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「トランプとバイデン、どっちがいいと思う?」

 最近、こんな質問をされる機会が増えてきた。私の本業である調達・サプライチェーンのコンサルティングで顧客先に出向いたときの雑談だ。製造業の今後の戦略は、米大統領選から大きな影響を受ける。

 米中の経済戦争や米国製造業の国内回帰などが、製造業の現場を悩ませている。中国製を採用してよいのか、それとも国内製を検討すべきなのか。中国向けの売り上げは、どう計画すべきか。米国の出方によって変わってくる。

(出所:ezps/PIXTA)
(出所:ezps/PIXTA)

 こんな声もある。

「どっちでも構わないけど、トランプの方がいい気がしてきた。あの人は、大統領になるために何でもやるビジネスマンでしょう。それなら、大統領選に勝ったらそのまま中国とディール(取引)を続ける気がする」

 なるほど、全てが大統領選のための人気稼ぎとすれば、大統領に再選された後は態度を急変させるかもしれない。中国・華為技術(ファーウェイ)への制裁も、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の禁止も、中国との取引材料として使うかもしれない。

「バイデンとか、民主党の人はガチでしょう。でも、トランプの行動は分かりやすい気がする」

 私は政治学者ではないので、イデオロギーの戦いには興味がない。私は実務家として、トランプ氏とバイデン氏のどちらが日本の製造業にとって好都合か考察したい。トランプ氏の政策は既に広く知られている。そこで、日本のテレビ番組などではほとんど取り上げられることのない、バイデン氏の政策について紹介する。

意外だったバイデン氏の主張

 結論から述べる。私はバイデン氏の政策を読み、同氏へのイメージを大きく変えることになった。同氏が当選しても、今とほとんど変わらないかもしれない。できれば、実際の政策集をごらんいただきたい。

 サイトのタイトルに「Made in All of America」とあるのは特筆に値することだ。私は、トランプ氏の「壁」に対し、バイデン氏はグローバリゼーションによる経済繁栄をうたうのかと思っていた。しかし、どうやらそうではないらしい。

 バイデン氏の主張で気になったのは以下のポイントだ。

  • トランプ氏は「Buy America」を勧めていたが、バイデン氏によればそれは甘く、もっと徹底すべきだと指摘している。バイデン氏は自分の施策を「Buy America Real」だとしている。
  • トランプ氏はむしろオフショアリングを進めてきたとし、米国人労働者の仕事を増やすように労働者権利保護を訴え、むしろ製造業を保護強化せねばならないと主張している。米国の製造業について何度も言及し、事業活性化を果たすとしている。サプライチェーンも米国に回帰させるとした。それをバイデン氏は「Supply America」と呼んでいる。
  • 軍隊についても海外サプライヤーへの依存率が高まっているので、引き下げたいとしている。とくに、政府調達においては、「Made in America」と書かれた商品でも、構成原価の多くが海外製の場合があるとし、これを厳格化したいとしている。具体的には、本質的な価値を付与する工程が米国にない場合、「Made in America」とは認めず、国内企業への転換を図りたいとする。
  • 通信、AI、インフラ、先端材料、バイオテクノロジー、製薬などの分野で米国製が多くなるように推進していくとした。一方、中小企業であっても、古びた工場を刷新するための資金調達が容易になるように試みるとし、控除枠も拡大するとした。これはトランプ氏の政策が海外投資を積極的に仕向けるものだと断定した上で、それに対抗する施策としている。

 気になる中国への対応はどうだろうか。