本命テーマは「DX」 社会課題の解決が鍵(岩谷渉平)
カリスマファンドマネジャーの眼(下)
国内中小型株ファンドの運用において、長期間にわたって市場平均を上回る成績をあげているカリスマファンドマネジャーは、ここからの相場をどうみているのか。「カリスマファンドマネジャーの眼」の第2回は、「DIAM新興市場日本株ファンド」(想定する運用規模の上限に達したため、現在は販売を一時停止中)を運用するアセットマネジメントOne・岩谷渉平ファンドマネージャーの視点を紹介する。
──コロナショックにかかわらず、年初来60%超の好成績です。
2019年末の段階では、「BtoB SaaS」関連の銘柄を主軸にポートフォリオを組んでいました。それが今般の「有事の相場」で、一定程度見直されたものとみています。
BtoB SaaSとは、クラウド経由で企業にサービスを提供し、利用状況に応じて料金を受け取る事業モデルのこと。顧客の要望に応じてサービスをアップデートしたり、課金方法を変えたりできるのが特徴です。
その本質は、「お客様を成功に導くことを大切に、結果として、取引を続けてもらう仕組み」と捉えると分かりやすいと思います。顧客の要望に合わせてサービスを変化させることで、より深く顧客とつながり、そのサービスから離れにくくする。だから、BtoB SaaSの企業を評価する際は、サービスの「継続率」を注視していました。
一方で新型コロナは、生産も消費も移動も、あらゆるものを「停止」させてしまった。その状況で、継続するための仕組みであるBtoB SaaSが浮かび上がるのは必然だったと言えます。
もっと長い時間をかけてこのモデルの良さが浸透していくと思っていましたが、新型コロナという外的なストレスでその有効性が図らずも証明された。BtoB SaaS企業の成長はこれからさらに加速すると思います。
──他の注目テーマは。
DX(デジタルトランスフォーメーション)に注目しています。特に、金融、行政、教育、医療、ライフスタイルなど、これまで情報投資が出遅れているとされてきた分野でDXに関わる企業が有望とみています。特に、今の組み入れ上位には、社会課題の解決を図る企業が多く入っています。
──ただBtoB SaaSやDX関連は収益が付いてこない銘柄も多数あります。PERが100倍を超える銘柄もあり、割高感も強いですが。
これは歴史を振り返って研究するのがいい話です。先の、SaaSやDX投資については、20年前の米国と似ている部分があるのではないでしょうか。当時「高過ぎる」と言われていたアマゾン・ドット・コムや、先行投資により赤字を継続していたセールスフォース・ドットコムは長期的な目線で見ると偉大な企業に成長を遂げました。当時の米国社会が抱えていた課題を解決してきたことも見逃せません。目先のバリュエーションだけでは、その全容はちょっと見えづらいことがあります。
──アマゾンのような勝ち組になる企業を見抜くのは難しく、技術の優劣も個人投資家には判断しにくいですが、どうすればいいでしょう。
個人投資家にお勧めなのは、「薄く広く買う」戦略です。例えば、医療の課題が解決されると思ったなら、エムスリーもメドレーもWelbyもメディカル・データ・ビジョンも、有望な銘柄を一通り買ってみる。そして、株価の動きや業績をウオッチして、納得できた企業を残していくといいでしょう。
――新興市場の上昇は続くでしょうか。
長年、日本ではグロース株が活躍しないとされてきました。しかし近年では、新興市場も期待された役割を発揮しはじめているように思います。例えば東証マザーズ市場に上場する企業の資金調達も進んでいます。IPOだけではなく、ライフネット生命保険、ユーザベース、メドレー、BASEなどは、海外での大きめの金額の資金調達などにも成功しています。この市場の果たす役割も、少しずつ増してきたのではないかと見ています。
(市田憲司)
[日経マネー2020年12月号の記事を再構成]