。

――マルチプラットフォーム展開としての選択肢の中に、VRデバイスはマストで含まれているということですね?

水口そうですね。ただVRの体験を作るというのはそんなに簡単なことではなくて、2D的な感覚でVRにすると非常に苦労します。ユーザーさんも楽しくないし、むしろ逆に不快だと思うことが多いですね。僕らがVRを作るときは、細心の注意を払うし、VRに最適化していろいろなチューニングを施します。そのために時間もかかってしまう。だけど、時間がかかっても、そうやって作ったほうがユーザーさんは喜んでくれます。2Dで体験できることとほぼ同じ体験をVRにしても、ただ立体にしただけでパンチがないことになってしまうので、そこは足し算ではなくて、掛け算になるような考えかたで向き合っています。

――VRの開発は通常のゲームに比べ敷居が高くなるということですね?

水口僕らが実際に作った経験で言うと、相当考えて考えて、さらに考え抜かないといけなくて、何度もチューニングを施して、よりよくしていかないと本当にいいものはできないですね。そういう向き合いかたをしてます。

 とはいえ、それは楽しいことなんです。たとえばの話になりますが、もともと作ったゲームを解像度の低いプラットフォームに移植するたいへんさってありますよね。要するに100だったものを70にしないといけないみたいな。VRの場合はそういうことではなくて、100を150だったり300にできるということなんですね。2Dではなくて3Dの体験にして、自由度をプレイヤーに提供して、そのプレイヤーがより感動できる設計に導いていく。それは、いままでの2Dゲームではなかったことですね。

 僕らが展開しているシナスタジア(共感覚)という、音とビジュアルがミックスされた融合体験が、VRになったときに何乗もの気持ちよさを伴うことが、僕ら自身にもわかってきました。それは、解像度というような基準ではなくて、2Dのプラットフォームで四角い画面の中での限定された体験が、立体で触れるという共感覚的な体験に変わったときに、同じコンテンツだったものが、ぜんぜん違ったものになるんです。それは、エンハンスのゲームをプレイしてくれたファンの方だったらわかってくれていることだと思います。

 そういう新たな体験をもたらしてくれるコンテンツを作り上げることはすごく難しいことなのですが、僕ら自身も難しいことに挑戦することで成長し続けているという手応えがあります。前よりもつぎへと、いい作品になっている実感はスタッフみんなの中にある。もっと言えば、僕らのゲームを遊んでくれている方々ともいっしょに成長しているという感覚はあります。

――それはいいですね。痺れますね。

水口一方で、僕らのゲームをVRで遊んでくれた方からは、“もっとこうなってくれたらいいな”という要望があるのを感じています。成長している僕らがつぎに作るものは、ユーザーさんの期待をさらに上を行けるだろうという自信があるので、いままで以上にファンの人たちとのエンゲージメントを深めていけたらと考えています。

 実際のところ、VRコンテンツに関しては、これほどまでにファンの人たちの存在を感じたことが過去にあまりなくて、“いっしょに成長していける”という感覚があります。

――興味深いですね。VRは作るのが難しいとのことですが、作り続けていくなかで、“こういうことが必要”だという要素は何ですか?

水口10月に開催されたFacebook Connectのセッションでもお話させていただいたのですが、セッションでは『テトリス エフェクト』の例を出しました。同作では、最初にいろいろなことを考えて、時間をかけて準備して、ファーストプレイアブルを作ったんです。ところがそれが、ぜんぜんおもしろくもないし、気持ちよくもないという状況がありました。とりあえず、ぱっと組み合わせたてみたけれど、最初に頭の中でイメージしたところにはまったく到達できていなくて……という状態でした。

 通常だと、だいたいそこで皆が落ち込んで諦めてしまうと思うのですが、VRの場合は本当の勝負がそこから始まるので、まさに“VRの奥深さ”ということは言えるかもしれません。VRコンテンツは、あらゆるところにいろいろなチューニングを施していくと、磨きがかかっていって、宝石が光り出すようなものになってくるんですね。

 プレイヤーの“注視点”というものがありまして、ちょっとしたものをずらしたり寄せたり、表示する場所を少し変えることで、注視点を限定はできないけれど、誘導はできるんです。その誘導というのが、ある意味作り手のベースの意図でもありまする。その意図に、皆さんが気持ちよくハマってくれて、僕らの考えている意図とシンクロしたときに、“繋がれる”感じがしますし、プレイヤーの方々もそれをいろいろと探してくれているだろうな思います。

 2Dの世界のときは、限定された世界の中で物事を考えられたところが、VRになると後ろを振り向くとそこにも世界が存在していて……みたいなことがつねにあり続けるのを一人称で体験できるので、だからこそ体験としての強度も非常に強いですよね。画面の外側に客観的にいるのではなくて、自分が存在しているという強烈な体験です。そういう意味では、VRコンテンツはチューニングが命です。

――ある意味で、具体的に明確にこうしたほうがいいというのではなくて、感覚的に少しずつ手を入れていく作業になるということですか?

