NTT再結集に待った! 通信28社がドコモ完全子会社化に意見書

武田良太総務相(春名中撮影)
武田良太総務相(春名中撮影)

 KDDI(au)、ソフトバンク、楽天など通信事業者28社は11日、NTTによるNTTドコモの完全子会社化に対する意見申出書を武田良太総務相に提出した。総務省は米国や中国の巨大IT企業に対抗するためにもNTTグループの再結集を容認する姿勢だが、競合他社は公正な競争が阻害されることなどを懸念し、巨大NTTの復活に待ったをかける。

 28社はドコモの完全子会社化をめぐり、政策議論を公開で実施することや、公正な競争環境の確保のためのルール整備を要求した。趣旨に賛同する事業者は計37社にのぼるなど、通信業界に反発が広がっている。

 旧電電公社が前身のNTTは昭和60年に民営化された。63年にNTTデータ、平成4年にドコモと事業ごとに分離が進み、11年に持ち株会社がNTT東日本・西日本やNTTコミュニケーションズを束ねる現在の形に再編された。

 独占的なNTTを分割して通信市場で圧倒的なNTTの支配力を抑え、競争を促してきたのが従来の政府の姿勢だ。それだけに今回の完全子会社化は「NTTの独占回帰につながり、公正な競争環境が失われ、利用者利益を損なう」と11日の会見でKDDIの岸田隆司理事は強調した。

 例えば、超高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムでは、基地局同士をつなく光ファイバー回線は基盤設備としての重要性が高まっているが、NTT東西が75%のシェアを握りほぼ独占状態だ。NTT東西とドコモの経営が一体化すれば5Gで戦略的な優位性が高まり、競合は太刀打ちできなくなると懸念される。

 一方、NTT側は、NTT東西には光回線を携帯事業者に同じ条件で提供しなければならない厳格な規制が課され、それを順守しているので問題ないと反論する。ドコモへの出資が66%から100%になろうともNTT東西とドコモの関係は変わらないとの見解だ。

 「なし崩し的に認められることはあり得ない」(ソフトバンクの松井敏彦渉外本部長)との反発もある。政府はNTTの独占排除のため、ドコモ分社化の際は出資比率の引き下げを求め、平成13年には閣議決定も行っている。競合他社にはかつての決定が何の議論もないまま、覆されたように映る。

 これには、NTT側は市場環境の変化と国際競争力を前面に打ち出す。米巨大ITが今やデータセンターや海底ケーブルなどの競合分野に進出するなど通信事業に侵食する動きをみせており、NTTグループの総力を再結集しなければ戦えないと主張する。

 ドコモの完全子会社化をめぐっては、政府も「かつてと環境が違う」(武田総務相)、「問題は考えにくい」(公正取引委員会の菅久修一事務総長)と静観の姿勢だ。すでにNTTが今月16日を期限にしたドコモ株のTOB(株式公開買い付け)も進行中で、KDDIなども意見書を出したところで「TOB自体を止める手立てはない」(岸田氏)ことは分かっている。

 もはや勝負あったという情勢にもみえるが、それでも競合他社は、NTTによる競争政策の一方的なほごと、政府によるなし崩し的な規制緩和を看過できないとのスタンスだ。総務省も意見書の提出を受け、有識者会議での議論などを実施せざるを得なくなる。公の場での議論でNTTグループに関連した競争ルールの整備やその厳格な運用を求めることで、NTTの独占回帰に楔(くさび)を打ち込むのが落としどころになりそうだ。(万福博之)

会員限定記事会員サービス詳細