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 2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された1年でした。転職市場も例外ではありません。この連載でも、コロナ禍前後での求職者や求人の動向の変動を取り上げてきました。

 今回は1年間の振り返りとして、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年10~12月期、コロナ禍が本格化した2020年1~3月期、緊急事態宣言下の同4~6月期、感染拡大防止と経済活動の両立を模索し始めた同7~9月期と、3カ月単位での求人動向の変動を見ていきます。

 筆者が所属するアスタミューゼでは、市場や専門領域ごとに細分化した約350の求人サイトを運営しています。サイト全体では、新型コロナウイルスの感染拡大が問題化し始めた2020年1~3月にアクセス数が増え、その後は微増のまま推移しました。その中でもどんな領域がアクセスを集めたのか、各サイトに掲載された求人票、登録転職希望者、サイトへのアクセス数(流入数)やキーワードを見ることで、職種や領域ごとの変化を追っていきます。

 まずは求人サイトへのアクセス数、つまり転職希望者の動きについて全体的な傾向を把握しておきましょう。下の表は2020年のサイトへのアクセス数の変化を領域別に整理したものです。2019年10~12月期のアクセス数を「1」として、値の変化を見ています。

2020年、アスタミューゼが運営する求人サイトへの領域別アクセス数の変化
2020年、アスタミューゼが運営する求人サイトへの領域別アクセス数の変化
(出所:アスタミューゼ)
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 1~3月期に流入が大きく落ち込んだのは、「医療・健康」と「航空宇宙・海洋開発」です。コロナ禍前の2019年10~12月期を「1」とすると、「医療・健康」の求人サイトの流入数は2020年1~3月期に「0.55」となり、ほぼ半減しました。全領域中で最も大きな落ち込みでしたが、4~6月期にはコロナ禍前にほぼ戻り、7~9月期には「1.6」と以前よりも増加しています。

 連載の第4回でご紹介しましたが、2020年2~4月にかけて、最も求人数が増えた領域が「医療・健康」でした。それに比べてサイトの流入数、つまり求職者の動きはやや遅れて追随したことが分かります。

 当社の求人サイトの登録者は、「医療・健康」領域の中でも医師や看護師のような現場の最前線に立つ職種より、医療機器のエンジニアや医薬品の研究者などが多くを占めます。

 医療機器や医薬品の研究・開発に対しては、新型コロナウイルスの感染拡大初期に世間の注目や資金が集中しました。そのため、当初は現職にとどまる「様子見」の人が多かったのかもしれません。やがて感染の拡大や長期化が見え、環境によっては業務負担の増加、先行きの不安が高まり、転職を意識する人が増えたのではないかと推測できます。

 逆にコロナ禍が本格化した直後に急増したものの、その後下降したのは「農業・食品工業」と「ネット・サービス」です。

 他の領域の求職者の流入数については、以下のようにまとめられます。

●ほぼ変わらなかった領域(微増または微減):「汎用」、「エレクトロニクス」
※「汎用」は「研究職」向けサイトや「設計職」向けサイトなど特定領域に当てはまらないサイト

●上昇傾向の領域:「食糧・水・土壌・資源」「モビリティ・ロジスティックス」「生活・文化の拡張」「未来を創る技術分野」「情報通信」

●下降傾向の領域:「都市・空間・材料」「エネルギー」「航空宇宙・海洋開発」

 「都市・空間・材料」や「エネルギー」「航空宇宙・海洋開発」のようなインフラ系の技術・専門職は新型コロナウイルスの感染拡大がむしろ「現職にとどまる」方向に影響しているようです。インフラ系の職種は比較的時流や景気の影響を受けにくいため、新型コロナウイルス感染症流行のような今後どうなるか予測しにくい事態が起こると、しばらく現職のまま様子を見る傾向が出てくるのかもしれません。