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ホーキング博士から“ファンタビ”の魔法使いまで、英国俳優エディ・レッドメインのすべて

繊細な演技で難役を次々とこなすエディ・レッドメイン。彼の生い立ちと作品をプレイバック!
ホーキング博士から“ファンタビ”の魔法使いまで、英国俳優エディ・レッドメインのすべて

若手有望株から演技派のスターへ

いまやハリウッド映画は英国人俳優に支えられていると言ってもいい。『英国王のスピーチ』のコリン・ファース、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のゲイリー・オールドマンといったアカデミー賞受賞俳優から、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディ、『SHERLOCK/シャーロック』でブレイクしたクセモノ俳優ベネディクト・カンバーバッチ、マーベル映画の悪役で人気のトム・ヒドルストンなど個性豊かな実力派が、両手でも数え切れないほど勢揃いしている。

その層の厚さは、新人から大御所まで英国俳優が総出演した『ハリー・ポッター』シリーズでも実証済みだが、近年の注目株といえば、そのハリポタに続く“魔法ワールド”シリーズである『ファンタスティック・ビースト』の主演に抜擢されたエディ・レッドメインだ。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』より/AFLO

Warner Bros/Courtesy Everett Collection

2011年の『ハリー・ポッターと死の秘宝』で10年にわたる全8作が終了した『ハリー・ポッター』シリーズだが、『ファンタスティック・ビースト』は、その前日譚となる全5作のシリーズである。ハリポタの生みの親である作家、J・K・ローリングが新たに送り出した “魔法ワールド”であり、彼女自身が脚本も手がけている。

2016年に公開されたシリーズ第1作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』の始まりは、1926年、つまりハリポタの時代より70年ほど前。ホグワーツ魔法魔術学校の指定教科書である『幻の動物とその生息地』(ちなみに、この本は実際に出版されている)の編纂者である魔法生物学者、ニュート・スキャマンダーの壮大な冒険譚だ。ニュートはイギリスの魔法使いの設定だが、ストーリーは米・ニューヨークを舞台に展開する。

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』より。レッドメインが演じる主人公ニュートとキャサリン・ウォーターストンが演じるティナ

2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. Harry Potter and Fantastic Beasts Publishing Rights ©J.K.R.

メガヒット・シリーズの待望の新作ということで大きな期待が寄せられる一方、ホグワーツ魔法魔術学校やハリー・ポッターをはじめとする主要キャラクターがほとんど登場しないことから、当初は熱狂的なファンである“ポッタリアン”を取り込めるか危惧する声もあった。しかし蓋を明けてみると、全世界で8.5億ドルを超える大ヒットを記録した。

2018年11月5日、ニューヨークで『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』キャストたちと一緒に。左からダン・フォグラー、カラム・ターナー、キャサリン・ウォーターストン、アリソン・スドル、レッドメイン/Gettyimages

Cindy Ord

その成功の立役者ともいえるのが、主役のニュート・スキャマンダーを演じたエディ・レッドメインである。

ニュートは異形の魔法動物たちに愛情を注ぎ、5大陸にわたってその生息地を訪ね歩き、習性を観察するオタク気質の学者。子どものような純真さをもつ彼はまさに新しい“ヒーロー”であり、繊細な演技に定評のあるレッドメインにしか演じられないキャラクターだ。2018年に公開されたシリーズ第2作『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』には、ジュード・ロウジョニー・デップといったスター俳優たちも参戦したが、彼らに勝るとも劣らない存在感を示し、その実力を証明した。

2006年、『グッド・シェパード』プレミアの際のレッドメイン/Gettyimages

Ron Galella

難役をこなす演技力

銀行の頭取を父にロンドンに生まれた彼は、名門のイートン校(ケンブリッジ公ウィリアム王子は同級生)を卒業後、ケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進む。大学在学中に、舞台『十二夜』でプロの俳優としてデビューしたが、スクリーンに初登場したのは、ロバート・デ・ニーロが監督する『グッド・シェパード』(06年)だった。1961年のピッグス湾事件を背景にしたスパイ・サスペンスで、レッドメインは、マット・デイモン演じる敏腕CIAエージェントとアンジェリーナ・ジョリー演じるその妻の息子として登場する。自らもCIAエージェントでありながら、愛に走って図らずも祖国を危機に追いやってしまう、という青年役だった。

また、実際に起こった殺人事件を元にした『美しすぎる母』(07年)では、共依存関係に陥った母(ジュリアン・ムーア)を愛憎の果てに殺してしまう息子を演じた。主演のミッシェル・ウィリアムズがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた『マリリン7日間の恋』(11年)では、撮影のためロンドンを訪れ、マリリン・モンローと束の間の恋に落ちた撮影助手を演じている。

初期のレッドメインは、その演技力から若手有望株と注目され、また2008年にはバーバリーのキャンペーンに起用されるなどしたものの、スターといえるほどの存在感を示せる役には恵まれなかった。

『レ・ミゼラブル』より。コゼット役のアマンダ・サイフリッドと/AFLO

James Fisher

そんな彼が一躍脚光を浴びたのが、大ヒットミュージカル『レ・ミゼラブル』(12年)である。ジャン・バルジャン役にヒュー・ジャックマン、彼を追い詰めるジャベール警部にラッセル・クロウを配した2大スターの共演作だが、バルジャンの養女であるコゼットの恋人、マリウスを演じたレッドメインは、そのロマンチックな役柄で大ブレイクを果たす。彼の個性でもある“線の細さ”が功を奏したのだろう。

2014年に撮影された、ホーキング博士とレッドメイン/Gettyimages

Karwai Tang

32歳で主演した理論物理学者、スティーヴン・ホーキングの伝記映画『博士と彼女のセオリー』(14年)では、難病ALSで余命2年と宣告されながらも、研究に情熱を傾けたホーキング博士を演じ、第87回アカデミー賞主演男優賞を受賞するに至った。ホーキングの人生の中でも、最初の妻であるジェーンとの愛と別れを描いたこの映画は、徹底した役作りに加え、レッドメインの繊細な感情表現が最大限活きた作品だったと言えるだろう。

『リリーのすべて』より/AFLO

翌年は、男性として生まれたものの、世界初の性別適合手術を受けて女性として生きることを決意したリリー・エルベを題材とした『リリーのすべて』(15年)で主演を務めた。本作でレッドメインは、2年連続でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされている。男性として生きていた主人公が、妻の理解と献身に支えられながら自分らしい生き方を追求する。葛藤のなかでトランスジェンダー女性として生きる決断をする旅路は、俳優として、肉体的にも精神的にもタフな仕事であったことは間違いない。

30代前半は役柄にも恵まれ、充実したキャリアを築いたレッドメインは、2016年には大英帝国勲章OBEを受賞、同年には高校時代からの友人だった妻との間に女児を授かった。公私ともに順風満帆だ。

 『シカゴ7裁判』は現在Netflixにて独占配信中

最新作は『ソーシャル・ネットワーク』で知られる名脚本家のアーロン・ソーキンが自らメガホンを取った『シカゴ7裁判』(20年)。1968年にシカゴで開かれた民主党大会で暴動を企てたとして起訴された7人の被告人(シカゴ・セブン)を題材にした作品で、被告人のひとりであり主役でもあるトム・ヘイデンを演じている。コロナ禍により劇場公開はキャンセルされNetflixでの配信となったが、すでに賞レースの有力候補として名前が挙がっている。