水口そういった言いかたもできますね。ただし、ゲーム性のチューニングというよりも、体験としてのチューニングにすごく時間を掛けないといけないです。おもしろければ、OKというわけではないんです。

――これは実際に作ってみないと分からない領域かもしれないですね。

水口VRに興味をお持ちのクリエイターの方々は、とにかく作るしかないと思います。皆さんそうしているでしょうけれども。とにかく作って、体験のチューニングを施すことに対してのタスクを、よりいままで以上に持ち続けることではないかなと思っています。

“Area X”のつぎとなる、VRタイトルが動いている

――せっかくの機会なので、Oculus Quest 2で遊ぶことができる水口さんの2タイトル、『Rez Infinite』と『テトリス エフェクト』の魅力を改めて教えていただけますでしょうか。

水口『Rez Infinite』のもととなった『Rez』という作品は、2001年に当時ユナイテッド・ゲーム・アーティスツ(UGA) で作り上げたタイトルで、ドリームキャストとプレイステーション2で出したのですが、非常にイノベーティブなことに当時のスタッフと挑戦しました。いままでの作りかたとは違ったので、とてもたいへんだったのですが、新しい扉を開けたような気がしていたんです。ただ、頭の中のイメージでは360度3Dの自由な世界だったのですが、どうしても当時の3:4の四角い画面に押し込めないといけなくて、それがストレスでもありました。

水口一方で、『Rez』自身の体験はいつまで経っても古くならないだろうという根拠のない自信があって、そのふたつが僕の中でずっとくすぶり続けてました。それで、いつかVRとかの機会が来たときにはいちばん乗りで開発してやろうと思って、VR元年と言われる前からずっと企画を練っていたタイトルです。それで、かつての『Rez』に加えて、いまの我々の体験を作るセンスと技術を注ぎ込んだ、まったく新しいステ―ジを作ろうということでできあがったのが、“Area X”です。“Area X”では、レールシューターだった『Rez』を、完全にフリーで自由に飛び回れるようにしました。

 『Rez』のときは、自由にすると音楽性が担保できるのかという問題があって、結果としてレールシューターにしました。効果音がどんどん音楽化して盛り上がって気持ちよくなっていって、ゲームを遊んでいるつもりが、いつの間にか音楽を演奏していたみたいな気持ちよさを体験するための、レールの上にずっと乗り続けるというゲームの作りだった訳ですね。

 とはいえ、その経験がなかったら、自由に飛び回りながら効果音がどんどん音楽化していくという“Area X”の体験にアップグレードされることは、多分できなかったと思います。いきなり“Area X”にジャンプすることはできなかったでしょう。そういう意味で、僕ら自身も成長しています。新しいメカニズムを発明する力が溜まっていて、それが“Area X”を生み出したんですね。

 『Rez Infinite』では、最初に『Rez』を遊んでから、VRに最適化された“Area X”をプレイすることをお勧めします。とにかく“Area X”を遊んでくださいというのが、Oculus Quest 2のプレイヤーに対するメッセージですね。Oculus Quest 2だと、自由に動き回りながら“Area X”を遊ぶことができます。ワイヤレスで存分にその魅力を味わえるのが、『Rez Infinite』の“Area X”ですね。

水口哲也氏にOculus Quest 2とVRの可能性を聞く。「VRはゲーム体験の楽しさをさらに拡張してくれる」
Oculus Quest 2でさらに存分にその魅力を味わえるという『Rez Infinite』の“Area X”。

――Oculus Quest 2で、“Area X”はさらに楽しめるということでしょうか。

水口そうですね。もちろん『テトリス エフェクト』も立って遊んでいただいてもいいんですけど(笑)、本作も、また違った集中の仕方を必要とするタイトルです。『テトリス エフェクト』も僕らの得意技である、効果音が音楽化していってプレイが演奏に変わっていたという気持ちよさと溶け合っていくタイトルで、皆さんの中にいままでに体験したことがないような新しい楽しさを提供できたと思います。

 『テトリス エフェクト』も、プレイしながら、余裕ができたときに少し回りを見回したいという欲求や衝動に駆られると思うのですが、遊び始めのときって、やはり余裕がありませんよね(笑)。でもだんだん感覚が慣れてくると、余裕が生まれてくる。その余裕が生まれたときに、それまで目に入らなかったものが見えるようになったり、それまで耳に入らなかった音楽が聞こえ始めたりする。それが僕らのゲームの特徴です。

 それって、ゲームが変わっているのではなくて、プレイしている人が変わっているんですよ。皆さんの感覚が開いていって、いままで聞こえなかった音や見えなかったものが見え、理解や経験が深まっていって、プレイがうまくなっていくのを感じると、感動がだんだん入ってくる、という作りを目指しました。

水口哲也氏にOculus Quest 2とVRの可能性を聞く。「VRはゲーム体験の楽しさをさらに拡張してくれる」
ゲームに慣れて周囲を見回すと、また違った体験があるという『テトリス エフェクト』。

――『Rez』は、2001年発売とのことですが、来年の2021年で20周年になりますね。それに向けて何か考えていることはありますか?

水口ああ、言われてみれば! あまり考えていなかったですね。何かやらないといけないですね。

――あら、本当ですか! では、『Rez Infinite』のつぎはいかがでしょうか?

水口僕たちは、「“Area X”はつぎの作品へのプロローグです」と、ずっと言ってきました。だから、そのつぎは必ずやります。そのプロジェクトも僕らの中では動き始めているので、ご期待ください。VRも必ずやりますし、VRでの体験が比重としてより強いものになると思います。僕らとしてもVRでプレイするともっとすごいことになるという体験作りを目指していますし、『Rez Infinite』や『テトリス エフェクト』で反応してくれた方々が作り手として成長して、ユーザーさんに対するプレイアビリティや感動を、いっしょにアップデートできるようにがんばりたいです。

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